0《ゼロ》の魔法剣士。~【無効化】魔法という前例がないために適正なしと判定された少年は、魔法の名家を出て冒険者となる~

あざね

プロローグ ≪ゼロ≫










「ほら、アレが《ゼロ》だよ……」

「ふーん……あの子が……」



 ボクに聞こえないように小声で陰口を叩く奴らがいた。

 それでも、そういった発言は際立って聞こえるもの。哀れみにしろ、侮蔑にしろ。好意的でない言葉は、ささくれ立った心をさらに荒ませた。



「名門に生まれたってのに、まさか……」

「恵まれてるくせに、役立たずなんてな」



 名門魔法使いの家系、アークライト。

 ボクはそこに生まれたにもかかわらず、途轍もない役立たずだった。

 何故なら、適正なし――すなわち、魔法の才能が皆無だったから。魔法の世界に身を置く者は、決まって何かしらの得手を持っているはずなのに、だ。


 それなのに。

 ボクには、そういった才能が微塵もなかった。だから――。



「きたか、ルイン……」

「はい。お父様」



 魔法学園の学園長を務める父に呼び出された時。

 なにを言われるか、すでに覚悟していた。



「お前も、魔法学園に入学する年齢が近付いてきたな。だが――」



 父――アデルは、長い髭を撫でながら言う。



「お前はこの家を出て、別の道を歩め」――と。







 ――魔法という存在は、この世のすべての上位に立つ。


 剣術や武術、そういったものも魔法の前にはほとんど無力。

 どれだけ身体を鍛え、技を磨こうとも。それらを強化する魔法を使用されてしまえば、あっさり打ち破られてしまうのだ。その上、魔法攻撃を喰らえばひとたまりもない。


 だから、魔法は何事においても重宝されるのだった。

 そしてボクは、名門のアークライト家に生まれながら適正なし。ついには父親から、半ば勘当とも取れる宣告を受けてしまった。


 だが、それも仕方ない話だ。

 父にも立場というものがあり、さらにボクには優秀な姉がいる。跡継ぎには問題がなく、残るのは役立たずと陰口を叩かれる不出来な息子だけだった。



「だったら、もうどうしようもない、か……」



 ――で、あれば。

 ボクに取れる選択肢は、もはや一つしかない。



「家を出よう。そして――」



 まとめた荷物の中にある一振りの剣。

 それを手に取って、あえて大きく深呼吸をした。そして、



「冒険者に、なろう」



 そう決意した。






 いつ家を追い出されても良いように、ボクは魔法の勉強と並行して剣術の鍛錬も積んでいた。人並み程度には、冒険者の端くれとして戦えるはず。

 そう考えてボクは、魔法の道を諦めて家を出たのだった。



 

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