小さな真実

 聖求院なる教会組織からやって来た、謎の……というより、どちらかと言うと判りやすいザンネンなイケメン、コテコテさんのもとに、小さくて無力で、おまけにドレスまで着てる俺は置き去りにされてしまった……!


「やっと、ふたりきりになれたね」


「うわあああああああぁっ!!!」


「そんな嫌がらないで~ 絶対に君を傷つけることはしないよ。輝きに誓うし、真実の顎に手を入れてもいい。安心して、リーズィヒちゃん。あっ、そうか、化粧を落とした素顔を見られたことが気になるんだね~ 大丈夫、君は十分に美しいと思うよ」


 俺はカゴの中に置いたままだったスプーンを槍のように構える。その丸い先端がギラリと光った。そして、頭の中がお花畑の聖官に真実をぶちまける!


「リーズィヒは芸名だ! 俺の本名は、クライン! こう見えても、れっきとした男なんだからな!」


「……男? まさか~ フェアリーは少女だけの種族とされているよ。おかしな冗談を言うなんて、照れ屋さんなのかい?」


「これを見ろ!」


 俺はスプーンを投げ捨て、ドレスの胸をはだけた!


「これで判ったろ! 俺は男だ!」



「……ダメだよ~ 女の価値は胸では決まらない。貧乳だからって男みたいだ、なんて自分をおとしめちゃいけないよ~」


 もはや意地になった俺はドレスとかを脱ぎ捨て、すっぽんぽんの姿をさらしてやった!


 ババーン!


 俺の脳内に効果音が響いた! 顔を赤らめながらも全裸で、スーパーヒーローのように堂々と立つ!


「どうだーっ!」


「えっ。……ええっ、うわーっ! 小さいけど見慣れたものがーっ!」


「小さいって言うなーっ!」


 コテコテさんはふらふらと後ずさりして、どっかと椅子に座り込んだ。両手で頭を抱え、ブツブツと呟く。


「……まさか、そんな、ありえない、いや……真実から目を背けるな……そう、たったひとつの真実から……フェアリーが……私のフェアリーが……」


 コテコテさんは顔をあげて、俺を見つめた。その目はギラギラと輝いていた。


「そう、それが真実だ! フェアリー繁殖の真実だ! 君たちは女だけの種族ではない! 両性具有の生き物だったのだ!」



「ちがーうっ!」




 それから、色々と話し合いとかあって……


 コティングリーさんは、俺が単なる「男」だとようやく認めてくれた。その「証明」のために何をしたか、という話題は、省略する!  あと、もうドレスとかは着てる。そして冷静になった俺は、聞いておかなきゃいけない大事なことがあったのに、やっと気付いた。


「あのお……男なのに女の役をするってのは、教会的にどうなんでしょう? まさか……異端ナントカで火あぶりとか、されたり……? あと、洗礼を2回もするとかも、問題あったりなんかして……?」


「んなワケないでしょ。王都じゃ男性が女性を演じる劇が流行ってるし、洗礼名の変更だって受け付けてるんだから。それより、それより! 研究を開始させてもらうよ。楽しい夜は短いんだから!」


「俺が男で、フェアリーじゃなくても?」


「うん。だって、君は男だとしても、フェアリーではないという証拠はないんだよね? 捨てられてたのだから」


 イケメン聖官は俺を物差しで測りながら言った。この人、めげないよな~ まあカネも払ってるし、そうそう諦められないか。


「そりゃ、そうですけどね……でも、実感はないですよ。俺の身体は寸法を別にすれば、話に聞くフェアリーと違いすぎます」


「オスとメスの姿が違い過ぎる生き物は、別に珍しくない。それに……君は今まで私が出会った中では、生きているという点で最も伝説のフェアリーに近い存在なんだよ。君を本物のフェアリー、の男性、だという可能性を信じて研究する価値は、十分にあると思ってるよ~ さあ、これに触って」


 言われるがままに俺は、把手とってのついた置き時計に似た魔道具に触った。魔道具には、「魔付」という外付けの魔法ボタンがついているやつと、芝居小屋にある魔灯、スポットライトのように道具本体が魔道具のやつがあるけど、これは後者のタイプだな。


「生きてないフェアリーは、見たことがあるんですか?」


「ミイラとかね~ あと昔の絵とか、木の葉の服とか。全部ニセモノだと言う人もいるけど~ もし聖人による目撃情報が残っていなければ、こんな胡乱うろんな種族、研究できなかったね。ふむ、魔力はほとんど無いな~」


 ああ、俺は魔力無し、っていう扱いのヤツか……じゃあ魔法の才能は無いんだな、ツラい。


 あれっ? じゃあ、舞台でのあの不思議なスキルは……?



「さあ、次はここに乗って」


 コテコテさんの手を借りて、俺は天秤の皿に這い上がった。天秤の反対側の皿を見ると、乗せた重りの合計で俺の体重が判る。60グラムぐらいか。あれっ、さっきは体重と同じぐらいの重さのスプーンがよく持てたな?


「おや、意外と軽いんだね~」


「そうなんですか?」


 俺の身長はニンゲン族の約10分の1だから、タテ掛けるヨコ掛ける高さで、体積は10分の1の3乗で1000分の1、血肉がニンゲンと同じだとしたら質量も体積と同じ1000分の1になる。身長180センチのガリなら体重60キロとして、その1000分の1で60グラム。こんなもんだと思うんだが。


「ああ。君と同じ体長のネズミは、その4倍ぐらいの体重だよ~」


 そうか。それなのにネズミはあんな身軽に1メートルくらいのジャンプができるんだな。スゲー……えっ? それが小さい生き物の本来のパワーだとしたら、なんか俺って、変じゃない?


「……実は俺、最近、ちょっと気になってることがあって」


 俺は例の限定スキルのことを話した。なぜか舞台の上でしか発動しない、身軽に……そう、フェアリーのごとき身体能力スキルのことを。


「……うん、それは……もしかしたら」


「何か、心あたりがあるんですか⁉」



 まさか、判るのか……⁉


 俺だけのスキルが!

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