第50話 教員彩々(ゴリゴリ熱血教師 3)
結局、この後は授業どころじゃなくなってしまった。
マコと私はカズやみっちゃんにこっそり隠されながら、大騒ぎしているクラスメイトたちと担任を背に、二人で体育館を抜け出して教室へと戻った。
服を着てすっかり身支度を整えた私は、まだすすり上げているマコが着がえを終えるのを待って、その腕を引いた。
「保健室、行こう」
「どうして」
「腹、痛いんだろ。さっきから抑えてるじゃないか」
驚いたように私を見つめるマコの目が真っ赤で、私はなんとなく目をそらした。
黙ったまま手を引くと、マコは素直についてくる。
格好悪い話。
実はこの時の私は別にマコの異変に敏感だったわけじゃない。
自業自得なんだけれど、緊迫感のある尋常じゃない状況に自分をさらしたりしたものだから、私自身が緊張で胃の辺りを冷たく強張らせてしまっていたんだ。
スマートに最初から気づいてやれたら恰好よかったんだけど、恥ずかしいことに自分がそんなことになってようやく、「マコは大丈夫だろうか」と思い至ったというわけだ。
マコを保健室の先生へ預け、私は教室へ戻ったけれどまだほとんどのクラスメイトはもどってきていなかった。
カズとみっちゃんが近寄ってこようとしたけど、まるでドラマかなんかのような絶妙なタイミングでナミちゃんご一行が到着した。
もうすぐにチャイムが鳴る。
次の授業が始まるこんなころになって、酷くとがった空気のままようやくほとんどの子供たちがもどってくると、ほどなくして担任が教室に姿を現した。
なんだか気の毒なほど小さくなっていて、普段のようなフツフツとマグマが湧き出すような恐れ白砂覇気はすっかり鳴りを潜めてしまっている。
凍り付いたように気まずい沈黙が波紋を広げると、少ししてゴリラ担任は叫ぶように声を張り上げた。
「さっきは悪かった。俺が間違ってた」
シクシク痛む胃の辺りをなぜながら、ぼんやり担任を見つめていると、彼は勢いよく頭をさげ、床に染み込んでしまうような低い声でうめくように続きを口にした。
「マコにもあやまってきた。すまん」
「マコは?なんて?」
「許してくれたよ」
「よかったじゃん。マコ、もういいって言ったんでしょ?」
気まずそうに担任がうなずく。
「それじゃ、この話はおしまいだ」
今でこそ私はどんなにもめてしまった相手も一瞬で心の内をすっきりと洗い流して以前通りの態度で過ごせる厚かましさがある。
私の連れの怒りを備長炭の炎と例えるなら、私は1200wの電子レンジだ。
けれど、幼い時の私は全くそんなわけにはいかなかった。
一瞬で火が噴き出してしまうほど怒りは爆発してしまうし、そうなってしまえば大抵の場合、1日のうちに鎮火することはできなかったんだ。
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