何がクラインに起こったか?

 たちは盗賊に襲われている!


 馬車に閉じこもり、反撃の狼煙のろしを上げるため、FBライフルの照準を敵に向けたまでは良かったが……


 ここに来てゴブリン娘のブが、魔力供給をためらいやがった!


「もし撃ってしまったら……また殺してしまったら……ご主人さまはまた……苦しんでしまうのでしょう?」


 外部からの魔力供給がなく、超高燃費の僕自身の魔力だけでこれを撃ったら……魔力が欠乏して、僕はバラバラ死体になっちゃうかも知れないだろ!


 それでも何とか彼女を説得して、やっと魔力が伝わってきたのを確認した僕は、大声で叫ぶ!


「FBライフル、発射ーっ!」


 とてつもない魔力が、僕に伝わって……

 伝わって、伝わって……


 げえっ、何じゃこりゃーっ!




 そのとき、僕に何が起こったか。




 後から思い返すと、これはすべて数秒のうちに起きたことだった。死にかけた僕が引き延ばされた体感時間で、一瞬のうちに経験したことだ。


 そもそも魔力自体が体感的なものだがら、フツーは説明するのは難しい。だけどガ〇プラ形態モードの僕には、蒼いバイザーに投影されたMPマジックポイントバー表示が見える。ホントは見えているように見えているだけの脳内情報だけど。


 その、MPバーが。


 ギュギュギュギュギューンッ!


 脳内効果音と共に真っ赤な満タン表示になり、そのすぐ隣に並んで別の真っ赤なMPバーが出現し、そのすぐ隣にまた別のMPバーが、そのまた隣に……


 バイザー全体が真っ赤に染まった!


「おぉい……」


 そのとき、馬車の外、敵のリーダーらしき声が聞こえてきたが、僕はそれどころじゃなかった。すぐ、とんでもない状況が……


 僕を襲ったのだ!



 それは。

 あくまでもイメージだけど、例えるなら。



 前世日本での、寿



『何やってんの、来てないよ!』


 注文した寿司がぜんぜん来ないので、クレーマーみたく思わず奥の厨房に向かって怒鳴ったら……


『ドバババーン!』


 突然、壁が吹き飛び、その向こうから。

 何十トンもの寿司が津波のごとく押し寄せてきた、ような。


 いや、寿司じゃない。

 これは魔力だ。


 魔力の洪水だっ!


 ほかほかの、すべすべの、ぽよよんの、いい匂いのするピンク色の、僕を挟み込むブの巨乳から、津波のように大量の魔力が押し寄せてくる!


 ブの魔力はあっと言う間に僕の全身を満たし、それどころか身体の穴という穴から溢れ出し、あたりの空間に、魔力が渦巻く嵐の海を造り出す……!


 お、溺れる~

 い、息ができない!

 し、死ぬ。

 い、くぅ~


 魔力に溺れて、死んじゃう!


 似たようなピンチは、経験済みだ。ハイエルフの白い塔に殴りこんで(笑)、浄火砲クレンジング・キャノンの主砲に張り付いてしまったときだ。今もあのときと同じように、魔力の圧が僕を押さえつけてる。トリガーから手を放すこともできない! 


 試してみたけど、苦しすぎて別モードへの変身も変身解除もできない~

 確定的に明らかにデンジャラスっ!


「ちょ、ちょっと、おま、やめ」


 ブを制止しようと、上を向いた僕が見た光景は……


「えっ」


「あっ、あっ、あっ、あっ……」


 なぜか甘い吐息を漏らす、

 刺青のある白い顔を真っ赤に染めて、

 とろんとした目つきで、

 ぴくっぴくっ震える美少女の姿……


 だ、だめだ!


 なんでだかよく判んないけど……

 ぜんぜん聞こえてない!


 しかも。

 事態は、さらに悪化した!


 グオオオォォォンッ……!


 ラ、ライフルが起動してるぅ!

 咆哮のように脳内効果音をあげながら!


 発射の掛け声だけでトリガー引いてない、つまりまだ魔力ダブルタップした覚えがないのにぃ! それとも、苦しくて振り回した楊枝がどこかを叩いたのぉ……!?


 ああっ!


 車体から突き出したライフルの先端に、

 もうFBファイヤー・ボールが発生してる~

 しかも、莫大な魔力がつぎ込まれて、

 勝手にどんどん大きくなるぅ!


「ヒヒーン!」


 お尻のすぐそばで異変を感じ馬たちが、

 立ち上がり、いななく……


 ピンポン玉の大きさから、

 テニスボールの大きさに膨れ、


 テニスボールの大きさから、

 アンデスメロンの大きさに膨れ、


 ボウリング玉の大きさに、

 バスケットボールの大きさに……


 グオオオォォォンッ……!


 どんどんどんどん怒張する!


 その燃える死のカタマリは……

 魔力が強すぎるせいで……


 目標も何も指定出ない、撃てない。

 何もコントロールできない!


 このままじゃ……

 ここで、爆発!?


 えっ、えっ、えっ。

 この大きさじゃ……

 馬車ごと、粉々に吹き飛ぶぞ!



 どうにか、



 どうにかこの魔力の流れを……


 コントロール、

 制御、しないと……


 えっ?



 僕の、


 それなりに大きいけど、

 ブに比べれば、

 はるかに小さな魔力で!?


 小さな、小さな……



 小さな魔力ちからで!?






『このような仕組みによって、トランジスタ素子は小さな電流でも大きな電流を制御し、また増幅が可能となるのです』





 そのとき。


 僕の脳裏に。


 走馬灯なのか。

 追い詰められて発現した潜在能力か。


 前世日本で見た、動画が流れた。


 たぶん小学生向けの、

 キホン的なカガク技術を解説する、アニメーション動画。


 ふたつの箱の図の片方に、電子を表すマイナス記号が大量にうごめく。

 ふたつの箱の間の仕切り……絶縁体が、箱の横から流された少量のプラス記号によって、導体……電子を通す状態に変化する。これが半導体だ!


 そして大量のマイナス記号は隣の箱に移動する……大量の電流になる。

 動画に添えられたナレーションが響く。


『このような仕組みによって、トランジスタ素子は小さな電流でも大きな電流を制御し、また増幅が可能となるのです』


 トランジスタの解説動画……!

 

 これだ……

 これしかない!


 僕は、必死でイメージする。

 電子の流れを、魔力に置き換えて。


 ガ〇プラ形態モードは万能工具だ。


 だからと言ってスマホとかPCとか、

 ましてやスーパーコンピュータに、

 変身できるはずもないけど……


『スマホの基盤には、トランジスタ素子が何億個も入っています』


 前世の日用家電の、

 フツーの電子回路にも使われる、

 ありふれた、無数の、

 小さな小さな道具……


 そのひとつくらいになら、なれるはず。

 いや、絶対なれる!


 僕はトランジスタだ……

 トランジスタになれ!


 小さな小さな、

 でも、大きな大きな能力を持つ……

 トランジスタに!


 そう。


 ガ〇プラ形態モードは、

 変身する……

 がトランジスタだ!



 変身!



 見かけはどう変ったか判らないけど、


 さあ、いくぞ!


 美少女のドでかい魔力に、

 俺の小さな魔力をねじ込んで、

 ぶち破れ、秘められた仕切りを、

 制御しろ、征服しろ、

 ちからよ、ほとばしれ、

 たけりくるう武器へと!



 届いたか……?



 反応あった、貫いた!

 制御可能だっ!


「目標、盗賊ども、出力、そのまま!」


 すうっと息を吸い、そしては叫ぶ!


撃てぇーっファイヤー!!!!」

 


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「おぉい、短小のネズミ大王ラッテンクーニッヒどの! 俺たちだってヒマじゃない。そろそろ覚悟を決めろぉ! 殺されたいのか!」


 ニュタルの町の冒険者ギルド、その若頭わかがしらの脅しに、答えるかのように。


 獲物の馬車の小窓から突き出た、ぶるぶる震える望遠鏡の先端に、何か光の球のようなものが膨れたのが見てとれた。


「おいおい、いよいよ漏らすかあ?」


 そばに立つイスキィの軽口に、冒険者たちはまた笑った。しかし、いくつものオーガ場を潜り抜けてきた若頭は、恐るべき違和感を抱いた。


 まさか、あれは……?


「ヒヒーン!」


 獲物の二頭の馬が、いななき、立ち上がる。その間から見える光の玉はみるみる怒張し、そして歪んだ。引き絞られる弓のように。


 ついに若頭は気付いた。あれは望遠鏡なんかじゃない。ありえないほど珍しいが、ファイヤー・ボールの魔法杖マジック・ワンドだ! すかさず若頭はイスキィの髪をつかむと、うろたえ暴れる男をそのまま怪力で持ち上げて、光の玉へ向けてかざした。


 おのれの盾にするために。


 次の瞬間。


 短小と嘲笑あざわらったはずの獲物から、青筋を立てていきり立つ馬たちの間隙を貫いて、灼熱しゃくねつの極太な砲撃が放たれた。それは、盗賊たちの粗末な矢よりも、はるかに強く、そして激しかった。


 ドォォン!!


 冷たい空気を押し割って、轟音が響いた。


 盗賊集団に命中して爆発したファイヤー・ボールは、彼らを粉々に吹き飛ばした。たまたまボールの中心部にいた者の身体は、一瞬の内にほとんど炭化していた。爆風をまともに受けた街道に近い木々は、雷が落ちたかのように裂けた。


 盗賊どもの後ろに控えて、獲物の進路を塞ぐように側面を見せていた盗賊の馬車は、爆心地から離れていたのにもかかわらず大破、横転した。ゾクの愛馬たち(本当に愛していたら悪いことに使わないはずだろ、とクラインなら言うかも知れない)は、馬具をつなぐ皮ひもが燃えちぎれたおかげで、それほど傷つきはしなかったが驚いて気絶し、倒れ伏した。




 しばらくして、若頭は意識を取り戻した。


 彼がまだかろうじて生きていた理由は、もちろん、哀れなイスキィを身代わりにしたためだった。全身が傷んだ。たぶん無事な部位は何ひとつないだろう。うめき声をあげながらまぶたを開いてみれば、赤く染まった視界に、ヒト影を見た。


 影の姿はよく見えないが、おそらくあの獲物たちだろう。この惨憺さんたんたる現場を歩き回るのは、まだ生きている者にとどめを差すためだろう。


 それは、当の若頭自身が他ギルドとの抗争で、何度も繰り返してきた行動でもあった。例によって例のごとく。


 やがて、ヒト影たちは若頭のそばまでやって来た。


 足音やその声は聞こえなかった。耳も手足も働かなかった。それでも、若頭は最後のちからを振り絞って、かすれた声で、命乞いをした。彼自身が、何度も無視してきた台詞で。


 助けてくれ、殺さないでくれ、俺には妻と三人の子がいる。


 朦朧もうろうとした頭でとにかくそう言った。かつて彼には、そんなふうに情けにすがって命拾いをした成功体験があった。


 相手が邪悪であればあるほど、それを許す優しき自分に酔う。そんなふうに頭がシダ花畑のかたがたは、ナッハグルヘンだろうが異世界チキュウだろうが、どこにでもいるものだ。


 もちろん、若頭は後で、彼を助けた相手を家族ごと始末した。冒険者は舐められたら終わりだからだ。例によって例のごとく。


 グシャ。


 聞こえないはずの耳で、若頭は何かの音を聞いた。それは彼の頭蓋骨が、中に詰まっていた汁を噴き出して潰れる音だった。


 小さき者クラインが言うところの、汚い反社汁はんしゃじるを。


 

>> small size >>



 いったい、どうしたんだ。

 自動回復魔法は働いてないのか?


「おい……どこか痛いのか?」


 変身を解除して客室の床に降り立ったは、倒れたブの顔を間近で見つめた。白い肌のゴブリン娘は、まだ、うつろな緑の瞳に紅い頬で、ぴくぴく震えながらひゅーひゅー荒い息をついていた。ちょっと無理させたかなあ。気付けば、俺も鼻血が出てたもんな……


 だけど、このコの様子って……

 んんっ、なんかエロっぽい。


 こんな非常時に、弱って倒れた美少女に魅せられてる俺って最低かも、と自分でも思う。男だから多少は仕方ないと思うけど……


 はじぃよぉ。


 俺はサイズ差のせいでノーマルなプレイはムリだけど、ベリーハードなエロハラを思い付きはするんだよな。だけど、その想像の内容は自分でもドン引きするレベルなので、ヒドい命令ができる特職が相手でも実践はしない、と思うんだ。たぶん。


 ど、童貞だからじゃないぞ! 


「ありゃりゃ~ このコ、イケナイこと覚えちゃったかもね」


 フレーメがブを見てそう呟いた。

 えっ、何を覚えたって?


「ブはおいらが見てるから、クラインはフレーメとあいつらの様子を見てくるにゃ。もしまだ生きてるのがいたら……」


「判ってる」


 おかんマヌーは、俺を教育しようと思ってるんだろうな……


「じゃ、ご主人さま、こちらへどうぞ」


 フレーメは俺を雑につまみ上げた。


「痛たたっ、もうちょっと優しく持て」


「あ、ごめん~」


 そして、その爆乳の谷間に俺を落とした。


 ん? うーん。


 まあ、何と言うか。確かにフレーメのほうがデカいよ。大きさも形もたいしたもんだよ。揺れるし、見ごたえは最高だ。すべすべしていい匂いもする。だけどね、その感触タッチはブと比べちゃうと、大重量を支える筋肉もあって固めなのだよ。そもそも機能的な面で評価するなら、これがフツーだって判ってるけど魔力が人並みに少なくて、しかもヌルくて甘さが足りないんだよな~


 こういうアメ車みたいに大味なのが好きなヒトにはたまらんとは思うけど、意識高めの俺にとっては何というか、QOOキュー・オー・オーつまりクオリティ・オブ・オッパイてのがね、はっきり言って今ひとつかな~


 例えるなら、そう、ドでかい折り畳みソファーベッドと、最高級ゲームチュアぐらい座り心地に違いがあるんだよな。今みたいに選べない場合は仕方ないけどさ。


 ……俺も贅沢になったもんだよなぁ~


「ねえご主人さま、あたいがムカつくようなこと考えてないよね?」


 ちいっ、カンのいいやつめ。


「そんなヒマはない。早く外に出ろ」


「はいはい」

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