帽子が本体
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
帽子が本体
「三塚先生、新作の出来栄えはいかがでしょう?」
漫画家・三塚ナナミの新作は、リモートをテーマにした恋愛少女漫画である。
リモート授業中に素の姿を意中の彼に晒してしまい、好意を抱かれるスタートだ。
動物を大事にする姿に惹かれたらしい。
インタビューをしているのは、ビジネス雑誌の記者だ。
私は、なにか間違いを起こさないかを気にしつつ、ナナミの様子を伺う。
「必ずや、みなさんに満足いただける一作になると思います」
「期待しております。今日はありがとうございました」
記者が帰っていった。
「ふわああああああん! もうやだああああ!」
ナナミは涙目になって、「私」をソファに放り投げる。
私は、彼女のベレー帽だ。
こう見えて、ベストセラー漫画家の魂を宿している。
絵心はあったが物語づくりに難のあった彼女を、私は鍛え直した。
結果、ナナミはヒット作を連発するようになる。
しかし、メンタルそのものは当時から変わっていない。
「天才漫画家になれるって言われて、被ってみたけどさあ。ベストセラー作家ってこんなに忙しいと思わなかったぁ!」
しびれる手を抑えながら、ナナミは「うわああん」と泣き出す。
「それが売れっ子作家の宿命だ。それとも、自分のマンガを描くか?」
私が尋ねると、ナナミはシュンとなった。
「売れないもん」
「売れる売れないの話ではあるまい。私の作品が少女たちに刺さるのは、正確には少女漫画のセオリーではないからだ」
そう、私は女性ながら、かつて「少年漫画」を書いていたのだった。
また、少女たちが興味ない海外ドキュメンタリーも大量に見ている。
誰も知らないダイナミックなパターンを知っていたから、それがたまたま受けたに過ぎない。
だが、新作執筆中に不摂生がたたって死んでしまった。
後にこの部屋に引っ越してきた彼女に拾われたのだ。
彼女は私の指示通り、ストレスは飲食徹夜以外で発散させるようにして、体調を気にしている。
「私はどちらかというと、キミのようなピュアピュアなイチャラブのほうが好きなんだけれどな」
「うーん、幽霊に受けてもなあ」
といいつつ、ナナミは私のためにイチャラブを描いてくれるのだ。
私は、ナナミを一人前にしたくて憑依したのではない。
彼女の作品が見たくて、私は彼女の手助けをしているのだ。
「キミの作風、私は好きだよ」
「生きている頃に言われたかったよ。そしたら」
いいかけて、ナナミは言葉を止める。
「そしたら?」
「あんたにもイチャラブで触れられただろうに」
言いながら、ナナミは私をモミモミした。
読者をドキドキさせるために、私はナナミに手を貸している。
しかし、ナナミにはいつもドキドキさせられるのだ。
帽子が本体 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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