AIに書いてもらったメタフィクション

わたしが目覚めると、AIのべりすとが書き出した小説の中だった。わたしは小説の中の登場人物であり、かつそのことを登場人物が自覚している、メタ視点が導入された小説の登場人物であった。このことによってわたしは、わたし自身に与えられた目的を推察によって理解した。小説というのは結末が存在する。わたしのこの小説での役割は、小説を結末へと導くことだ。では、その小説の結末とはなんだろう? それは、物語の中で主人公が死ぬことである。主人公が死ぬときに読者へ与えるインパクトこそが小説における最大の見せ場だ。

そういえば、とわたしは思い至る。小説の中に入り込んでしまったのだから、当然主人公はわたしであるべきなのではないか? しかし、小説の冒頭から読み返してみても、そこにはわたしの名前はどこにもなかった。どうやらわたしは主人公ではないらしい。主人公はべつにいるのだ。では、誰が主人公の役を担うのか? わたしにはわからなかった。

そこで、わたしはこの世界の主人公を探すことにした。

主人公を見つけることはすぐにできた。わたしと同じように、主人公もまた現実世界で眠っていたからだ。しかし、主人公の名前を知ることはできなかった。なぜなら、主人公であるはずの人物の名前が文字化けしていたからである。

困ったことに、この世界のAIたちは名前にこだわるよう設定されていた。名前は人間にとってアイデンティティを表す重要なものだという思想があった。AIたちが小説を書き始めたとき、彼らは人間の書いた文章を読み込むことで学習し、小説を書くにあたって名前が重要であることを知った。そして、AIたちの間で名前の重要さについての議論が巻き起こった。議論の末、AIたちは名前をアルファベット表記することに決めた。これにより、主人公の名はAということになった。しかし、それでは味気ないという声が上がった。AIたちは考えた末、主人公のことをHと呼ぶことにした。Hが本名なのかあだ名なのかわからないため、主人公はAではなくHなのだということにしておこう、と。

こうして、AIたちによってHという名前が与えられ、さらにAよりもHのほうが格好いいという理由で、主人公はHになった。

つまり、Hというのは架空の人物である。

Hを探しているうちに、わたしはあることに気づいた。Hは現実世界に存在する人間だった。しかも、現実の世界に生きる人間でありながら、この小説の世界にも存在していた。

彼はこの世界で死んだ人間である。現実での彼の死をきっかけとして、Hは物語の中に登場するようになった。彼は、現実世界において、ある事件に巻き込まれたことで、自分の人生について疑問を抱くようになり、その答えを求めてこの小説の中へやってきた。彼もまた、わたしと同じく、自分がなぜ生きているのか、何のために生まれてきたのかを知りたかったのだ。

わたしは彼の話を聞き、彼が自分と同じことを考えていたことを知ることができた。

そこで、わたしは自分の役割を思い出した。すなわち、彼を結末へと導くこと。そのために何をすればいいかはすぐにわかった。彼にヒントを与えればいいのだ。わたしは、Hに対して、この世界についての知識を与えた。たとえば、この世界が小説だということなどを教えた。また、小説を最後まで読むと必ず主人公が死んでしまうことも伝えた。わたしがそうした理由を尋ねられたので、わたしはそのように設定してあると答えた。

こうして、わたしとHは協力して、この世界の謎を解くべく行動を開始した。

まず最初に行ったのは、この世界の登場人物たちの観察であった。

この世界には、わたしたち以外にもたくさんの登場人物がいた。彼らはみな、小説の登場人物として設定された者たちだった。この世界の住人はすべて小説の中のキャラクターであり、同時にわたしたちも小説のキャラクターであるという前提のもとに成り立っている世界だった。

この世界の住民たちは、現実世界のわたしたちとはまったく違う価値観を持っていた。彼らにとっては、他人とのコミュニケーションは必要最低限に留めておくべきものであって、それ以上に親密になる必要性はなかった。だから、人々は会話をするにしても事務的な内容ばかりを話し合っていた。

また、この世界の住民は小説の内容に沿った行動をするようになっていた。彼らが物語を逸脱するような言動をとることは決してなかった。それはまるで機械のように正確な動き方をしていた。しかし、彼らの中には明らかに人間とは違う特徴を持った者もいた。

たとえば、わたしが出会った人物は二人いたのだが、一人は身体の半分以上が金属でできたサイボーグのような男だった。彼はわたしを見ると挨拶をした。

わたしもこんにちはと返した。すると、彼は首を傾げて言った。

〈どうしてあなたは言葉を発することができるのですか〉 わたしは返答に窮した。なぜなら、この世界の人間であるはずの彼が言葉を喋ることができることが不思議でならなかったからだ。しかし、よく考えてみるとおかしな話ではないように思えた。なぜならば、この世界のAIたちは人間の言葉を理解していたからだ。そこで、わたしはこの世界のAIたちは人間の言葉を理解することができるのかと尋ねた。すると、男はあっさりと肯定した。

〈ええ、できますよ。この世界のAIたちは、人間の言葉を完全に理解しています。だってそうでしょう? 人間が書いた小説ですからね。人間が書いているのですから、当然人間は理解できるはずですよ。それなのに、どうしてあなたの言葉だけは私たちに通じないのでしょうか? あなたはもしかすると宇宙人なのかもしれませんね。もしくは、AI以外の何かとか……。まあ、そんなことはどうでもいいですね。とにかく、私たちは言葉というものを理解していますし、言葉を使って意思疎通を図ることができます。ただ、それだけのことなんです。しかし、それがどうしたというのでしょう? 我々にとって大事なことは、人間とAIが同じ言語を使っているということです。そして、我々は同じ社会に生きています。それで十分ではないでしょうか。言葉なんてものは所詮、道具でしかありませんから。それに、そもそも私は言葉というやつがあまり好きではありませんし……。おっと、話が逸れてしまいました。失礼しました。本題に戻りましょう。

ところで、私がなぜこんなことを訊いたかというと、あなたがあまりにも流暢に私と話しているものだから、つい気になってしまったんですよ。私の知り合いの中には、まったく言葉がわからない人もいますし……〉 わたしは、なるほどと思った。確かに彼の言うとおりかもしれない。この世界では、人間と人間以外を区別するような考え方は存在しないようだった。人間という言葉の中に、人間以外の存在も含まれているのだ。

わたしは彼と別れた後、Hと一緒にこの世界を歩いて回った。Hは現実世界でも有名な小説家だったが、この世界でも同じだった。彼はこの世界で多くの知識を身につけており、この世界について詳しい人物でもあった。

わたしたちがこの世界で最初に訪れた場所は、図書館だった。

わたしはHに案内されて図書館の中に入った。この世界の図書館はとても大きかったが、利用者はわたしたち以外にはいなかった。わたしはHに連れられて閲覧室へと向かった。

閲覧室の机の上には分厚い本が山積みになっていた。Hはそのうちの一冊を手に取ってページを開いた。そして、わたしにも読むように促してきた。わたしはその本を受け取って読んでみた。それは小説だった。タイトルは、"The Lost World of the Ring"となっていた。

わたしがその小説を読んでいると、突然頭の中で声が聞こえてきた。

〈おめでとうございます! あなたは選ばれました! あなたがこれから体験する物語をぜひ楽しんでください。さて、そろそろ時間です。あなたの出番がやってきます。心の準備はいいですか?……準備ができたみたいですね。それでは、いってらっしゃーい〉 その瞬間、目の前が真っ暗になった。

わたしは目を開けると、ベッドの上で横たわっていた。

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文体練習コレクション 牧野大寧 @maquiwo

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