〜第1話〜

「……ッテ…ま…」


真っ暗な闇の中微かに聞こえる、女性の声。自分を包む温かい物に、自分が死んだことを自覚する。


(ああ、誰かが呼んでる…?そっか、私死んじゃったんだ…)


然しそんな考えを否定するように女性の声が段々と近付き、自分の身体の上に乗っていた温かい物を勢いよく剥がされる。


「シャルロッテ様!いい加減に起きてください。今日から楽しみにしていたルベリア学園への登校日ですよ。」


その声に驚き飛び起きると目の前には見たことの無い大きな中世ヨーロッパ風の部屋。それに豪華な天蓋付きのふかふかベッド。そしてベッドの傍らには腰に両手を付き、自分を見つめる栗色の髪を纏めた若い女性のメイド。


「……ミナ。」


その人物とは会ったことなんて無いし見たことも無い。然し自然と口から溢れるメイドの名前は『らぶどき』に出てくるシャルロッテの傍付きメイドと同じ名前。

──夢でも見ているのだろうか?そう思わざるおえない現状に辺りを見渡すと少し離れた距離にある姿鏡に目が行く。そこに映る自分の姿は………。

長く緩りとカールしたブロンドの髪。人目を引くターコイズの瞳。


(………嘘…)


その姿は正にシャルロッテ・アレキサンドルそのもの。驚きのあまりベッドから飛び起き姿鏡を凝視し、自分の頬を思い切り抓る。


「…夢じゃ…ない…!?」


そんな彼女に対しミナは不思議そうにその行動を見つめ首を傾げるも、クスクスと笑みを漏らす。


「シャルロッテ様、もしやまだ夢の中なのですね。今、目覚ましの紅茶をお持ちします。」


そう告げ、大きな扉の前で一度お辞儀をするとミナはそのままシャルロッテの部屋を退出。

シャルロッテは未だに理解出来ない頭を必死に回転させ至った結論は───


(…まさか、らぶどきの世界に転生…?しかも、私がシャルロッテ・アレキサンドルなんて…)


下を向き拳を握るとその現実に涙……否、歓喜に肩を震わせる。その瞬間、勢い良く上を向いたかと思えば口元に手を添え、


「オーホッホッホ!やったわ!…そうよ、私が悪役令嬢、シャルロッテ・アレキサンドルよ!」


屋敷中に高笑いが響くと、その日の朝はシャルロッテ嬢のご乱心と屋敷に仕える従者達の話題になったのだ……。

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