0《ゼロ》の魔法剣士。~【無効化】魔法という前例がないために適正なしと判定された少年は、魔法の名家を出て冒険者となる~
あざね
プロローグ ≪ゼロ≫
「ほら、アレが《ゼロ》だよ……」
「ふーん……あの子が……」
ボクに聞こえないように小声で陰口を叩く奴らがいた。
それでも、そういった発言は際立って聞こえるもの。哀れみにしろ、侮蔑にしろ。好意的でない言葉は、ささくれ立った心をさらに荒ませた。
「名門に生まれたってのに、まさか……」
「恵まれてるくせに、役立たずなんてな」
名門魔法使いの家系、アークライト。
ボクはそこに生まれたにもかかわらず、途轍もない役立たずだった。
何故なら、適正なし――すなわち、魔法の才能が皆無だったから。魔法の世界に身を置く者は、決まって何かしらの得手を持っているはずなのに、だ。
それなのに。
ボクには、そういった才能が微塵もなかった。だから――。
「きたか、ルイン……」
「はい。お父様」
魔法学園の学園長を務める父に呼び出された時。
なにを言われるか、すでに覚悟していた。
「お前も、魔法学園に入学する年齢が近付いてきたな。だが――」
父――アデルは、長い髭を撫でながら言う。
「お前はこの家を出て、別の道を歩め」――と。
◆
――魔法という存在は、この世のすべての上位に立つ。
剣術や武術、そういったものも魔法の前にはほとんど無力。
どれだけ身体を鍛え、技を磨こうとも。それらを強化する魔法を使用されてしまえば、あっさり打ち破られてしまうのだ。その上、魔法攻撃を喰らえばひとたまりもない。
だから、魔法は何事においても重宝されるのだった。
そしてボクは、名門のアークライト家に生まれながら適正なし。ついには父親から、半ば勘当とも取れる宣告を受けてしまった。
だが、それも仕方ない話だ。
父にも立場というものがあり、さらにボクには優秀な姉がいる。跡継ぎには問題がなく、残るのは役立たずと陰口を叩かれる不出来な息子だけだった。
「だったら、もうどうしようもない、か……」
――で、あれば。
ボクに取れる選択肢は、もはや一つしかない。
「家を出よう。そして――」
まとめた荷物の中にある一振りの剣。
それを手に取って、あえて大きく深呼吸をした。そして、
「冒険者に、なろう」
そう決意した。
いつ家を追い出されても良いように、ボクは魔法の勉強と並行して剣術の鍛錬も積んでいた。人並み程度には、冒険者の端くれとして戦えるはず。
そう考えてボクは、魔法の道を諦めて家を出たのだった。
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