到達不可能アーケード街「ミライユ」

このアーケード街ミライユはできた瞬間から自立した系であり、外部の接点からは到達することができない。肉屋は三件存在していて、アーケードの中には牧場や屠殺場すらある。住民は全てアーケード内で職を得ており、系は安定している。経済的な失敗が発生したことはない。アーケードの中には行政機関に相当するものがある。町内会だ。町内会は「見回り」を行う。「見回り」とは系の振動を減衰させることだ。微細な振動が系を破綻させるのだ。「見回り」すること自体が破綻することはあるのだろうか。やはり生まれてこの方そのようなことはない。肉屋の他にはたとえば文房具屋がある。文房具はどこからやってくるのだろうか。それはやはり文房具メーカーがアーケードの中にあって、メーカーの工場さえもアーケードの中にあるのだ。アーケードは読者が想像している大きさのちょうど百分の一ほどの大きさで、案外こじんまりとしている。住民の統計は存在しないので人口は定かでないが、千人ぐらいだとも三百万人ぐらいだとも言われることがある。人口は安定していて一人が死んだらだいたい一人が生まれる。外部からの旅行客はいないのでホテルの類はない。ほとんどの住民は店舗に併設された自宅住居で暮らしている。アーケードは幾星霜を経て劣化し、改修を要することになる。改修の材料はどこから来るのか。系の中から調達するのだ。実のところこのアーケードは永久機関なのだ。系は外部からエネルギーを与えられない限りいずれは止まってしまう。熱的に死んでしまうのだ。しかしこのアーケードはそのルールを破って存在している。ここから推測できることは、このアーケードはこの宇宙には存在していないということである。

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