第9話
パルスに着いた三人は、
「この屋の串焼きめちゃくちゃ上手いぞ! ルナ、クレア!」
「本当だ、これは美味しい。ん? 詩音、あちらの屋台に行ってみないか?!」
「二人とも、観光しに来たんじゃないんですから、ほどほどに……」
パルスの街を全力で楽しんでいた。
「そういわずに、ほら」
「んっ……ほんとだ美味しい。ってそうじゃなくて! 私たちは回復術士を探しに来たんですから、術士学校へ行きましょうよ!!」
「へぇ、お客さんたち回復術士を探してんのか」
屋台のおじさんが話しかけてきた。
「そうだよ。おっちゃんは学校がどこにあるのかしんてんの?」
「知ってるも何もあれがそうさ」
おじさんは街の奥の方にあるとても大きな建造物を指さした。
「あのでかいやつ?」
「そうさ。ここパルスは他の都市への道の交差する場所にあるからな、貿易と観光が栄えているが、それだけじゃねえ。パルスはドミスク、いや、今となっては大陸最大の回復術士の学校があるんだ! だがよ、なんで回復術士を探しているんだ? 誰か治したい人でもいるのか?」
「パーティーメンバーになってくれる人を探しているんだ」
「なるほどな。確かにあそこはメンバー勧誘を斡旋してるからな。行ってみるといい」
「そうするよ。ありがとな、おっちゃん。二人とも、行こうか」
「はい!」
「まだ食べ終わってないのだが」
「早くしてください……」
詩音とルナはクレアが食べ終わるのを待ってから向かうことにした。
王立キュアリー回復術士専門総合女学院は、ドミスク中の魔力の才に秀でた学生たちが回復術士の資格の取得、及び回復魔法の研究を行うため集う教育機関である。基本的に全寮制で二人一部屋で生活する。クラスには年齢が関係なく、魔力量や成績によりクラス分けされる。卒業するには学校長が出す回復術士の資格が必要である。そのため入学してから最短で卒業する学生もいれば、何歳になっても卒業できないものまで様々いる。
「という説明でしたけど、結構大変そうなんですね。私たち魔法使いは師匠に習ったりして習得し、自分で名乗るのが一般的ですから」
「そうだったのか。だとしたら、めっちゃ優秀な人がみつかるかも」
「だといいが」
三人は学校の中を見学していた。
「中庭なんかあるんだ。いいなぁ、俺の高校には無かったな、こんな綺麗な中庭」
「あそこ、人が集まってますよ?」
中央の噴水周りに設置されているベンチと、中庭横の渡り廊下に人だかりができていた。ベンチの方の人だかりの中心に一人の女子学生がいた。大きなエメラルド色の目は周りを引き込むような魅力があり、長めの金髪は手入れが行き届いていて、風が吹くと綺麗になびく。容姿や振る舞いは貴族のお嬢様のようだった。
「クリスタお姉さま! 試験学年一位おめでとうございます!!」
「流石お姉さまです!」
「今日もお美しいですね!!」
「真ん中の子、クリスタっていうんだな。人気者なんだな」
「そういうわけでもなさそうですよ」
ルナが渡り廊下側のグループを指さす。
「なによ、年下なのにちょっと成績がいいからって調子に乗っちゃって」
「後で絞めてやろうかしら」
「あっちの方たちには相当嫌われてますね」
「そうだなぁ。よし」
詩音はクリスタに近寄っていった。
「やあ、こんにちは」
「あら、どちら様ですか?」
クリスタが反応してあいさつする。
「俺は詩音。冒険者をやってて、パーティーメンバーになってくれる回復術士を探しているんだけど」
「あら、そうでしたの。でしたらそこを右に曲がったところにある受付に行っていただければ」
「君が(なって)欲しいんだけど」
「はい?」
「なっ!?」
クリスタは困惑し、ルナは心臓が止まるかと思うほど驚いた。
「おっしゃってる意味が分かりませんが」
「だから、メンバーになってほしいんだけどって」
「ホッ」
後ろから安どのため息が聞こえた。
「お生憎ですが、私まだ回復術士の資格を持っていませんの。ですから承諾しかねますわ」
「さっきの話を聞いてたんだけど、成績優秀なんだろ? ならすぐ資格も取れるんじゃないか?」
「そういうものでは……そうですね続きは場所を変えて話しませんか?」
「え? いいけど」
「それではこちらへ。お連れの方もどうぞ」
4人は校内の人気のない場所へ移動した。
「ここでいいのか?」
「ええ。では、詩音さんといいましたか。あなた、椅子になりなさい」
「え?」
「え?」
「え?」
三人は何を言われたか理解できなかった。
「椅子?」
「そうです。あなたは私が断っているのにしつこく勧誘してきましたから、少々イラッと来てしまいました。ですのでお仕置きです。さあ、早く椅子になりなさい!!」
「なんかやばそうな人引いたのかも……」
そう言いつつも、やらないと終わらなそうなので、やることにした。
「なにをしてるんです?」
「何って、椅子になってるんだけど」
「詩音さん、それ違うんじゃないですか?」
詩音は椅子になった。だが四つん這いではなく、空気いすの姿勢だった。詩音はそういった知識が少なかった。
「違うの?」
「違いますけどまあいいでしょう。まさか自分からつらいほうを選ぶとは」
そういうとクリスタは詩音の太ももに腰かけ、足を組んだ。
「相当安定していますのね。でもつらくなってもやめさせませんから。それではお説教といきましょう」
クリスタはそのままで詩音に説教を垂れた。30分くらい続いた。
「どうですか? 流石に苦しいでしょう? でもうるさいので泣き叫ばないでくださいね」
「いや、クリスタ軽いし全然きつくないぞ」
詩音は汗一つかいていなかった。
「詩音さん顔が余裕そうですね」
「いいなぁ、私も座ってみたいぞ」
「ふふふっ。あなた、とても面白い人ですね。今まで何人もの殿方や御婦人方から言い寄られることはありましたが、あなたほど潰れない方は初めてです」
「言い寄ってはないんだけど」
「そうです! 詩音さんはそんなことしていません! ね? クレアさん」
「あ、ああ」
「どちらにしても、気が変わりました。パーティーメンバーの件、前向きに検討させていただきますね」
そういうと、クリスタは詩音から降り、校舎内へ帰っていった。
「回復術士が見つかりそうだな」
「変わっていらっしゃいますけどね」
「まあ優秀のようだし、良かったではないか」
「さて、もう夕方だし、宿へ戻ろう」
「そうしましょうか」
「ああ」
三人は、宿へ向かった。
「クリスタさん? あなた、さっきの冒険者の方と随分仲がよさそうでしたね」
「あなたたちには関係ないでしょう」
「くっ、年下のくせに生意気な」
「何が言いたいのかわかりませんが、ごきげんよう、デリアさん」
クリスタは自分の部屋に戻っていく。
「なによ、クリスタのくせに」
デリアは悔しがりながら中庭を歩く。すると突然黒いローブをまとった何者かが目の前に現れた。
「だ、誰よあなた!」
「悔しいだろう。つらいだろう。わかる、わかるぞ」
「あ、あんたに私の何が分かるっていうのよ!!」
すると目の前の人物の周りに黒いオーラと漆黒の稲妻が出現した。
「力が欲しいか? あの女を殺す力が欲しいか?」
デリアは唾をのみ、黒い人物に手を差し出した。そして黒いオーラがデリアを包んだ。
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