使い魔思いの主人 後編 作者:ますあか

●於兎は何者?


ハヤテ「ご意見番、甲賀者の於兎って一体何者なんですか?」


令「あら、ハヤテは於兎のことが気になるの?」


ハヤテ「於兎は変化の術でも使っているのですか」


ご意見番は、ふうっとため息をつくと珍しく俺に苦言をはいた。


令「ハヤテ、あまり他所のデリケートな問題に首を突っ込んではだめよ」


そのとき、自分の相棒がもうスピードでこちらへ向かってきたことに気づいた。


ナルカミ『主! ご意見番!』


ハヤテ「どうした、ナルカミ?」


ナルカミ『忍びの里の罠に誰かがかかったようだ』


ハヤテ「敵襲か? それにしては、鈍くさいような」


令「ハヤテ、少し様子を見てきてくれないかしら?」


ハヤテ「御意」


そう言ってハヤテはさっと消えた。


令「ハヤテも大変ね。面倒見がいいのも考えものだわ」


※  ※  ※


●罠にかかった者


ナルカミ『主、罠にかかった者を見つけたのだが……』


端的に伝えるしっかりしたナルカミにしては、珍しく歯切れの悪い言い方をしている。


ハヤテ「よくやった、ナルカミ。視覚を同調するぞ」


ナルカミが何か言いたそうにしていたが構わずに、ナルカミの目から罠にかかった人物を確認する。


ハヤテ「……」


ナルカミ『……主』


罠にかかっていた人物は、於兎だった。縄にぐるぐる巻に縛られている。ハヤテはこめかみを手で押さえた。


頭が痛い。


しかしご意見番には様子を見てくるように頼まれている。このまま放置するわけにもいかないだろう。


ハヤテは罠にかかった於兎の元へ向かった。於兎が彼に気づくと、


於兎「ああ、ハヤテさん! いいところに。ヘルプミーです」


ハヤテ「於兎は一体何をやっているんだ」


みると、忍びの訓練で使われる罠にかかったようだ。


於兎「忍びの里の周辺を見てまわっていたら、罠にかかってしまって……」


ハヤテは頭痛がする頭を押さえながら、ナルカミに告げる。


ハヤテ「……ナルカミ、俺は先に里へ戻るから。於兎と一緒に帰ってこい」


ナルカミ『主?!』


「お前はお目付役だ、これを機に於兎と仲良くするように」と目で促し、ハヤテは足早にその場を去った。


これを機に、於兎とうまく接するようにと暗に伝えたつもりだ。


優秀な相棒は、自分の意図に気づいてくれるだろうと信じて。


※  ※  ※


●兎様


沈黙が辛い。こんな思いを使い魔である自分が感じる必要があるのだろうか?


普通、人間同士が対応するはずだ。なぜ、使い魔の私にこの者の面倒を任せるのか?


しかし主の言いつけだから、しっかり守らなければ、そんなことを思っていたときだった。


於兎殿がまた罠に引っかかりそうになる。


ナルカミ『於兎殿』


於兎「ひいいっ、な、なんでございましょうか?!」


ナルカミ『右手にある木に罠が仕掛けられているから、決して触らぬように』


於兎「あ、ありがとうございます」


ナルカミ『礼には及ばない』


またしても、あたりが沈黙に包まれる。


ナルカミ『於兎殿は、どうして我が苦手なのか』


於兎は困ったような顔をして、つぶやいた。


於兎「あのね、兎様がナルカミさんのことが苦手みたいなんだよね。ナルカミさんは悪くないよ」


ナルカミ『兎様?』


於兎「兎様はね、私の大事な存在で一心同体なんだよ」


ナルカミ『……』


兎様、新たな情報にナルカミの頭には疑問が飛び交った。


於兎「でもね、兎様もナルカミさんのことは認めてくれたみたい。もう、大丈夫だよ」


この日を境に、於兎はナルカミへの態度を改めたと思う。


※  ※  ※


●一件落着……?


於兎は相変わらずナルカミに多少びくびくしているが、少し慣れるとナルカミ相手にマシンガントークをするようになった。


ナルカミは於兎のマシンガントークに若干、いや、かなりうんざりしているようだった。


ハヤテ「これで一件落着なのかな?」


ハヤテは、ナルカミと於兎の会話(?)を見ながら、新たな情報について考えた。


兎様…か。


伊賀と甲賀が同盟を組んでいても、全ての情報を開示しているわけではない。


少し兎様について調べておくか、もしかしたら甲賀の秘密が分かるかもしれない。


情報は少しでも多いに越したことはない。


もしかしたら、於兎は甲賀の秘密に包まれた優秀な忍びなのかもしれない。


ナルカミ『於兎殿、その花は毒があるので触ってはいけません』


於兎「そういうことは早く教えてよ~」


いや、やっぱりポンコツな忍びなのか……?


ハヤテは於兎の正体を見極めようと、今後も見張っておこうと心に決めた。

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