第2話 この間見た夢の話 2日目

 気づけば恐竜が暮らしてる世界にいた


 村は意外と平和であり、恐竜に抵抗していた。

 その安全な場所にみんなは別の飛行機に乗ったが、私はなぜか乗り遅れて別の飛行機に一人取り残された。

 みんなが降りる飛行上を通り過ぎ大きなプールに落とされる。私が餌だった。

 飛行機から振り落とされ真っ逆さまに落ちていく。

 しかし風に煽られ奇跡的に観客席の方へ転がり落ちる。観客席の奥にいる多良という人物の名前を叫んだ。果たして、その人は蝶が飛び立つように爪先を蹴り私を抱えて音も立てずに着地した。

 その人は多良(たら)というアッシュグレーな髪色にも関わらず和服を着こなす中性的な男性だった。なぜか私は気に入られており、私も凄く信頼しとても仲が良かった。優しくハグをし、「おかえり」と言われ「ただいま」と返した。


 程なくして私と多良は村へ戻ってきた。

 安堵した刹那、只ならぬ空気を放っていた。

 規則的に響く地鳴り、音も無く静まり返る村…極め付けにあの独特な音を出して喉を鳴らしているであろうあの生物…。恐竜だ。それもかなりでかい殺気からして肉食だろう。

 繋いでいた多良の手を強く握ると同じく多良も私の手を強く握った。お互い緊張と恐怖に戦っている。

 音を立てずに家に隠れ、奴が去るまで息を潜んだ。

 果たして、犠牲は誰も出ず奴は去っていった。

 今度こそ安堵し二人の緊張は解かれた。


 〜


 数日が経ち多良は用事ができ村を離れる事になった。私は多良と一緒だからここまで来れた様なものだ。そんな顔を見越してか、多良は「僕がいない間、別の部屋を用意する。ここなら安全だ」と私の頭を撫で微笑んだ。


 多良の旅立ちと共に私は用意された別の部屋に移った。村の中というのに、ホテルのような場所だった。しかし此処でも嫌な感じがする。病院独特の、強い消毒液の匂いが鼻腔を刺激した。

 安全を考慮し、私は村へ出る事にした。

 驚いた。村に家族が来ている。私を探している様だった。目が合うなり「良かった、見つかった」と喜び合う家族。だが私は見逃さなかった。家族たちの目は何処か虚で濁っていた。家族だけど、家族ではないと本能的に察知し逃げ出した。

 果たして、家族は血相を変え私を追いかけ出した。

 多勢に無勢とはこの事である。すぐに追いつかれホテルへ戻された。家族な何をしたいのか分からず「どうするつもりだ」と威嚇した。

 すると家族の口から予想を遥かに超える絶望的な計画を説明された。「私を妊娠させてその子供を恐竜に食わせる…?」おぞましいにも程がある。

 赤ん坊一人で何ができると言うのか、何故そんなことを思いつくのか、頭がおかしくなりそうだった。

「多良がこんなことするわけない」そう、多良は私にこんな事させない。元々用事にも少し警戒してたんだ。まんまと家族にはめられたのだ。

 多良はいまどこで何をしてるんだろう…いや、なにを「されてる」んだろう。

 家族はもう私を人間として見ていない、ただの道具に過ぎない。

 私は覚悟を決めた。元々恐竜にちょっかいを出される村に住んでいるんだ。武器の使い方くらい知っているし持っている。

 多良の安否と身を守ることだけに全部を捨てた。

 二度と立てないように…頭を狙い狙いを定め人差し指に力を込め引き金を引いた。ばたりと倒れる父親を横目に只動くものに銃を向けた。向け続けた。

 後悔なんて数分前にとっくに捨てた。多良に会いたい。自分の身は自分で守り、その多良が守ってきた村も見捨てない。多良が居ない今、私にできることはそれだけだ。村の者にまで手を出す家族にもはや手加減など忘れてしまっていた。

 その瞬間、奴の足音が地面を揺らした。

 これだけ銃声が鳴り響く村だ。奴が気づかない訳がない。村の者も残った家族もその大きすぎる影に顔を上げる。

 ワニの様な頭部だが、あの分厚い皮膚…おまけに二足歩行で馬鹿デカい胴体。すでに何匹か同胞を食べたであろう白い鋭い歯が今は赤く染まっている。

 皆固まっている。そうだ、それで良い。動くな、声を上げるな、息を潜めろ。奴は動く奴には敏感だ。それにもう腹は空いてないはずだ。じっと堪えていれば…。

 その沈黙を破ったのが2歳と5歳の私の従兄弟だった。無理もない、本当に無理もない話だった。初めて見るこんな化け物に恐怖で声を上げずにはいられない。それを機に化け物は大きく吠え村を揺らした。家族にはもう情けをかけないつもりで居た。

 でもまだ何も分からない2歳と5歳に大人の様な罪はない。二人を狙う奴に威嚇射撃をし気を逸らす。

 そして体や頭に何十発か体に撃ち込んだんだ、もう長くはないと信じたい。

 その隙に二人を抱え村の高いところまで気合いで走った。体のリミッターなんかもう外れている。

 多良があのとき飛んだように私も地面を蹴る。人蹴りで3mは飛んだか、そんなの気にしてる暇はないとにかく高いところに…。

 多良と私が居ない今、村を守る者は居なくなった。

 家族は仲良く奴等のおやつになったのだ。

 二人を抱えながら峠を越えると緑が生い茂るもう一つの村があった。こんなすぐ隣にこんな綺麗な村があったなんて思いもしなかった。

 もっと早くに気づいてみんなに知らせるべきだった。後悔の渦に飲まれてる私に聞き覚えのある声が私を呼んだ。私が守れなかった村の者達だった。

 その綺麗な村に当てられたのか、天国に見えた。

 もう死んでしまったかと思った者が生きている。体がボロボロでもう死を覚悟していた私が見ている者は天の迎えに思えた。笑って村の者は言った。


「この村の存在はとうの昔に知っていたさ。半分は此処まで逃げてこれた。アンタがいち早く恐竜と戦ってくれている間に逃げることができた奴が此処にもいる」


 守れるもは犠牲もあるが守り通せたのだ。

 自分も、罪のない愛おしい従兄弟も、村の者も。

 体の力が抜けガクンと座り込む。全身が痛い血は流れていないのに吹き出しそうだった。



 〜ここで起きてしまったのでハッピーエンドにする



「よく頑張った、生きてて良かった」

 ずっと聞きたかった声が耳に入ってきた。

 いつも澄んだ顔をしてる多良が涙と泥で汚れていた。その両腕に私は倒れる様に抱きついた。

「ああ、良かった。こんなに心配させたんだ、絶対死なせない。よく耐えた」

 その語彙力の無さが余裕が無いことを証明していた。きっと村の騒ぎに気付いて飛んで走って来たのだろう。顔には泥が跳ね返り、枝に引っかかって破れたのか着物もボロボロだった。

 挙句子供のように涙を流しながら私の名前を呼ぶ多良はきっと世界で一番美しかっただろう。

 なんて思いながら私も涙でぐしゃぐしゃになって再会を喜んだ。


 こんなエンドだったらいいな〜。

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