2章ー回復術師を仲間にしよう

第8話

 ギルドでの祝勝会はとても賑わっていた。


「祝いだ祝いだーー!!!!!!!


「飲め飲め!」


「おい右京! お前、主役が飲まないでどうする!」


ガリウスが悪がらみしてきた。


「い、いや。俺未成年だからちょっと」


「なんだとぉ!? 右京貴様も飲まないと許さないぞ!」


クレアも大分できあがっていた。


「クレアまだ一杯も飲みきってないのに酔うの早すぎだろ……」


「だがドラゴンとあのめちゃくちゃ強かったオークを倒しちまうとは、そこまでのやつとは思わなかったぜ! お前なら、魔王も軽くひねっちまいそうだな!」


「魔王?」


詩音はガリウスの言った魔王という言葉が引っかかった。


「右京さんは魔王の存在を知らないんですか?」


「うん」


「では、魔王についてお教えしましょう!」


セシルは受付の方から地図を取り出し、それを使いながら説明した。


「ここが私たちのいる国です。この国と大陸の反対側に3年前魔王と名乗る魔物とその部下たちが現れました。その日から人類と魔王軍との戦争が行われているんです。現在、国境を接する国がそれぞれ戦っているんです。今ですと、最前線はアスリカ王国ですね。」


セシルは大陸の北からちょうど3分の2位の位置にある国を指さした。


「これより上はすでに魔王軍に落とされてしまいました。しかし今は侵攻が押さえられています。半年前に勇者様が現れたからです」


セシルは詩音を見た。


「ちょうど右京さんと同じで、気がついたらこの世界にいたと最初に言っていたそうです」


「となると、そいつも転生してきたと言うことか」


「勇者様は仲間を引き連れ日々魔王軍と戦っているのです」


「今そんなことになってたのか……俺、やりたいことが出来た」


詩音は席を立ち、高らかに宣言した。


「魔王とやってみたい」


「は?」


「え?」


「「「「はあーーーーーーー!!?」


「魔王って名乗ってるくらいだ、多分この世界で一番強いんだろ。だから魔王に勝って俺の武術が世界最強だって事を証明したい!」


ルナがあきれた様に、しかししっかりとした確信を持って言う。


「そう言うと思いました。でも、いくら右京さんでもなんてもう言いません。今まで見てきてこの人なら本当にやってのけそうだって思えたからです。右京さんなら絶対出来ます!」


「私もそう思うな。右京、貴様の強さはこのクレアが保証する」


クレアも同調する。


「よく言った右京! それでこそ男だ!! だが、今のパーティーだと足りねぇもんがあるな。パーティーに僧侶か回復術士は必須だぞ!」


「確かにそうですね。右京さん、回復術士をパーティーに勧誘しましょう!」


「でもそんな人どこにいるんだ?」


セシルが地図を指さす。


「ここから馬車で1日行ったところにパルスという街があります。そこには回復術士の学校があるんです。そこに行けば良い人に会えるかもしれませんね」


「なるほど。そうと決まれば明日出発しよう! 善は急げってやつだ」


「となると明日も早いですし今日はお開きですかね」


「そうか、右京とルナとクレアは帰っちまうか。でもお前らは飲み足りねぇよな! 二次回ちといこうや!!」


「それじゃあ、お疲れー」


ガリウスたちは続けて飲み、詩音、ルナ、クレアはルナの家へ帰宅した。




 三人は家に着いた後、着替えて寝る準備をする。


「三人だとこの部屋はせまいですね」


「まあ、俺は床で寝るから二人はベッドを使いなよ」


「今日は戦闘で右京さん疲れてるんですからベッドで寝てください」


「いやでも」


「でもじゃありません!」


そういうとルナは詩音の手を引き強引にベッドに座らせた。


「今日は私たちが床で寝ます!」


「ルナよ、私たちも右京と寝たらどうだ。そうすれば誰も床で寝なくて済む」


クレアは何も考えず発言していた。


「え、でもベッド狭いしそういうのはいろいろ問題が」


「それはいい考えです! そうしましょう!!」


ルナとクレアがベッドに飛び乗った。


「右京さんが真ん中ですよ!」


ルナはとても楽しそうに言う。


「はぁ。もう好きにしてくれ。それより」


詩音は二人に向き直って言う。


「二人に言いたいことがあるんだ」


「言いたいこと? 何ですか?」


「俺がギルドでした話覚えてるか?」


「魔王と戦うって話ですか?」


「そんなこともいっていたな」


「その話なんだが、魔王と戦う以上相当激しい戦いになるし、この町から出なきゃいけなくもなる。ルナは研究とかもできなくなるだろうし、クレアも大変な思いをするだろう。でも」


詩音は一つ深呼吸をして続ける。


「それでも俺は二人についてきてほしい。この世界にきて初めてできた仲間だから。お前たちと目指したいんだ。二人は俺についてきてくれるか?」


ルナとクレアは顔を見合わせ、そしてクスリとわらう。


「愚問だな」


「何言ってるんですか」


「もちろん一緒に行きます!」


「私も同行させてもらおう」


「みんな!」


「お話しはこれで終わりですか? 明日も早いですし、今日は寝ましょう」


「そうだな。二人とも、おやすみ」


この日の夜は、三人の絆が深まった暖かい夜になった。




 次の日の朝から、三人は馬車に乗り込み、パルスに向け出発した。


「馬車に乗るの初めてだ」


「そうなんですか?」


「俺の居た世界にはもう馬車なんて走ってなかったからな」


「へぇ。右京さんがいた世界、行ってみたいです」


「あっちも結構楽しいぜ。それと、二人とも俺のこと詩音て呼んでくれないか?そっちの方が呼ばれ慣れてて」


「はい!わかりました。詩音さん!」


「では私もそう呼ばせてもらおう。詩音」


「おう。よろしく」


三人は馬車の中で旅の道中を楽しんでいた。そのとき、


「なんだあれは!?」


御者が叫んだ。


「どうした!」


「お客さん! あれ、あの土煙!」


「もしかして、デザートグースじゃないですか?」


「しってるのか?ルナ」


「あれはここのような砂地に生息しているガチョウです。普段は特に害をなしませんが、繁殖期に限り、オスがメスを求めて群れ単位で全力疾走します。そして岩などぶつかれそうなものがあったらそこに突進します。それでぶつかって、生き残った強靭なオスがメスのつがいになれるんです」


「めちゃくちゃな求愛行動するんだな……待てよ、このへんて岩とかなくね?」


「とすると、この馬車に突っ込んで…………まずいじゃないですか!!?」


「だよなぁ」


「どうするのだ!? 詩音!」


ルナとクレアもパニック状態だ。


「御者さん。馬車を止めてくれ」


「何する気ですか!?」


「俺が岩になる」




 馬車を止めると、詩音は足を左右に開き深く腰を落とした。デザートグースは馬車に突っ込んでくる。


「こっちだ!」


そういうと詩音は、そのままの姿勢でさらに前傾する。その姿に馬車よりも固いものだと感じ取ったのか、進路を詩音のいる方へ変えた。先頭がもう15メートルまで迫るとき、


「八ツ!!!!」


詩音は先頭に向かってタックルをかました。その後先頭に後続のサンドグースが連なっていく。


「くぉりゃああああああああ!!!!!!」


詩音はサンドグースの群れを押し上げる。そして5メートル進んだところで、サンドグースはあきらめたのか、進路を90度変え、走り去っていった。


「やばかったな」


「もうなんと言ったらいいのか。凄すぎて呆れてしまうぞ…………」


「お客さん! ありがとうございます!! お礼はパルスに着いたら沢山させていただきます!!!」


「いや、いいんだけど」


「ぜひさせてください! さ、お客さん乗ってください! パルスはもうすぐですから!!」


詩音はまたも何とかしてしまい、馬車でパルスへ向かうのだった。




「見えましたよ! お客さん!」


数時間後、パルスの街が見えた。


「これがパルスか! 楽しみになってきた」


「そうですね! 私もパルスは初めてです!」


「私は一度行ったことがある。この街の食事は実にうまい」


「ますます楽しみになってきたぞ」


三人はパルスの街に期待を寄せるが、このとき、大きな力がパルスを襲うことになるとはだれも知る由がなかった。

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