キング・スタッフ
俺には心配があった。
恐れていた……!
変身という不思議現象ではお約束のデメリット。変身後の姿や精神に引きずられて、俺そのもの、言わば『魂』とか『何とかティティティ』が変質する恐怖……判りやすく言えば、変身したまま身も心も元に戻れなくなるかも、って心配だ。
だからこそ……俺は変身後の股間点検を止められなかった。なぜかそこに異変が起きるような気がして。ガ〇プラ
キユウだって? フィクションと現実の混同だって? いや、現実に(笑)俺の意識は変身のときに少し変わってる自覚がある。
そして、今回。
センケーゲの倉庫で
新たなる変身
どうしてこうなった。
ああ……その理由も俺には判ってるんだよな。
被害も尻尾だけに収まるはずがない。だって俺自身が現に『長時間変身すれば元に戻れない』と思ってるんだ。
ふざけんなっ(泣)!
「陛下」
ああ……
「陛下、陛下……」
おまけに、あんな約束までしてしまった…… 義妹リーズを助けた後でいいとは言え、約束の地だってぇ? 民とシロカゲには悪いけど、そんなもん、あるわけないだろ!
……えっ、俺いま『民とシロカゲには悪いけど』って……そう思ったのか?
「陛下、よろしいですか」
「お、おおう、何だ、シロカゲ」
「目標らしき……小ぎれいな鎧と小ぎれいなローブを身に着けた、ふたりの娘を見つけた者がいるようです」
「何っ!?」
早っ! 探すの早っ! しかもその情報をここでキャッチできるなんて……
俺の民とシロカゲ、超有能だぜ!
「どこだ、どこにいる!?」
「街はずれの高台にある屋敷……ゴブリン族ホンゴの
「ホンゴ……」
たしか、センケーゲの裏の顔役だったな。
ヤバそうな相手だ……でも、関係ない!
「いくぞ、シロカゲ! マヌーも頼む!」
「そろそろ眠くなってきたニャ」
「そこを何とか!」
<< normal size <<
王たる者の資質とは、何か。
その問いかけを、ゴブリン族の巨漢、ホンゴはいつも
その答えのひとつが、目の前にあった。
今は物言わぬ
王たる者。
それは、顔色ひとつ変えずに役立たずを切ることができる者だ。
ホンゴは自身の三つ揃いスーツに汚い紅が飛んでないことを確認すると、ぶるぶる震えながら呆然と立ち尽くすゴブリン族のメイドに、おだやかに声をかけた。
「男衆を呼んで、これを片付けさせなさい」
「は、はい!」
足をもつれさせながらも駆け出そうとするメイドの背中に、ホンゴはまた声をかけた。
「ああ、ワインをもう一本持ってきておくれ。今日は祝いの日だから。……驚かせてすまなかったね、かわいい同胞よ」
同胞。それはホンゴが同じゴブリン族を
王たる者の資質とは、何か。
ゴブリンとしては普通の体格……大人だがニンゲン族の子どもの大きさであるそのメイドの背中を見送り、ホンゴはまた思った。
その答えのひとつは、大きいことだ。
ネズミにも天才がいるように、ゴブリンにも大男がいる。ホンゴは生まれながらにして同年齢のハッカイ並みの体格であり、母の
ホンゴはボトルに残っていたワインをすべてグラスにあけると、その巨体を趣味のいい椅子にあずけた。持ったグラスを通して、床に転がった眼球と目が合った。せっかく収まった怒りが、また燃えあがったような気がした。
まったく…… なぜ。
なぜ、この愚か者は、妖精なんか知らない、などと言い訳をしたのだ? 妖精が実在しようがしまいが、こいつが私の顔を潰したという事実は変えようがない。くだらない理屈を並べずに、やってしまったことをただ謝ればいいだけなのに!
いや、せっかくの祝いの日だ、もう愚か者のことは忘れよう。それもまた王たる者の資質でもあるのだから。
高級ワインを味わいながらゴブリン族はそう思い、自身の太い首にかかる白銀の首輪を撫でまわした。美しきハイエルフ様より
美しきハイエルフ様は、どれだけ欲しいものがあっても決して自分からはお求めにはならない。だから私のように、その言葉の端々からその望みを読み取ることができる者だけが、あの方々に気に入られることができるのだ。
やっと、ここまで来た。
冒険者として身を立ててからというもの、殺しつくし、奪いつくし、ついにはセンケーゲの代官や冒険者ギルドまで手中に収めた。そして……
王となる日が来たのだ。
もちろん、この利口なゴブリンは、王といえども頂点に立つ者ではないことは判っていた。大昔の
ホンゴはあらためて自身を祝った。
この首輪を身に着けている限り、私はあらゆる王族や貴族と対等に接することが許される。私に逆らうヒト族はいない。それは実質、王そのものだ。たとえ、今はまだ顔役と呼ばれていても……!
忘れはしない。
若かりし頃、気まぐれに入ったあの占い婆の館で私は天啓を受けた。若手の中では最も優秀だという……確か名前はドロシィと言ったか……ニンゲン族の娘が渡してくれた紙に予言の言葉が浮かびあがったのだ……
「貴方はヒト族の王になる運命です。ネズミの王に殺されない限り」
ネズミの王など、いる訳がない。だから私は、王となる運命なのだ……!
絶対に。
>> small size >>
「も、もうダメにゃ」
港町であり坂の街でもある、センケーゲ。
海辺に近い倉庫街から高級住宅街である高台まで駆け上がったケットシー族は、ついにちから尽きて突っ伏した。
ふたつの月明かりに照らされたここは目的地のホンゴの屋敷、常緑樹が並ぶ登り坂の私道を抜けて着いた裏門らしき場所、そのすぐ近くの植え込みの中だ。俺っちはダチ公の鼻先に飛び降りた。
シロカゲたちについてく、って理由もあるんだけど、他の移動方法だともっと遅くなったはずだ。もうこいつには感謝しかねえよ。
「……マヌー、ありがとうな」
「ふん、たいしたことはしてないニャ。おいらはここでしばらく休ませてもらう……あ、そうそう、リュックを渡しとくにゃ」
「それは拙者がお持ちいたしましょう」
シロカゲが魔包リュックを背負った。俺っちと違って本物のネズミの体格なのに、どこまでも器用なヤツだ。
「この建物には地下牢があり、特職女たちはどうやらそこに監禁されているようです」
「生きて……いるのか、ふたりとも?」
「そのようです」
地下牢……フツーの家にそんなものあるはずがない。やっぱり、カタギじゃないんだな、ホンゴってゴブリン族は。それなら遠慮なんかいらないな。
「よし、突撃だっ!」
「クライン」
振り返ると、シャルル・ブーツを履いた両足を投げ出して、おっさん座りをしたマヌーが右手を突き出していた。その握った手から親指だけが立ち、猫爪がピン!と伸びていた。サムズアップだ。
「死ぬにゃよ」
「おう」
俺は同じ様にサムズアップで応えると、ネズミたちと共に駆けだした。
先導は偵察ネズミからの報告を受け取っているらしいシロカゲだ。庭を横切る途中で何人もの冒険者らしきヤツらとすれ違った。魔灯ランタンを振り回して、なんだか誰かを追っているかのように慌てて走り回っている。そのせいか、それともネズミだから気にも留めないのか、俺っちたちは何の障害もなく進撃する。
庭園を走り、馬小屋の脇を通り、壁の割れ目を抜け、床下、天井裏を駆けて……
待ってろよ、ブ
もうすぐ助けてやるからな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます