殺すよ、面倒くさいもん

@compo878744

第1話 新しい世界

裁判が始まっていた。

誰のかって?俺のだ。

俺は旅人A。アルファベットのAだ。

俺は昨晩ヤオキの街に到着した。

宿を取り、宿の酒場で晩飯を食い、そのまま就寝した。

昨日は山越えをしてこの街に来たんだ。さすがにちょいとくたびれた。


真夜中過ぎ、突如衛兵が寝ている俺を取り囲んだ。

「うるさい、疲れてんだから朝まで起こすな!」

衛兵に何の要もない俺は一喝して再び寝ようとした。

ら、取り押さえられて牢屋にぶち込まれた。

けど、面倒だから取り押さえられて引きづられて牢屋にぶち込まれるまで基本的に寝ていた。


衛兵共は俺に殴る蹴るの暴行を加えてきたが、俺自動のスキル「反射」で、衛兵共の暴行は全て本人に返って行った。

中には剣で刺した奴もいたらしいが、俺に刺した所と綺麗に同じ所に、本来なら俺に付く傷が全部本人に帰ってしまい死んだ者もいたらしい。

俺は寝てたから知らないけど。

終いには宿の部屋の衛兵が全滅したらしい。

俺は寝てたから知らないけど。

何故か腕を骨折したり、足がちぎれかけりした数人の衛兵が宿の主人に助けと応援求め、俺はベッドごと牢屋に運ばれて行ったらしい。

俺は寝てたから知らないけど。


で、起きた時は牢屋の中だった。

なんか一緒に牢屋に入っていた人相の悪そうや奴が2~3人死んでて、隅っこに何人かが小さくなって震えてた。

「おはよう。」

「…」

挨拶くらいしろよな?

「…」

ちぇ。反応無しか。

さて、ここ何処だ?

夕べは少しだけ酒飲んでさっさと寝ちまった筈だな。酔っ払らう前に寝たから、宿から外には出てない筈だけど。

牢屋に入れられる事してないけどなぁ、この世界に来たの昨日だもん。


俺はワタリと呼ばれる異世界から異世界へと巡る旅人。

元々は地球の日本でのんびり会社員やってたフツーの人だった。なのにある日、自宅でくしゃみしたら別世界に移転した。理由?そりゃ俺が聞きたい。

幾つかの世界を巡り、幾つかの世界の神々と会って、幾つかの願いを聞き入れ、また新しい世界に渡るワタリだ。

神々との願いを契約という形で果たすと、その度にスキル(祝福)を貰い、また新しい世界で契約を結ぶ。

なんでそうなったから知らない?だから俺が聞きたい。

神々に教えてくれと言ったが、あいつらにも分からんらしい。神は一つの世界を統括するもので、他所の世界の事なんか存在も知らないらしい。


「よくもおめおめと帰ってきたな。」

男の声がした。勿論初対面だ。

知らない奴、しかも男に無礼な口をきかれる覚えもないので、異次元ボックスから朝飯を取り出した。

何時ぞや何処ぞやの神に貰ったギフトで、俺が考えるだけで物が生産出来、永久保存出来る謎ボックスらしい。

神々と付き合っていると物理も常識も倫理もどうでも良くなる事がしょっちゅうだ。


確かに、地球の創世神話なんか女女女女、女なら近親相姦上等!なんて話が世界中にあったしな。


などとカツサンドとドリンクヨーグルトの朝食を手早く済ませていると男が激昂し始めた。

「誰が飯を食べていいと許可した!此方を向け!トマソン。」

そんな超芸術外国人選手みたいな名前じゃないから、無視してそのままベッドに寝っ転がった。

「巫山戯るなトマソン!コッチを向け。」

うるさいなぁ。耳がキンキンするじゃねえか。

「けたたましいぞホワイト。俺の寝る邪魔をするな。」

「誰がホワイトだ。誰が。」

「誰がトマソンだ。誰が。」

「貴様、俺を馬鹿にしているのか。」

「聞かないと分からない様なら、お前は相当の馬鹿だ。ホワイト。」

「貴様!この俺を何処まで馬鹿にする気だ!」

バチっと音がして、雷撃が飛んできた。なるほど、この世界は魔法があるのか。

「ほれ。」

反射を使うまでも無く、親指一本を微妙に動かしただけで軌道を逸らす。あーあー可哀想に。

さっきまで牢屋の隅で震えてた何人かが黒焦げになってるよ。この牢屋の中俺以外は全滅じゃん。


「キキキキキ!」

おう、カレー大好き3番目かな?

「貴様!何をした!」

「何にもしてないよ。あんたが勝手に電撃を流して囚人を皆殺しにしただけだ。ホワイト。あんたが何者か知らんけど、俺の評価はただの下衆な殺人鬼だ。今まで何人殺して来て、これから何人殺すのかな。人として最悪の事ばかりしやがるなホワイト。」

「俺はホワイトではない。この国の衛兵隊長トカワだ。畏れ多くも王弟殿下の側近のな。」

「ふーん。」

「鼻をほじるな!本来なら貴様如きに会う必要もなかったんだが、貴様夕べ何をした?」

「寝てた。」

「巫山戯るな!ならば何故衛兵があんなになる!」

「つうても本当に寝てたしなあ。起きたら牢屋ん中だ。」

「貴様、貴様、」

「あと一つ言っとくぞホワイト。俺はトマソンとか言う名前じゃねぇ。昨日この街に初めて来た旅人だ。牢屋にぶち込まれる覚えも無けりゃ、王弟殿下だか皇帝陛下だか敬う必要も一切ないタダの外国人だ。もし俺に害なそうとするなら、それなりの覚悟はしておけ。」

「ふん、口だけは相変わらず良く回る。けどな、お前は我が国で手配されていた極悪人だ。今日の午後には裁判が始まる。その後即刻死刑が行われる。それなりの覚悟はしておけ。」

おやおや、「てんどん」が出来るくらいは頭が回るらしい。

ずかずかと鉄格子の前から消えていった。

おいおい、死体はこのままかよ。


やがて、もう一度鍵が掛かる音がすると、ホワイトの笑い声が響き渡った。ふーん、音の反響からすると、ここは地下なのかな。別に地下だろうが空中だろうがどうでもいいんだけどね。牢ごとぶっ壊せば良いだけだし。

このまま裁判になるのも面白そうだ。あの調子じゃあ最初から死刑判決は決まっているんだろう。

トマソンというのがどんな奴から知らないけど、俺が暴れた責任を全部押し付けよう。あ、しまった。だったらトマソンじゃない事は否定しなけりゃよかった。

さてと、それまでは暇になったな。今までのパターンからするとどっかでいい加減な神が出てきて、何やら仕事の契約を交わす事になるんだろうけど、一晩経ったら犯罪者になっているのは初めてだ。

あと半日とはいえ、ここを住み易くしようか。

死体は取り敢えず目障りだから異次元ボックスにしまっておくか。で、絨毯を敷いて壁紙を石造りの壁に貼り付ける。

天窓からの光だけじゃ薄暗いから、シャンデリアを釣って蝋燭を沢山立てておこうか。


昼過ぎ、俺を迎えに来たホワイトと衛兵達は多分王宮よりも豪華な調度品に囲まれてコーヒーを飲んでる俺に度肝を抜かれていた。みたい。

先程みたいに憎まれ口一つ叩かず、ただ俺に木の手錠を嵌めて牢屋から連れ出した。

「なんで牢屋の中がこんな事に?」

ホワイトがわざわざ牢屋の中まで入って眺めていたが、面倒くさいから全部回収した。

瞬きする間も無く元の石造りの牢屋に戻ってしまった事に、

ホワイトは絶句したまま立ち尽くしていた。

おい、ホワイト。早く裁判始めなくていいんか?

極悪人トマソン(俺)に昨夜から殺された(自滅した)者が沢山いる恐怖に、衛兵達はおっかなびっくり俺を連行し始めた。あ、一人俺を突き飛ばそうとして自分が壁に突っ込んで気絶した衛兵がいたからかなぁ。

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