第52話

「き、君を恋愛対象として……?」

「そう。私は一応女だからな。その……なんというか……気になることではあるんだよ……」


 一応女ってなんだよ。逆に男に見えたと一度でも僕が言ったか?


 そんなことはいい。彼女の言っている恋愛対象とは、好意を抱く相手のこと。その相手の性別や年齢などの多くのステータスが基準になって、そこから恋愛対象かどうかを判断する。


 大まかな僕の恋愛対象の基準としては、異性であることが絶対条件だけど、それ以外は特にないと思う。


「うーん」

「そ、そんなに考え込むことなのか? まさか私をそういう目では見られないということなのか……?」


 不安そうな雛ちゃんが言う。その不安は何に対する不安なのかは僕には分からない。父さんの命令に関することで不安になっているのか、まさかの僕に意外と興味があるのか……。圧倒的に前者のほうが可能性としては高い。


「ま、まあ、恋愛対象として見る判定になるのかな……。自分で言っててすごく恥ずかしいんだけど……」

「む……。そ、そうか……」

「照れてる?」

「何を馬鹿なことを……! そ、そんなわけないだろ! ちょ、ちょっとだけ驚いてしまっただけだ……。別に照れてなんか……」

「顔、赤いけど?」

「ッ……!」


 僕が指摘すると、もっともっと赤くなった。やがて耳までもが真っ赤になる。やはりアレだな。ボロが出やすいな。それに顔にも出やすいな、この子。そんなんじゃ情報を聞き出すよりも、逆に情報を奪われてしまうぞ。


 施設ではそこらへんの訓練とかはしていないのか? コミュニケーション能力の分野でやっているはずなのだが……。


 そういえば僕、初対面じゃん……。だからか……。納得だ。僕でもあんまり喋れないし、色々と口が滑っちゃうこともあるし。確かにそうだな。


 一応自分の基準を教えて、雛ちゃんはどう思うんだろう。もしかして簡単にオトされそうな男だと思われてしまうのだろうか。


「つ、つまり……その、お前の判定基準だと異性であることか……。それがきちんと満たされているということだな?」

「そうだね」

「私のことは女という認識なんだな……?」

「そうだよ?」

「ふ、ふん……! そ、それは良かった……!」

「さっきからずっと、僕に女性に関することばかり聞いてくるけど……それが狙いなの?」

「ね、狙い……? 何を言ってるんだ……?」


 分かりやすい。


「もういいから。父さんから何か言われてるんでしょ、どうせ。そうやって無理に誤魔化そうとする姿は、逆に恥ずかしいだけだと思うよ?」

「な、何も言われてないもん! 誤魔化してなんかないもん!」

「はいはい。分かった分かった」

「ぐ、くぅ……!」

「お話しするのもいいけどさ、もうそろそろ君の言っていたゲームをやらないのかい? 君はそのためにここへ呼んだんでしょ?」

「む……」


 急な話題転換は不自然に思われたか。いいや、そんなことはない。彼女からすれば誤魔化し通せたと感じているに違いないことだ。僕のことをチョロいとは、流石に思えないだろうけど……。


「ゲームな……。そうだったそうだった。ゲームをするためにここへ呼んだんだよな……。そうだった……」

「それで、どんな……」

「はぁ……。もう少し話していたかったな……」


 心臓が強く動いた。ドキッと、一度だけ。苦しくなるほどに、一度だけ。


 蝶番さんの言っていたことを思い出す。『期待させるようなこと』というのは、こういうことなのか? 僕は彼女にいつもそんな言動をとっているのか? それに、こうして僕が『期待』するのは、僕が雛ちゃんに対して、蝶番さんのように思ってしまっているということか?


 動揺した。困惑した。まさか初対面の女の子にドキドキさせられるなんて……。いくらなんでもチョロいな僕。


「さてと……。それじゃあ、まあ、チェスでもするかな……」

「チェスねぇ……。頭を使うゲームってそれのことだったんだね」

「うん? ああ、そうだが? 施設で晴といつもやってるんだ。その……よく言うテレビゲームというものは長時間の使用はできないし、頭をフル回転させるようなゲームなら先生が許可を出してくれるからな」

「晴とやってるのか。アイツ、負けたらすごく怒るだろ?」

「へ? 晴が負けたことなど一度もないが? いつも負けるのはこの私なんだが……」

「え?」

「えっ!? まさかお前、晴に勝ったことがあるのか!? 嘘だろ!?」


 近い近い近い。寄るな寄るな寄るな。


「いや、でもかなり昔の頃だし……勝ったといっても別に戦略性とか皆無だったと思うよ?」

「それでも晴に勝ってるんだろ? そんなの敵うわけないじゃないか……」


 シュンとする雛ちゃん。一気に自信を無くしたな。


 晴とチェスをやっていた頃など、とうの昔。僕が隔離される前のことだ。面識のある生徒は本当に晴くらいだから、ほかに遊ぶ相手もいない。


「はぁ……」

「そんなに落ち込むこと? 分かったよ、ハンデをあげる」

「ほ、本当か!?」

「うん。僕はポーンとクイーンとキングだけ。君は通常と同じルール。これならいい?」

「う、うむ。それなら……」

「じゃあ僕が先手ね」

「な、それだと結局……!」

「何? ここまでハンデあげてるんだからいいだろ?」

「わ、分かった……」


 そして勝負が始まった。




———————————————————————




 チェスは先手が有利なのです。遊○王のようにね……。ふふふ……。


 あと20万PV行きました。ありがとうございます。

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