第18話

 先に仕掛けたのはサイフォンの方だった。一歩踏み込み突きを繰り出す。


「ヤ――――ッ!!」


 詩音は躱そうとした。しかし、躱そうと思ったころには、サイフォンの突きが詩音の喉を突いていた。


「な、なんという速さだァ! 右京選手もこれは躱せない!!」

「ゲホッゲホッ……」


 詩音はむせ返りながら後ずさり、うずくまった。


「俺の突きは反射神経を凌駕する速さだ。棍術界最速のガンスリンガー棍術の実力はこんなもんじゃないぜ!」


 サイフォンは光速の突きを連続で繰り出す。一撃一撃は眼で追うことができず、容赦なく詩音に降り注ぐ。


「ハイハイハイハイハイィーーーーッ!」

「速い速い速い! 高速ラッシュが右京選手を襲う!!」


 詩音はすべての攻撃をまともに受けた。しかし、倒れることは無かった。


「なぜ立ってられる!」

「速ええけど、いまいち攻撃力がないぜ。本気で打ってるか?」

「くっ、オラアアアアアア!」


 サイフォンは再度突きを放つ。ガンスリンガ―棍術は光速で突きを放ち、相手の急所を反撃の間を与えずに攻撃して倒すという戦い方の技である。サイフォンも例に漏れることなく詩音の急所を狙い突き続ける。しかし詩音は倒れない。それどころか効いてるそぶりを見せない。サイフォンは攻撃を出しながら考える。観察する。そして一つのことに気付いた。


「こいつ、急所をギリギリのところで外しているんだ! 俺の突きは最速なんだ! それをあいつは少しずつだが見切ってきているってのか!!」


 詩音は寸でのところで反応し、間一髪のところで回避していた。見切りもどんどん正確化していき。ついにサイフォンの棍棒を掴んだ。


「結構くらっちまったけど、もう見切ったぜ」

「な、なんだと!」

「もうお前の突きは怖くねえ。今度はこっちから行くぜ!」


 詩音は掴んだ棍棒と左足を支えにし、その場でサイフォンの顎に膝蹴りを放つ。


「ゴバアッ」


 サイフォンは勢いよく後方へ吹き飛ぶ。続けて攻撃を仕掛けるため詩音は走り出す。


「まだ終わりじゃねえ! ヤーーーッ!」


 サイフォンは渾身の一突きを放つ。その一撃はサイフォンの限界を超え、突きが音よりも先に到達した。しかし、


「ハアッ!」


 詩音はそれをも見切り、手刀で棍棒を叩き折った。


「あ?」


 サイフォンは何が起きたのか理解できなかった。詩音がサイフォンに後ろ回し蹴りを決めにかかる。そし側頭部に接触する瞬間、寸止めした。サイフォンの眼に闘争心が無かったからだ。


「どうしたよ。そんな目しやがって。もう終わりか?」

「ああ、俺はこのガンスリンガー棍術がすべてだ。それがこうも完璧に破られちゃあ、どうすることもできねえ」


 サイフォンは折れた棍棒を腰の帯に掛けると、詩音に握手を求めた。


「俺の負けだ。強ええな、お前」


 詩音は握手にこたえる。


「おおっと! これはサイフォン選手が参ったを宣言しました! よってこの勝負、右京選手の勝利です!」


 両者の大健闘に観客席は一番の盛り上がりを見せた。


「ここで一度休憩をはさみまして、午後から第二回戦、右京選手対オーベロン選手の対戦が行われるぞ! 両者最高に強いが、果たしてどうなるのか!!!」


 詩音はサイフォンと互いをたたえ合いながら、控室に戻っていった。




 控室に戻ると、ルナ、クレア、クリスタの三人がいた。


「あ、詩音さん! お疲れ様です!! あと、二回戦出場おめでとうございます!!」

「試合は見れなかったが激しい試合だったそうだな。だがそれでも勝ってしまうとは、すごいなお前は。おめでとう」

「その感じだと回復は必要なさそうですね。つまらないです」

「ああ、みんなありがとうな。それと、そっちは何かわかったか?」

「はい、それがですね」


 ルナは調査ついて話し始めた。




 ルナたちは魔力のこもった蛾について、更に調査していた。


「呪いというのは足が付きやすいですから、術者はそれも対策するものなんですね」

「では呪いの出床を調べるのは無理か」

「まあ普通なら、ですがね。でも私とクリスタさんで協力すればできるかもしれません」

「私の呪いの緩和で緩めて、その間にルナさんが逆探知するんですね」

「そうです! ではやってみましょうか」


 ルナとクリスタは蛾に魔力を送り込む。


「やはり相当強い呪いですね。これは本気でかからないとダメみたいです」


 クリスタは送る魔力量を更に高めた。


「どうですか? ルナさん」

「これなら探知できそうです。もう少しそのままで」

「早くしてくださいね。結構限界近いので」


 ルナは紙にすごい勢いで何か書き始めた。


「すごいな二人とも……私にはなにがなにやらさっぱりだ」

「終わりましたよ」

「紙には何を書いていたのだ?」


「魔法の詠唱の文言ですね。呪いや召喚系の魔法は自身の名前を入れるのが一般的なので」

「つまり詠唱を見れば術者本人が分かるということだな」

「はい。そういうことです。では早速見てみましょうか」


 クレアは書いた紙を読み上げる。


「どれどれ……ここに汝は存在せず。故にここに狂気はなし。なれば我が力を依り代とし、我の名に従い、災いを振り撒かん。すれば汝に狂気をもたらそう。我、オーベロンの名において、汝の災厄を招き入れん。フランソワーズカラミティ」

「ということはオーベロンという人が犯人ということですね。後はその方を探す方法を考えま……どうしました? ルナさん。そんなに目を丸くして」

「オーベロンという人、昨日のエントリーの受付で会いました」

「つまりは詩音と試合をする可能性が高いということか。ならば詩音にそのまま倒してもらえばいいだろう」

「そう簡単にはいきませんよ。このフランソワーズカラミティという魔法。実物を見たことはありませんが魔王軍が所有しているといわれる災厄の魔導書、アリシアズ・スペルブックに記載されている魔法です。」

「そんなことまで知ってるのか、ルナは。一体どこでそういうの知るんだ……」

「聞いたことがあるだけですよ。それより、先ほども言ったように魔王軍が所有していますからオーベロンは魔王軍関係者で間違いないでしょう。更にこれだけの範囲を呪えるのですから、恐らく幹部クラス……」

「そ、それはまずいではないか! 早く詩音に知らせねば」

「そうですね。詩音さんのもとへ向かいましょう!」




「と、言うわけです」

「なるほど、オーベロンは魔王軍幹部なのか。確かに一回戦は死ぬ手前まで相手を痛めつけてたし、相当強くて性格悪いんだろうなとは思っていたが」

「どうする? これを聞いてもまだオーベロンとやるか?」

「あたりまえだろ。あのままほったらかしてたら流行り病も解決しないし、これから何をするかわからない。だから俺がやるしかないだろ。それに」


 詩音は拳をぐっと握り、楽しそうに話す。


「俺はあいつと試合をするって約束したんだ。男が約束を破って逃げたら恰好が付かねえ」

「お前はそういうと思っていた。私はお前のそういうところ、嫌いじゃないぞ」

「本音は強そうな人とできるチャンスを逃したくないからとかそういうのでしょう?」

「まあそれもあるがな!」

「とにかく。オーベロンと戦うのなら、気を付けて行けよ。奴はただ物ではないからな」

「おうよ! そろそろ時間だな。それじゃ行ってくる」

「ああ。叩きのめして来い!」

「詩音さん! 頑張ってください!」

「回復は任せてくださいね」


 三人は詩音が入場門へ向かうのを見送った。


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