第17話
「さあ第一グループの試合が始まりました! 実況は私、ニコラスでお送りします! 第一グループ、序盤から白熱していま……おっと! 他の選手を立て続けに倒している選手がいるぞ! あれは今回が初出場の右京選手だ!」
詩音は向かってくる敵を一撃で沈めまくっていた。
「全然手ごたえがないぞ。こんなんで本戦大丈夫かよ……」
すると、詩音の前に色黒の大男が現れた。
「オマエも、壊す」
「おお、ちょっとはやりそうなやつがいるじゃねえか」
「右京選手の前に現れたのは、こちらも初出場にして他を圧倒しているゴング選手! これはどちらかの勝利がそのまま予選の結果になってしまうのだろうか!」
「潰す!」
「来い!」
ゴングが少年だったころ、街の道場にて拳法を習っていた。その拳法は動物の動きを模した動きをする、いわゆる象形拳だった。ゴングは体を動かすのが楽しいから、そして強くなっていくのがうれしいから懸命に稽古に励んだ。ある日、ゴングの住んでいた村に、当時から村を襲い村民を困らせていた猛獣、ジャイアントゴリラが村を襲いに来た。外で遊んでいたゴングはジャイアント・ゴリラの圧倒的な力を目の当たりにする。結局ゴングは助かったのだが、そのときあることを思う。なぜ猿や虫など人よりも劣る動物をまねるのか。目の前に真似るべき最強の生物がいるではないかと。その日以来、ゴングは危険を承知でジャイアントゴリラを観察し、自身を鍛えていった。
ゴングは詩音に攻撃を仕掛けようとする。ゴングの攻撃は実にシンプルだった。拳を握り、腰をねじって拳を後方に引く。構えはこれだけである。普通なら相手に読まれてしまうようななんの工夫もないパンチ。しかしジャイアントゴリラがそうであった様に、一撃で敵を粉砕せんという、力を過信しすぎていて、しかし己の鍛え抜かれた肉体と自信が誰にも過信だと言わせない、そんな攻撃だ。
「面白れぇ。俺に打ってみろ!」
詩音はゴングを挑発する。ゴングが拳を振り下ろした。詩音は振り下ろされる拳を見ると、直観的に金剛の構えを取っていた。パンチからは絶対出ることのない爆音が闘技場に響く。
「っお……重すぎるだろ……」
詩音は耐えこそしたが、足が地面にめり込んでいた。
「オマエ、なんで立ってる」
「シンプルだが絶対の自信と信念が伝わってくる良いパンチだったぜ。今度はこっちの番だ!」
詩音は構えをとる。それに続いてゴングも防御の姿勢をとる。ゴングはジャイアントゴリラを真似ているだけあって、体も相当鉄壁であり、いくらボディーにパンチを打ってもびくともしないだろう。しかしそんな大男にも弱点がある。脳震盪だ。体の動きをつかさどる脳がやられれば、どんな大男も立っていることは出来ない。
「シャッ!」
詩音はゴングの顎に向け回し蹴りをはなつ。側頭部を蹴るのではなく、顎を掠め、脳を揺らす。このとき、ゴングの視界は歪み、いつの間にか地面が迫っていた。
「な、なんということだ! 右京選手がゴング選手をダウンさせたー!」
「お前の戦い方、結構好きだぜ」
「もう他の選手はすべてダウンしている! つまり、予選第一グループを制し、本戦トーナメントへ進出するのは右京選手だーーーッ!!!」
詩音は右手を上げ、勝利を宣言する。観客席は大歓声でいっぱいだ。
「第一グループの選手が続々と運ばれていく。右京選手も手を振りながら控室に退場していくぞ! おっと、第二グループの選手たちが入場してきたぞ! 次はどんな熱いバトルが繰り広げられるのか!」
退場門から、詩音は次のグループの選手を見ていた。
「あ。あれオーベロンじゃねえか。第二グループだったのか。どんな戦い方するのか見てやる」
「さあ第二グループも選手が出そろった。なら早速始めるしかないよな! さあ、第二グループバトルロイヤル開始の太鼓が……今叩かれた!!」
第二グループの試合が始まった。
第二グループは史上最速で終った。オーベロンがすべての選手を瞬殺してしまったからだ。退場門からオーベロンが退場してきた。
「オーベロン、お前やるじゃん」
「そっちこそ。ボクの見た通りの強さだね」
「本戦楽しみだぜ」
「ボクのほうこそ。ボクと当たるまで負けないでね」
詩音とオーベロンは対戦の約束を交わし、それぞれの控室に戻っていった。
「さて、4グループすべての予選がおわった! 本戦へ出場選手を紹介するぜ!まず第一グループ勝者、右京詩音選手! 今回は初出場だがその強さは本物だ! これは本戦での期待も高まります!」
詩音は観客に手を振る。
「続いて第二グループ勝者。オーベロン選手! 小柄な少年でありながら歴代最速で勝利している! 続いて第三グループ勝者。サイフォン選手! 棍棒の使い手であり、今回の予選もその棍棒で他の選手を圧倒してきました! 次は第四グループ勝者。ザハール選手! 前回は惜しくも準優勝だったが今回は優勝できるのか! こいつからは眼が離せないぞ! 最後に前回優勝者のルキウス選手! 今回は3連覇がかかっている期待の選手だ! この選手の芸術の様な剣さばきは今回も観客を魅了してくれるのか!」
5人の選手は壇上のくじを引く。
「トーナメントの組み合わせが決定したぞ! 第一試合はオーベロン選手対ザハール選手! オーベロン選手とザハール選手は準備に入ってください」
他の選手は控室へ退場していった。
「さあ、準備が整ったみたいだぞ! それでは早速第一試合開始!」
試合の合図の太鼓が叩かれた。
第一試合はめちゃくちゃだった。そう表現するしかないほどの結果だった。結果はオーベロンが一方的で試合が進んで行った。そして、危うく殺してしまうほど殴りつけたところで、試合終了の太鼓が鳴り、強制終了した。
「先ほどの試合は危うくオーベロン選手が失格になるところでしたが、二回戦進出はオーベロン選手! 圧倒的な試合展開でした! さて、続いては右京選手対サイフォン選手!」
2人の選手が入場してくる。
「第二試合、開始ッ!!!」
詩音の本戦が始まった。
「お前、棍棒使いって言ったな」
「ああ。いっとくが俺の技は一味違うぜ」
「そりゃあ楽しみだ。じゃあ、早速行くぜ!」
詩音は間合いを詰めようとしたが辞めた。サイフォンの構えに引っ掛かりを覚えたからだ。
「な、なんだそれ!」
サイフォンは右足を引いて半身の姿勢を取り、棒を腰の高さで構える。その姿勢はまるで、
「銃剣道じゃねぇか……」
「銃剣道? 俺のはそんなんじゃねえ。ガンスリンガー棍術だ」
ガンスリンガー棍術。それは他の棍術とは異なり、突きのみに特化して発展してきた流派であり、ガンスリンガーという男が最初に生み出したとされる。特徴なのは突き技しかないところと突きの速度の速さである。棍術では最速といわれ、達人ともなれば、音速に匹敵する速さの突きを出せるという。
「面白れぇ流派を使うんだな」
「珍しいとはよく言われるがな。お前は俺の突きで一瞬で倒れるんだ」
「その意気だぜ。俺は強いやつとやりたくて出場したんだ。退屈させると許さんぞ!」
「退屈はしねえよ。それどころかここに出場してきたことを後悔させてやるぜ!」
詩音とサイフォンはまさに一触即発だった。
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