声、走りすぎやから

 「なーなんかおもしろいハナシしてやー」ってもう撃っとるし。急に撃たれても=言われても困る。なんかしらドラマなりオチなりは必要ってことやろ? そんなんすぐ出てこーへん。困るは困るといっても別に見てて楽しい困り方ちゃうからそこで会話が途切れてしまう。そもそもLINEやしな。「なあなんかおもろいハナシしてくれや」で575やけどだからなんやねん。いちばん好きな相手とLINEしてノリが突然死してまうのは向いてないってことやろうか。相手もLINEも。何度も撃たれて正解やったかもしれんな。でも君は二度と「なんか面白い話してや」なんて自分に言うてくれへんかもしれんし、悲しいは悲しいわ。つまりはそういうことやねん。人間誰にでも「今ここでなにか面白い話をしなさい」というオーダーが必ず与えられるかっていうとそうでもない。機会の問題やね。一回も注目されんで終わるやつもようさんおるやろう。自分の場合何回かでも己を試す機会があっただけまだマシな方で、まだマシな方向へ向かって進む文字列このエディターの上で今まさに右へ右へ空白を文字で埋める。あ。「じゃああと10秒で切るからその間になんか伝えたいこと言ってな」。あーーーーーーーーー。切れた。やっぱり君のことが一番好きやねんけどそういうこと言ってほしい空気ともちゃうしな。難しいわ。ほんま。おもろくない人間でも君と付き合える可能性はありますか? 何回でも撃ってくれてもかまわへんし。僕ドMやから。これがオチや。どないやねん。

 思いながらLINE三年分見返しとったら色々わかった気する。なんならツイートとインスタの投稿も遡ってだいぶエモかった。時代がくだっていくと段々手の内を見せんようになって、巧妙としか表しようのない領域が広がる、今も広がっとる。バランス取るために直接会った時にはSNSより直截的な話をトップスピードで繰り広げたりするわけやけどもうあんま細かいとこまでおぼえてへん。お互いそうやろ? いやむしろ細かいことの方がようおぼえてるかもしれんというのはあるな。爆笑した時の口角とか中々手を繋がせてくれん空気の感じとか。写真とか残っとったらまたちゃうんやろうけどまあ撮ってへんしな。

 なんだかんだで男についての話を聞くのは好きやわ。心底気の毒な話とかもなくはないけど基本的には聞いてて興味深い話として演出してくれるからドキドキするというか。興味深いというのは笑えるというのと別の尺度やからそれは一応。にしてもやっぱ話上手いと思うわ自分。僕から言われたところで大したアレちゃうやろうけど。

 ほんまいうともう小説とか映画とかは大概ええねん。百本の傑作より一分間君の語り口を聞く方がよっぽど楽しいわ。これほんまやって。自分でもようこんなこと書けるな思うけど。

 ──咳き込む。

 まああとは、つっこんで本音を聞いたらはっきり答えたり逆に濁したり透かしたりするのもええと思う。それで僕が振られるとしても、聞くに耐えない悲惨さというのはなくてどこかしら楽観を聞けるっていうのが悪くない。「それで僕が振られるとしても」という書き出しの文章を千個書いた。今度送る。

 ここまで長文で送ったらどういうリアクションやろ。

「きもちわるい笑」とかかな。

 芸やから。そういう。

 思い出遡って新しい語り口に耳を開いていってそれだけ何年も繰り返すからとっくにあたまおかしなっとると思うけどそれはそれで人生やしな。

 どうでもいい花が咲いている。名前も値段もついておらず折りとった所で求める者もいない。種それ自体がそのような戦略を望んだということであるらしい。要らない花を想像して私は同情するでもなくその仮定に身を震わせる。

「きっと明日へも届かない」と呟いていたあなたの姿にだって震えられる。これはきっと悪い話じゃない。

 まだ鳴り止まへん。iPhoneの通知ではなく今まで君に言われたこと全部が脳内で。君の人生、僕の墓、好きな建築、家族、綺麗な歯並び、どうでもいい居酒屋のジョッキ、ぶつかったりして、音っていうほどでもない微かなの鳴り続けとる。

自分にしては立派な自己開示を行なって「いや色々考えた結果、こうなんよ! 悲しない?」という概要の演説をね毎回飽きもせず。いやー。

 君が言う。

「考え過ぎやろ」

 手を叩いて笑う。

 店を出た後、別に捨ててもいいような夜景が広がっている。飯とか酒とかもう僕はどうでもいいし、会話しか残らへんし、会話もすぐに思い出せなくなって、ニュアンスだけが手元に残って。手は繋がれへんかった。セックスはなし。微妙なニュアンスをありがとう。

 色々なことが絡まっとるな。出会ったころの淡い期待、裏切られたと思った頃の深い失望、セックスはしないけどたまに会って飲むぐらいなら別に構わないとかそういう地点。

 でも思うんやけど、いつも同じ夜景を見てるようでいて、実際は色々な光が少しずつ違うものに変わっていってて、ちょっとの時間で今まで見たことのないものが広がるって漠然とは信じられへんやろうか。いや基本ネガティブな人間やけど、どうしても君とか光とか変わっていくことを期待してもうてる。期待してもうてるのはどうしようもないことやから。

 もちろん見えなくなっていく領域はあると思う。僕はどっちかっていうと忘れられない方やけどいつまでも覚えていられるほどの容量はない。僕が忘れたことを君が覚えて、君が覚えていないことを僕が忘れないようにすればバランス取れるやん。

 センテンスっていう閃光、空中でひらりと翻る一瞬のことだった。僕は見たしずっと考えてるけど君はどうなんかな。気になる。

 僕は自分の片思いについて秘めたままいくことを考えてたんやけどなんだかんだで親しい友達とか新しい友達に色々あることないこと喋ってもうた。いやーごめん。僕はどっちかっていうと人の秘密にしてることを聞き出せるような人間になりたいと常々志し立ち振る舞っててその話の流れで僕の一番大事にしてる祭壇について仄めかさならんことがよくあるんやわ。人様の秘密になんぞ立ち入って何をする人かと思うかもしれんけどこれはしゃあないんやと思うわ。考えてみると僕一人の洞窟ってあとどのくらい残されてるんやろうか。君との関係、人間関係クラッシュ、バイトを雑にやめたこと、いつも金がないのに見栄ばっか張ってること、本当は自分が何者にもなれないと悩んでいること、よくわからないオブジェが家の前に立っていると嬉しい。むっつりなのは見りゃわかるしな。ほんまに悪いと思ってるのは僕みたいなのに何年も執着されて挙句しょうもない小説を連作で書かれてしまってるん。しかし君とか関係なく少しでもおもろい人間になろうと努力するには書かなしゃあないし喋らなしゃあない。言い訳もうええな。

あるいは君に対して長い闘争を繰り広げてるとも感じる。はっきり言って相互の信頼ばっかやないわけやんか。いやほんま一人だろうが二人だろうが死は避け難いやんか。考えるのをやめたっていずれ疲弊するしどっかで人生を戦わなあかんと思ってんねん。僕。

 まあなんか要望あれば聞くし連絡してや。ていうか単に連絡ほしいわ。喋るのをやめて書くのをやめろいうんやったらもちろんやめるしまともに生きろいうんやったらせいぜい努力する。実績もクソもないから信じてくれってまたみじめに飲み屋を出てから言うしかないな。まあせいぜい努力する。

 それで次いつ会える? って聞いても濁しまくりで、会えるかどうかはっきり聞いたら「わからんわ」って。撃ってもくれへんわけや。会えへんかったら会えへんかったでLINEするしDMするしたとえ会えへんでも同じ時代に生きて通信しあえるだけで少しは幸せやし別にええねん。夢でなら会えるしな。それについて君がどう思うかはわからんけどな。

 花って言ったっけ。咲いたやつ。僕ら一緒に出かけて色々見たのは事実で、それはでも忘れられる事実かも、まあ、会話の内容は覚えてないにしてもニュアンスは覚えてる。そんなかでどこまでが演技でどこまでが本音か、どれが儀礼だったのか考えてる。

 にしてもあれやな。ほんまに考えすぎやな。

 君の手の内が知りたいし僕の手の内晒しとくな。

 正しく発言できる場所に行きたい。そのために今はインターネットから始めてる。次のステージは同人誌であり、公募新人賞や。それはもう決めたことやねん。圧倒的に書き続けないと辿り着かへん。とにかく今いるステージはインターネット。

 君の手の内ほんまにわからんわ。「なんも考えてへんで」みたいな感じやけどなんも考えてへんことはないやろさすがに。考えたかたなあ、僕ら別々の道を通って別の場所を進んでる気がする。同じ世界に生きていてよかったと思うことすら全然見当違いなんかもしれんわ。

 ああ、あれ読んだで。全体としてはグルーブ感あってだいぶよかった。まあそうやな、煙草やめんの失敗するくだりがまあまあおもしろかったわ。僕も煙草はよやめたいねんけどな。いやー無理やわ。これは完全に。しかし僕が言えたことちゃうけど今さらようこんな振り返り書こう思ったな。いやべつに文句つけてるわけちゃうくて。なんというか普通に生きてたら読むに値する文章を書く機会ってまず訪れんくてほとんどの人が自分を試さずに書かずに終わるわけやんか。それは悪いことちゃうねんけど。で言ってしまえば君もそっち側の人間やと思ってたんよ。それが何があったんかわからんけど急にあんな面白い文章を上げるからなんかおもろかった。やっぱおもろいと思うねん君の言葉遣い。基本的に人に気遣ってるわけやんか。もはやどこから気遣いでどこからが自然な振る舞いなんか区別もつかんぐらいに。それがやっぱ文章でも十分表れてて読み手にサービスしてるのがああやっぱ優しい人なんやなと思った。またなんでもええから書いてや。僕もおもろいこと書くし。知らんけど。

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