二 茨の道

 日暮れ頃、失意の佐助が反応する。

「来た。急いで出るぞ」

 肩身代わりの杖を手に裏山から外に出て、驚く。

「なんだよ、これ」

「これが今の世界だ」

 崩れたビルや断裂した道路など文明の名残はあるが、一面ダークグレーの、色彩のない世界。火山灰で植物もあまり育たない。

 点在する女集落に男が捕まると幽閉されて死ぬまで。だが、水も食料も入手困難で、集落外に出た女をたぶらかして調達するしかない。男と交尾するのは上の階層からで、男にありつけない若い女が狙い目だ。

 無茶な要求ばかりだが、石の砦に辿り着くのが唯一生存の道と円如に言われた。

 灰の土壌でも生きられる、棘の鋭い低木が生い茂るいばらの道は、一日一〇キロ進むのがやっと。皮の服に守られる行哉が前を歩く。それでも佐助は傷だらけ。寺から持ち出した食料と水は二日でほぼ底をつく。

 崩れたビルの一角で野営して、最後の干肉を分かち合う。

「追手はどうだ?」

 行哉が佐助に訊く。

「まだ大丈夫だ。食料をどうする」

「次の集落で調達するしかないな」

 翌日の昼過ぎ、集落を偵察に行った佐助が二十歳はたちくらいの女を連れてきた。

 女性経験は一人、ナンパ経験はほぼゼロの行哉だが、会話で距離を縮め、必死に口説く。初心うぶな女は、唇を奪い、舌を絡めると夢中になる。

「もっとしたい」という女に、行哉が「その前に食べ物と水をこっそり持ってきてくれ」と頼むと、「夜なら」とってくれる。

 暗くなると女は二日分の食料と水を持って戻ってきた。

 男は知らずとも道具の味を知る女は、たっぷりと優しくと、満足して帰った。

 もう二日歩く。途中、斥候らしき二人の男に襲われるも佐助が噛み殺す。

 石の砦まであと二日ほど。また食料と水が必要だ。

 今度は三〇前後の美しい女に遭遇。体を満足させると、水と食料の調達を口約こうやくする。

 日が暮れて、女の網に気づく。騙されたのだ。

 狩の網がせばまった時、狼の鳴き声が響く。

 動転する女たち。混乱の中、十代半ばの少女が行哉の手を引っ張る。

 選択肢はない。行哉と佐助は少女の後を追う。

 狼の声は少女だった。

 逃げ切ると「一緒に連れて行って」と少女が言う。

 佐助が鼻先で行哉に警戒を促す。

「まずは礼を言う。君は誰なんだ?」

「サエキ、ミオ。漢字も書けるよ」

 土に木の枝で佐伯未遠と書くと、佐助が「この子は大丈夫だ。連れて行こう」と言った。

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