TIPS 3-5 【P】
※この回には【流血表現】がございます。苦手な方は残念では御座いますがブラウザバックを推奨致します。
閲覧は自己責任にてお願い致します。
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そりゃ
ただでさえ力が入らない
『!』
その手は、すぐに分かった。っていうか普通に気付け!
私は座姿勢のまま
いつも
『ダメ! 待って! 行かないで!!』
けれど
『何で! どうしてさ! 畜生、
引き戻す力になればもう何だっていい。訳も分からずに私は叫んだ。
ズズッ…
一瞬、引き込まれる力が弱まった気がした。
『!!』
一気に力を入れる。
ぐぢゅっ。
抜けた。
" 手 " が。
『───え?』
ただ引っ張る事だけを考えていた体は、支えとなっていた " 手 " を掴んだまま後方に吹っ飛び、窓枠の下の壁に背中から叩きつけられた。
『ぐぁっ!!』
あまりの衝撃に呼吸が止まり、視界がハレーションを起こす。
タイムラグを
『あ…あああ…ああ…』
私の両手の中にある、あの子の、" 手 "。……と、引き千切られた手首。
外の世界の
『うわ…、わあああああああああああああああああああ!!!!!!』
反射的にその手を投げてしまった。
力無く投げられたそれはわずか数メートルの位置にびちゃっ!と落ちる。
断面から血が流れ、それを中心に血だまりが広がっていく。
「ヒドイ」
スピーカーからまたあの声。
『ち、違う…』
「
『違う…チガウ…』
血が、どんどん辺り一面を埋めていく。あの子の血が。
座り込んだ私の足を真っ赤に染め上げていく。
手が生えていた壁を見上げる。
何も残されていないのっぺりとした壁。
その壁の、手の生えていた辺りが次第に赤く滲み出し、やがて赤い水を
「嘘吐き」
冷ややかな声が聴こえた。
『わた…私…ち、ちが…』
「嘘吐き」
『あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』
血の海からバシャッと
『開けろ! 開けろ!! 開けろ!!!』
「嘘吐き。嘘吐き。嘘吐き。」
叩きつける度に手の骨が砕ける様な鈍い衝撃に襲われた。それでもお構いなしに叩き続けた。
『開
ベギッという
痛みは
「アハハ…アーハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
狂った様な
もう、出来る事なんか無い。
もう、どうでもいい。どうでもいいんだ。
血の海の中に、再びバシャンと
意識が遠ざかる。
赤い水の中で、私は多分泣いていたんだと思う。
ごめんね。私、嘘を───
「大好きだよ」
『えっ!?』
『今のは…?』
血の海もない。腕も折れていない。少し痛いような感覚が残る程度だ。
ジジ…ザザザ…
また、スピーカーからノイズが流れる。
「…ありがとう…。待ってて。」
『!!』
ブヅン。
そしてスピーカーは完全に
校舎内に、完全なる
ゆっくりと立ち上がり、目の前の壁にそっと両の手で触れる。
大きく全身で息を吸い込む。上体をゆっくりと逸らす。
ドゴォ!!!!!
恐ろしく
衝撃が脳の
馬鹿か私は。いや、馬鹿だ私は。大馬鹿野郎だ。
何を勝手に
ペロッと、唇を
熱が体を駆け
何が
考えろ。考えろ。考えろ。ヒントの欠片が粉々になるまで。
絶望しても…諦めない限り物語は続く!
『時空…?』
後頭部がチリチリしている。なんだっけ? 何か忘れてる。この状況を
『戻る…!?』
戻る…戻す…例えば時間とか…
あ──。
あるじゃないか。
『【時間の巻き戻る理科準備室】!!』
体が軽い。嘘みたいに。
『嘘でも何でも構うもんか!』
三階に上がるのに
ゔ…わん…
" 場 " に入った歪みが波打つ。でも明らかにさっきより弱い。
校舎の空間の歪みが治まってきてるんだ。急がなきゃ。
理科準備室の扉に手をかける。
ガチッ。
『なっ…!?』
そりゃ、確かに考えてみりゃ当たり前だろうけど、でもさぁ!!
絶望的な気持ちで閉ざされた扉をガタガタ激しく
どうする!? 外に回り込んで窓を割るか…ダメだ、そもそもベランダ無いじゃんかウチの学校は!! 外壁面にわずかな
『…はは、そっか、そうだよな。ガキだった…主人公じゃなくて、私はモブだ。モブならモブらしく…』
私は準備室の扉から距離を取り、体を縮め───
『開けええええええええ!!!!』
みっともなく。でもそれが私の
バガシャアアアアン!!!!
想像していたよりも
いよいよ私もやばいかもしれないな。まあそんなのは後で考えよう。
『いっ
打ち身の痛みに耐えつつ立ち上がり、そこで見たのは…
『なん…だよ、これ…?』
大きさは両手を広げたくらいだろうか。
内側には
『…秒針?』
印象をそのまま口に出したが、恐らくそれが限りなく正解に近いと思う。
『これを一体どうしろと…?』
部屋に入ればそれで済むかと思っていたので
けれど悩んだ瞬間、その空間時計が大きく歪み、明るさが急速に薄れる。
『考えてる暇は無いってか!』
巻き戻す、巻き戻す…つまり、これしかない!
私は右手を床と平行に大きく振りかぶると───
『少しでもいいから…戻れぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
秒針を、反時計回り方向に、思い切りひっぱたいた。
猛スピードで逆回転する秒針に、空間時計から
『──────!』
部屋全体が、激しく
目を閉じて体が、世界が折り
やがて光がおさまると…。
『…戻った…のか?』
空間時計は消えていた。それだけだ。
『いや、戻った…戻ってる!』
たった今破壊したハズなのに。
どれくらい戻った!? ていうか同じ日か!? 今何時だ!?
ゔ わ ん ! !
ひときわ大きな歪みが部屋全体を、校舎を揺らした。
私は直感した。
『【とびら】が開いた…!?』
結果的には時間は
出入口の扉に駆け寄ると
外そうとガチガチ動かすが、
またぶち破ろうかと頭を過ぎった
『クソが!!』
そのまま目の前のA階段を駆け下り三階へ。
三階廊下に飛び出すと、
『──────!!!!!!』
脳が何かを考えるよりも早く、私はあらん限りの声でその名を叫んだ。
同時に
「えっ!!??」
彼女が驚きのあまり目を見開いてこちら見た。見開いたかどうか前髪で見えないけどな!
畜生、畜生、畜生! もう少しなのに!!!
体が、半分壁の中へ吸い込まれていた。彼女が、必死に手を伸ばす。
クソッタレ!
間に合え! 間に合え! もっと早く!! もっとだ!!!
私は無意識に絶叫しながら泣いていた。
何て言ってたかなんて覚えていない。
頭の中で否定しながら、理解してて、否定して、どうしようもなく理解してた。
この速度じゃあの手に
涙でぐしゃぐしゃに
「ねえ!」
あの子が、伸ばしていた手を目元に、ピンクのハーフフレームのメガネを外して前髪を上げた。そして───
「私達───、親友だよ!」
笑顔で、いっぱいの笑顔で、そう叫んだ。
『あたりまえじゃん!!!!! うわああああああああああああああ!!!!!!!』
何度目の叫びだろうか。
最後まで私が大好きだった笑顔のまま、あの子が【とびらのむこう】に消えていく。いっぱいに伸ばされた腕も、肘へ…手首へ…、
『
せめて、この声だけでも届け。
手が、
何もなかったような白塗りの壁の前に
『畜生! 畜生!! 間に合わなかった! クソが!!! …クソが…!! うう…うううううう…!!!』
涙が止まらない。今度こそ、奇跡は起きない。体で分かってしまった。空間の歪みが、消えた。
八不思議が役目を終えて眠りについたんだ。
壁にもたれかかったまま、ずりずりと
『紫音…。紫音…ッ!!』
壁についていた手をだらりと床に下ろす。
その手に、何かが触れた。
『…!』
ピンクのハーフフレームのメガネ。間違いない、これは───。
その時、背後から気配を感じて振り返った。
『なっ…!!?』
『なっ…!!?』
B階段を上ってきた
そうか、そうだよな。
空間の歪みが解けて、交差した時間が繋がったんだろう。
私は理解不能といった顔をしている間抜けな " 私 " に吐き捨てた。
『
私の様子を見て " 私 " は結末を理解した様だ。
しかし我ながら
『馬鹿野郎って…私は、お前だろうが』
『そうだな』
" 私 " が、歯ぎしりしながら、涙を流していた。これはあの時
…そうか、この時の私はまだ " あの幻覚 " を見ていないんだっけか。
でも、あんなモノは見ないで済むなら見ない方がいい。
私がちゃんと知っている。
私が、覚えている。
『お前は、どうするんだよ』
『お前は、どうしたいんだ』
私は握りしめていた紫音のメガネを見せた。
" 私 " はそのメガネにそっと手を置く。
『『 そんなの、決まってるだろ 』』
気が付くと校門前に立っていた。どれくらいの時間のズレがあるかは分からない。実は今までのは夢で、今度は間に合うかもしれない!って一瞬思ったけど、それは無いとすぐさま理解してしまった。
…紫音のメガネを、握っていたから。
校門はもう、立ち入る者を締め出す事は無かった。
ドアのチャイムを押す。何度も来ててもう慣れっこのハズなのに、ボタンを押すまでに相当の時間を要した。
心臓が破裂しそうだった。何て言えばいいのか。そして何て言われるのか。
責められる覚悟はしたつもりだった。私が傷付くのは耐えられる。
でも、おばさんは何の覚悟も出来ていない。
そんな人をきっと傷付ける事になる。
…それがとてつもなく恐ろしかった。
「はーい。あら桃ちゃん、どうしたの…って、なにその顔!? えっ、血!? やだそのオデコどうしたのよ!!?」
『あ、あの! おばさん、それよりも…その…』
私は、意を決して紫音のメガネを見せた。
『あの、その…、し、紫音が…紫音が…!』
◆◇◆◇◆
(TIPS 4へ続く)
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