第23話 みっちゃん 3
水滴が波紋を作る様に、教室が一瞬で静まり返る。
とにかく、みっちゃんが私の名を口にしたことだけは間違いない。
それに、彼が酷く困っているのは見てすぐにわかっていたから、首をひねりながら私は笑顔で口を開いた。
「俺に用?ごめん。もしかして俺、何かした?」
私の言葉に、みっちゃんが静かに首を横に振った。
「違うの?」
コクリとうなずくみっちゃんは、なんだかいつもよりも透き通って眩しく見えるのに、ほんのり赤く色づいていて綺麗だ。
「・・・・・・
私はハハッと明るく笑った。
恐らく私のことを誰が好いていて誰が嫌っているのか、話のタネにでもして盛り上がってでもいたんだろうと思ったんだ。
当時はクラスの人気不人気者ランキングなんかを作るのが凄く流行っていたしね。
「ありがとう。嬉しいよ」
「そういうのじゃない」
「ん?」
「俺が好きな子は・・・特別なのは、
教室の中に、頭が痛くなるほどの甲高い悲鳴が巻き起こった。
ナミちゃんグループの子たちは全員その場で叫び声を上げ号泣し始める。
「お前・・・」
カズって呼ばれているみっちゃんと仲の良いクラスメイトが、彼の腕を掴んで引きずるようにしながら教室の外へ出ていった。
なんだ?今の・・・・・・。
顔が火が付いたように熱い。
頭の先から胸のあたりまで血の色みたいに赤くなってるのが自分でもわかるくらいだ。
こんな風に心を込めて「好き」だなんて言われたのは生まれて初めてのことだったから、私の頭の中は一瞬でぐちゃぐちゃになった。
中も外も喧騒でかき回されながらも、なんとかまともに今のこの状況を考えようと必死になる。
ふいに私の頭の片隅をみっちゃんの困った顔がかすめ、一気に冷静になった。
みっちゃんのあんな哀しそうな顔を見るのはごめんだ。
きっと何かがみっちゃんを傷つけていて、皆の前であんなことを言わなきゃならないくらいに限界だったんだ。
自分がそれを取り除く役にたてるなら、好きでも嫌いでも全部、みっちゃんの好きにしていい。
返しきれないほど大切な気持ちを零れ落ちちゃうくらいもらってきたのに、今までずっと、ただ守られるばかりだったんだ。
とにかく、みっちゃんが戻るまでに教室の騒ぎを収めないと、担任にまで睨まれてしまう。
私は好き放題に暴れまくっている心臓をどうにか抑え込み、一呼吸おいてから笑い声をあげた。
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