第51話 教員彩々(ゴリゴリ熱血教師 4)
何か余計なものが口から転げ落ちそうになるのを懸命に抑えながら、少々投げやりにそう吐き捨てて、私はどうにか自分の席へ戻った。
私が強引に幕引きしてしまったものだから、歯に何か挟まったような表情のクラスメイトたちも黙って席につく。
結局のところ。
このやりすぎ教師を私はかならずしも嫌いというわけじゃなかった。
きっと彼が間違っている時はずいぶんと多かった。
だけど、突き詰めれば彼の最後の砦にはいつも必ず信念と正義がちょんと残っていたし、それらはくじけることも恐れることもなく、私たちと向き合おうと苦しんでもいたんだ。
彼には相手を選ばず話を聞く耳が生えていたし、難しい関係などしっかり無視して皆を平等に見る目もくっついていた。
そして、間違いをそのままにできない小さな誠実さが胸のあたりに必死にひっついていた。
もちろん、いくらマコが優しくて「もういい」なんて口にしていても、今回のことは私の中では理解できない常軌を逸したできごとだ。
なにを錯乱していたのか知らないけれど、ゴリラ先生のしたことは全く許されるべきことではないと胸のうちには深く刻み込まれていたし、グラグラした怒りを吐き出したくて、彼に叩きつけてやりたくてたまらなかった。
だけど、そんな身勝手で強烈な正義感は私だけのものなんだ。
仮にそれが道理にかなっているものだったとしても、私の生き方にマコを巻き込むべきじゃない。
だって、マコの心が平穏を取り戻せない・・・救われないことになれば本末転倒なんだ。
幸か不幸かこの教師は、失敗したことに蓋をし自分に都合のいいラベルを上に貼ってしまうプライドを固めて作ったような人間じゃない。
それなら、今ここで彼が責任感をもってやり直そうという機会を潰してしまうのは間違っている。
正直言って、ゴリラ教員がこのことで贖罪の機会を失って後悔を抱えて生きていくことなんか、知ったことではない。
荒み切った大人以外なら幼児だってはっきり納得できる。
自業自得だ。
だけど惨いことに、他の誰かがどんなにマコを慰めたって、ゴリラ先生がつけてしまったマコの見えない傷は、ゴリラ先生本人以外にちゃんと最後まで治せる人はいないんだ。
もしマコが少しでも嫌な思いをしたなら、その時こそ止まってやる必要なんてない。
学校中が大騒ぎになるくらい大暴れして罵ってやればいい。
これ以上ないほどグラグラした熱の塊を無理矢理飲み込んで、私はどうにか文句を吐き出すことなく席につくと、さっさと机に突っ伏した。
通りすがりの何人かが私の肩を軽く叩いて行くのが温かくて、「マコはきっともう大丈夫だ」と感じた途端、勢いよく顔に熱が上がる。
恥ずかしいことなんだけど、なんといっても私は正真正銘の泣き虫なんだ。
こんな時に泣くのが凄くカッコ悪いなんてことは誰よりもわかりきっているのに、やっぱり我慢なんてできなくて。
その日最後の授業は何を習ったのかなんてとても覚えてない。
声を殺してぐちゃぐちゃに泣いてしまってたからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます