ぼくの試練

卯野ましろ

ぼくの試練

 ぼくは選択を間違えたのだろうか。

 やっぱり違う方を選ぶべきだったか。

 ぼくは今、つらい試練を受けている。しかし自分が選んだこの道を捨てることは、もうできない。


「でも、たった五分を乗り越えれば……」


 ぼくは幸せになれる。




 あれから三分は経過した。ぼくは、それまで静かに耐えていた。

 けれど、やがて誰にでも我慢の限界は来る。


 ……ぼくは、もうダメだ……。

 「諦め」に手を伸ばした、そのとき。


「バカ! 何やってんだ、お前は!」


 ぼくの右腕をガシッと掴んだのは……。


「お兄ちゃんっ……」

「せっかくここまで頑張ったのに、諦めてどうする! 全て水の泡だぞ!」

「うぅ……もう無理だよ……」

「よし! それなら兄ちゃんも、お前と一緒に苦しもう!」

「えっ、でも……」


 お兄ちゃんの試練は、もう終わっているのに。


「かわいい弟のためなら、兄ちゃん何でもやってやる!」

「お兄ちゃん……!」


 ぼくたち兄弟は、手を取り合った。




 ピー、ピー、ピー……。


「はっ!」


 音が聞こえる。

 ついに、そのときが来た。


「やった! やったよ、お兄ちゃん!」

「ああ、よく頑張ったなぁ!」

「うんっ……!」




 タイマーが鳴ると、一気にぼくの暗い気持ちが晴れた。五分経過したら蓋を開けて、調味料を入れて、箸を手に取って、かき混ぜて……。

 そして二人で揃って「いただきます!」




 はふはふ。

 ずるるるっ。

 ずずー……。


「ああ~、おいしいっ!」

「うん、うまい!」


 今、ぼくは麺と幸せを噛み締めている。お兄ちゃんと共に。


「やっぱり赤いきつね、最高! いつも通り、赤いきつねにして良かった!」

「あそこで兄ちゃんが止めなかったら、お前は固いうどんを食べるところだったぞ。せっかちだな」

「ぼくは食べる量を増やしたいからって、二分も長く待つお兄ちゃんが分からない」

「一緒に待ってやった兄ちゃんに対して、そんなことを言うとは……悪い弟め」

「ところでお兄ちゃん、さっきかわいい弟のためなら何でもやるって言っていたよね?」

「……それがどうした」

「それならさ、緑のたぬきに入っている天ぷら、ちょーだいっ!」

「はあ? やるもんか! お前には油揚げがあるだろ!」

「ちゃんと時間を守ったんだから、ご褒美くれよ~」

「何を言ってんだ! あれは兄ちゃんのおかげだろう! それなら、お前が兄ちゃんに油揚げをお礼として渡すもんだろっ!」

「大人げな~い」

「たったの、二歳差!」


 空腹はつらかったけれど、お兄ちゃんとぼくは楽しく昼食を済ませた。


「ごちそうさま!」

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