第2話イケメン執事

「はぁ…はぁ…、もうっ、足きついって…。」


覚悟を決めお屋敷に向かい始めてもう30分程たっただろうか、私の足と心は限界を迎えていた。なぜなら想像以上にお屋敷への道が遠く坂道だらけなのがいけない。実際の所、いつも来る時は車だったけど何とかなるかなぁと歩きを選択したのが間違いだった…。


「結構歩いて上ったのにぜんっぜん家見えてこないんだけどぉーーーーー。」


やけくそになり坂道の途中で叫んでしまう。最初から楽に行けるとは思ってなかったけど、目的地にもたどりつけないとは思っていなかった。歩みを進めたい気持ちはあるけれど足が死にそうなので一旦休憩することに。はぁ、車通らないかなぁ。なんて他力本願なことを考えていたら車のエンジン音が聞こえ、私が上ってきた道から黒塗りの車がやって来た。疲れすぎて幻覚でも見えてるのかと思っていたら、その車は私の前に止まり運転席から人が降りて来る。私はとっさに身構えた、だが降りてきた人は私の前に立ち深くお辞儀し名乗り始めた。


「私、寿々成家の執事をしております神宮寺と申します。

お久しぶりでございます、麗様」


私は頭を上げたその人の顔を見て、声を聴き、名前を聞いて思い出す。私が小さい頃から寿々成家に居て、わがまま三兄弟に苛められた私を優しく慰めてくれた人。小さい頃の記憶だけど覚えていた、でも・・・。


「カッコ良すぎる……。」


何故か小さい頃の記憶に神宮寺さんの顔が残っていなかったが、今目の前に居る神宮寺さんがカッコ良すぎるのだ。二重で目が大きく少しきりっとした眉毛、薄目な唇、清潔感溢れる黒髪短髪、すべてが神レベルにかっこいい。いやー、小さい頃にこんなイケメンに慰められてたとかヤバ過ぎ、一生自慢できる。なんて神宮寺さんの顔を見ながら自分の世界に入っていると優しい声で名前を呼ばれた。


「麗様…、麗様…、どうかなさいましたか?」


ふと現実に戻り、私は急いで乱れている髪や制服を直す。


「あっいえ、なっ、なんでもありません!!元気満々です!」


神宮寺さんの顔が良すぎて興奮していたとは言えず、場を紛らわすために変なテンションになってしまった。高2が元気満々とか言っちゃダメだろ、ヤバい引かれたかな・・・。恐る恐る神宮寺さんの様子を伺うとニコニコと満面の笑みを浮かべていた。


「麗様が変わらず元気な様で神宮寺、安心致しました。

では、このまま屋敷まで送迎させて頂きますのでどうぞお乗りください。」


慣れたように神宮寺さんは助手席のドアを開け、こちらに微笑みかけているけれど有無を言わせない雰囲気だったのでおずおずと私は乗り込んだ。無事乗り込んだのを確認すると神宮寺さんも運転手の席へ乗り込む。


「お待たせ致しました。スピードはあまり出しませんがご気分が悪くなりましたら、すぐお伝えください。」


無駄のない動きでシートベルトをしエンジンをかける姿を目で追ってしまう。走り出してから無言の車内に私はガチガチに緊張してしまってが神宮寺さんが気を利かせてくれたのか話しかけてくれた。


「お休みの所、坊ちゃま達の件でご迷惑をかけ申し訳ありません。」


「えっ、いや全然大丈夫です!それに母からの要請なので私は断れませんし…あは」


「失礼致しました。本来なら私共使用人が解決すべきなんですが、今回は中々手厳しく。」


神宮寺さんが少し疲れた様に見え、思わず大きなことを言ってしまう。


「その、皆さんよりも私の方が年齢も近いですし理解出来ることもあると思います。

それに今回は幼馴染として来たので強引に行こうかなって。」


「ふふっ、確かに仰る通りです。私共もお手伝いしますので宜しくお願い致します。」


「はっ、はい!!あっ、あのー、一つ聞いてもいいですか?」


「いかがなさいました?」


「お屋敷まであとどのくらいですか?」


会話も弾み、楽しい車内ではあるけれど窓から見える景色にお屋敷が出て来ず不安になってしまった。


「あと10分程でしょうか。あのまま歩いていたら、あと1時間はかかっていたかもしれません。」


「えっ、1時間…。神宮寺さん拾って下さりありがとうございました。」


全然何となくで来れる距離じゃないじゃん。もー、お母さんもなんか言ってくれたら良かったのに!

電話をしてきた母に少しイラっとするも神宮司さんには感謝しかない。


「いえ、お礼は裕美子様にお伝えしてください。」


「えっ、お母さんにですか?」


ついさっきまで母にはイラっとしていたからか、神宮司さんにそう言われ驚きを隠せない。


「えぇ、麗様の送迎をしてほしいと言われ私が志願いたしましたから。

ご連絡が上手くいってなかったようで一度ご自宅まで行ってしまいました。」


「あ、そうなんですね…って家まで行ったんですか??」


「はい、お迎えに上がりましたが行き違いになってしまいましたね。

ですが坂の途中でお会いできて安心致しました。」


「うっ、すみません…。親子共々」


満面の笑みでいうものだから私は申し訳なさが倍増し、声が小さくなりながら謝ることしかできないでいると神宮寺さんが鼻で笑い逆に謝ってきた。


「こちらこそ申し訳ありません。麗様の表情がコロコロ変わるのが可愛らしくて、つい意地悪な言い方をしてしまいました。」


イケメンに可愛いと言われ、顔が赤くなってしまう。冗談だと分かっているものの、むず痒くなってきて無理やり違う話題にもっていく。


「あっ、なんかお屋敷っぽいもの見えてきましたね~。あはは!」


違いすぎる話題にも神宮司さんはスマートに返してくれる。


「あと2・3分もすれば屋敷の門に着く予定ですよ。」


「分かりました、門の人に名前伝えればいいですよね?」


「私が車でお迎えすると伝えているので、その必要はありません。」


「何から何までありがとうございます。」


「いえ、執事として当然のことをしたまでです。」


神宮寺さんともう少し話をしていたかったけれど、ここからが本番。本当に2・3分で着き、門を無事開けてもらうと約2年ぶりのお屋敷と対面した。やたら大きい家に玄関前には噴水、少し懐かしさを感じながらも緊張が高まっていく。玄関前に車を着けてもらい、行きと同様に神宮寺さんがドアを開けてくれ私に話しかけてくれた。


「麗様なら大丈夫です。何かあればすぐに神宮寺をお呼びください。」


微笑みながら言ってくれたこの一言に安心し、頑張ろうとおもえた。車から降り、玄関に向かおうとしたときにまだ神宮寺さんに言いたいことがあったのを思い出し大きな声で伝える。


「神宮寺さ~ん、私のこと麗で言いですからね~!!」


様呼びは気恥ずかしかったから普通に呼んでほしいと思い伝えたことだった。大きな声を出したからか少しスッキリした気持ちになりながら、歩く私の背中を見守る神宮寺さんが顔を赤くしているなんてつゆにも思わなかった。


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