第23話 シアとエレナと敵ルーナ?①
「それじゃ、あたしは先に失礼させてもらうわね」
「ランチ凄く楽しかったです!」
「またよろしければご一緒してください! エレナ様」
「ええ、もちろん」
一緒にランチを取っていた知人と別れ、エレナが食堂を出た矢先のこと。
「わっ!」
「あ、あら」
教材を抱えたシアとばったり出会っていた。
「ご無沙汰してますっ! まさかこんなところでお会いできるなんてっ」
「ふふ、久しぶりね。以前もこのような形で会わなかったかしら」
「そうですねっ」
「それで今日はどうしたの? こんな時間から教材を抱えて」
視線を下ろし、気になってた教材を見ながら質問する。
「あ……。授業のことでわからないことがあったので、先生にご相談をしていました」
「そう。相変わらず凄いわね。あなたは」
侍女の仕事をこなしつつ、わからないことがあれば時間をかけて聞きにいく。そんな姿に関心の声をあげるエレナだが、当然心配も湧く。
「でも、もう少し自分に優しくなったらどう? せっかく自由時間になったんでしょ?」
「いえいえ! 自由にさせていただいているので、その分はしっかり活用しなければ!」
「それはそうだけど、体を休めることも一つの活用方法でしょ? それともベレトになにか言われたりした?」
「い、いえ! むしろ私がしたいからしていることでしてっ」
「疲れた体に鞭を打つのはためにならないわよ?」
当たり前のことを促すが、ここで大きなまばたきを挟んだエレナ。
一つ気づいたのだ。くりくりとしたシアの瞳がキラキラ輝いていることに。
「え? もしかして疲れていないの?」
「はいっ! ベレト様のおかげでして……えへへ」
「ベレトのおかげ……? その話、場所を変えたところで聞いてもいいかしら。とっても気になるわ」
「もちろんです!」
今いる場所は食堂の前。ここでの長話は適していないと判断をし、移動する二人だった。
∮ ∮ ∮ ∮
そして、広い廊下に移動して話を再開させる。
「で、シアはどうして疲れていないの? 学業をこなしながら仕事をするのは大変でしょ?」
「なんと言いますか、今は全然忙しくないんです。侍女の中で私が一番楽をしている自信があるくらいで……」
小さな手を重ね、申し訳なさそうにしながらも微笑を作るシアである。
「エレナ様はなにも聞いておりませんか? ベレト様から」
「なにも聞いてないわね。アイツったら、褒められるようなことをしても誰にも言わないんだもの」
「あ、私以外の方にもそうなんですね。『当たり前のことをしただけだから』って感じじゃないですか?」
「そ、そうなのよ! 変にかっこつけちゃって……」
「凛としていてかっこいいですよねっ」
「っ、あたしはそうは言ってないわ。いいところを隠す人は大っ嫌い」
悪態をつくエレナだが、褒めていることをしっかり汲み取っているシアは喜色を浮かべながら本題に戻した。
「あのですね、私が疲れていない理由はベレト様が方針を変えられたからなんです」
「方針?」
「はい。まず学園の課題が終わらなかった場合、お仕事よりも先に取り組むことになりまして。次にベレト様が寝室に入られますと、私の自由時間になります」
「え? つまり学業を優先させて、シアの仕事量を減らしたってこと? 普通は侍女の仕事が優先で、ベレトが寝るまで仕事を続けなければいけないでしょ?」
「そうなんですっ!」
ベレトの自慢話には目がないシアである。ぬいぐるみをもらった子どものようにウキウキしながら言葉を続けていた。
「エレナ様! 私の自由時間になって残ったお仕事を続けると……どうなると思いますか!?」
「ベレトに褒められるの?」
「いいえ、怒られますっ!!」
「え? 怒られるの?」
「はい! 『仕事は明日でいいから早く休む』と!」
シアには嫌味はない。体に気遣ってくれている。そのことがわかっているからこそ溢れんばかりの笑顔を浮かべている。
そして、報告はまだ止まらない。
「それにですね、翌朝にはやり残した場所が綺麗になっていることもあって!」
「ベレトが残りの掃除をしてるってこと……?」
「いつも『知らない』の一点張りなんですが、そのことを聞いた時だけ少し落ち着きがなくなります」
「はあ。マヌケな犯人ね、それは。シアからすれば自慢のご主人様になるんでしょうけど」
「えへへ、本当に自慢です……。大変だなって思った時は、ベレト様、すぐに寝室にいかれたりして……。私のことよく見ていただいてるんです」
大きく頷きながら、恥ずかしそうに目を細めている。
「いいことはしてるけど、常識外れなことしているのね……ベレトは。シアのクラスメイトはそのこと知っているの?」
「質問された時には答えていますので、はい」
「じゃあ、侍女の中で人気も出てきたんじゃない? ベレトは」
「そうですねっ。ベレト様のお話をすると、10人くらいは集まります!」
「そ、そんなに!?」
「はい! 私のクラスメイトはベレト様の噂を信じている方が少なくて!」
「……」
と、当たり前に言うシアだが、そのカラクリを瞬時に理解するエレナである。
「それ、シアの人柄のおかげよ。絶対。そんなあなたが嬉しそうにニヤニヤニヤ〜ってしながら『私のご主人様は凄いんです!』って自慢しているわけでしょ? 信憑性しかないわよ。さすがに」
「そ、そそそそんなニヤニヤはしてないですよっ!?」
「嘘ね。あなたの顔、今ですら溶けているんだもの」
「っっ!!」
これは『だらしない顔』だと言われているようなもの。
周りに見られないように黄白色の髪で顔を隠すシアである。
「じゃあ、そんなあなたに一ついいかしら。シアの見解も聞きておきたいの」
「な、なんですかぁ……」
「ベレトのことなんだけど、休日にデートするらしいわよ。あのルーナ嬢と」
「ぁ、ぅ、へっ……!?」
『ルーナ嬢は遊ばない』ベレトにそう伝えた本人は、こうして情報を知ることになる。
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