音符の事さえ覚えられなくて、音楽を完全に知らない俺は、異世界転生して気付いたら音楽家になっていた

月影

異世界転生

音楽なんて大嫌いだ。


そう思いながら俺は中学校の教室の窓を眺めていた。

次は音楽の時間だ。


ああ。だりぃ。何もしたくねぇ。

そういう気持ちが俺に押し寄せてくる。


(……くそっ、何で今日も音楽あんだよ)


俺は席を立ち、手をポケットに入れて保健室へ向かった。


音楽室には行かないのかって?

実は俺は音楽の時間だけサボっている。俺は音楽が嫌いだ。名前だけでイライラする。

でも凄い理由があった訳でもなく、ただただ「音楽が嫌い」という一つの理由だった。俺だってそれは良くない事だと分かっている。だがもう嫌なんだ。音楽の事なんて。


俺だって最初は、ちゃんとサボらないで音楽室に行っていた。しかも音楽に憧れて、吹奏楽部にも入った事がある。しかし、もう始まる前にやめた。何故かと言うのも、くだらなかったのだ。何も価値がない音楽が。コンサートや発表会なども価値なんてない。そう思ってきた俺だが、その時はまだ音楽の事が頭の中を回っていて、どうしても忘れられなかった。


しかし、生きている間に--


俺の頭の中に「音楽」というのは無くなっていた。


♦︎ ♦︎ ♦︎


俺は階段を上がる足を止めて、耳を澄ませる。


「おい、秋野!?今日もサボりか?」


先生の奴、分かっているくせにまた心配していやがる。

「はい」と俺は心の中で言い、また歩き始めた。


「失礼します」


「ん?秋野?秋野じゃないか!」


「あ、先輩……」


俺が保健室の扉を開けると、斉藤先輩がベッドに座っていた。

俺は先輩の隣のベッドに座った。


「またサボりなのか?」


「はい」


「はあ。お前はいつから音楽が嫌いになったんだ?」


俺はその質問を無視して、先輩に問いかけた。


「先輩は、何で保健室に?」


「体育で足をやっちゃってね」


すると先輩はズボンの裾を捲り、膝を見せてくれた。

血が膝一面に広がっていて、なかなか痛そうだ。


「うわ……大丈夫ですか?」


「大丈夫だって。このくらい」


先輩はニコッと笑って、ズボンの裾を捲り戻した。


「珍しいですね。先輩が怪我するなんて。体育あったんですか?」


「うん……まあね」


先輩は、体育では見本に出来ないくらい上手だった。俺もそういう先輩に憧れて、体育は好きになれた。

先輩が、音楽が上手ければいいのに……と、俺は時々思う。


「あ、もうこんな時間か……じゃ、行きますね」


「うん。じゃあな」


俺は先輩に手を振り、保健室を出た。


♦︎ ♦︎ ♦︎


そして帰る時間になった。


(やっと終わった)


俺はため息をつき、学校を出た。

俺の後ろには友達と笑って喋っている女子達がいる。


(うるせぇなあ……)


俺はまたため息をつき、その場を離れた。


俺には友達はいない。欲しいと思った事さえない。

大体授業をサボっている俺に、友達何かできると思うか?


(! やべっ!今日水泳あるんだった!)


早く家に帰らなければ。そう思って足取りをはやめた。


「♪」


「?」


しかし、この純粋な音に、俺は思わず足を止めてしまった。


(何の音だ?何かの……楽器?)


楽器の音なのは分かるんだが、何の楽器かは分からなかった。

俺は音楽の経験0。楽器を見ても何の楽器か分からない程だった。


あっちから聞こえる。俺は音のする方向へ歩き始めた。

音楽なんて興味ないのに、俺の足は止まらない。

なにせ、とても綺麗な音色だった。今までに聞いた事のない、とても新鮮な音。


「ここか……!」


俺は誰かの家の前で足を止めた。音は、この家から流れてきたのだ。


俺はその家の窓から中を見てみた。そこには何やら黒色のでかい楽器を弾いている少女がいた。年齢は俺と同じぐらい。とても綺麗な少女だった。


ププーッ キキーッ


「え?」


一体、何なんだこの変な音色の楽器は。

そういう馬鹿な事を考えるのも束の間だった。



俺は体ごと、トラックに突き飛ばされた--。



♦︎ ♦︎ ♦︎


「ここは……何処だ……?」


目を覚ますと、俺は知らない人の家にいた。いや、人がいるかも分からなかった。


(俺は……死んだはず……)


ここは天国か?いや、地獄か?どっちでも良い。


しかし俺は生きている感覚があった。助かったのか?


(いや……生きてる!?)


手を動かそうとすると、ちゃんと動いてくれる。感覚もちゃんとある。


「た、助かったのか!」


という事はこの家はさっきの少女の家か?いや、そんなはずはない。だとしたらここは病院か?しかし、誰もいない。


「すみませーん!誰かいませんか?」


しかし、誰からの返事もない。

辺りを確認してみると、俺のちょうど左にあの黒色のでかい楽器があった。


何なんだ?改めて見てみたら白色の黒色の木の棒?みたいなのがある。


「何だこれ……?」



ここは、一体、何処なんだ?

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音符の事さえ覚えられなくて、音楽を完全に知らない俺は、異世界転生して気付いたら音楽家になっていた 月影 @ayagoma

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