ヒトノイド(權田の家に連なる者・園ノ外伝)

一黙噛鯣

ヒトノイド・壱ノ噺

ヒトノイド。

日の出る漢倭帝国ノ國

その国の歴史は古く戦と暴力が全てを支配する国である。

戦さ事を好み雷気を動力とある意味強く男尊女卑を良しとする國と民。

その世界で戦兵として軍属權田一々一等級大尉が作り上げたのが

精錬人形一々式である。


基幹回路をは設計し発明した一々がその晩年。

自身の愛人の為に設計・制作したのが幼年型精錬人形とその規格をヒトノイドと

呼ぶ。

元々もは軍の要請で製作に挑んだ立体映像投影方式稼働人形の研究・制作であったが

この時代において立体映像投影方式を実現するには技術的・科学力的に

実現出来なかった。

「面倒くさい。そして煮詰まった・・・」

長い時間を駆けた割には成果が上がらぬ無駄な時間を過ごした一々は

趣味と実益を込めた

新型精錬人形の制作に没頭する。

その噂を聞いた軍上層部は新型軍事兵器の誕生を期待したが・・・

数ヶ月の時を得て形を成したのは所謂。幼年体型の新型人形である。

「きゃぁ~~~。弟ですね。お・と・う・と。

ぎゅっとして良いですか?否。ぎゅっと抱きしめちゃいます」

一々付きの専用人形の璃璃二十八が瞳を爛々と輝かせて力いっぱい抱擁する。

甘い香りの璃璃二十八に抱きしめられ頬を赤くする新型幼年人形もまんざらでも

ないようであった。


後日。漢倭帝国ノ国にあまり似合わない名前を授けれる幼年型に精錬人形達のそれは

その言葉どおりに人種の幼年の体つきを模しており。

主として十歳から十二歳までの姿を持ち。時に十三才程度の者も制作されたが

極稀で有る。

機能としては以前一々が或る士官の軍命依頼で作り上げた潜入型少女人形を原型とし

子を成すには一々が高齢で有るという事。又、愛人の強い要望により軍事とは

無縁の物と成る。

あくまでも幼年期の男女を模したヒトノイドは混乱と有る種の趣味趣向を持つ輩に

多大なる影響を与える事を激しく危惧される為に上半身は人のそれと成るが

下半身には所謂生殖器の表現はなされない。同時に上半身においてその表現が質素と成るし接続神経が一切ないために刺激を与えても人形は反応を返すことはない。


「父様。父様。僕。付いてないです。男の子なのに・・・」

姉と慕う璃璃二十八に余計な知識を詰め込まれた弟は幼く可愛い瞳にホロホロと涙を浮かべて強く抗議する。

この問題は長くそして大きな懸念事項となり

軍上部に置いて喧々諤々の議論を呼ぶどころか縁あって手に入れた幼年人形を

育てる仮親が激怒し

「家の子に男性の象徴を~~~~」

「僕のおち○ん○を返して下さい。グスン」

「私の御股にアレをつけてください!」漢倭帝国ノ国政府にまでデモと陳情が

行われる騒ぎになる。

粛然と慄然を胸とする帝都国会議員さえも由々しき問題であると真剣に長く

議論するが答えを得る事は未だ出来てはいない。


この様に広い範囲で騒ぎとなったのはヒトノイドが政府・軍属だけの範囲で流通したわけではないからだ。

權田一々が晩年に子を養う姿を切に羨み、本来は商売敵である帝国覇商・琴刎財閥の当主琴刎重山がこの時ばかりは恥を忍び一々に頭を下げたからでも有る。

「權田大佐殿。ずるいではないか?長く精錬人形の開発に時に敵と成り。

時に友として手を取り合って来たと言うのに自分だけ子を授かるとは。

あまりに卑怯である。どうか頼む。頼むのだ。儂も子を愛でたいのだ。

帝国覇商・琴刎財閥の当主琴刎重山。一生一度の願いを聞き届けて欲しい」

広い屋敷の床の上に頭をこすり付けて頼みこむ琴刎重山の願いを一々が無下に断る事はできなかった。

「貴殿とは憎き商敵の縁も友として手を取った事もあるゆえに」

なるべく威厳を保って告げるが

同席する重山の妻を寝取り愛人としているのに気が引けたとも言えるだろう。


画して一々式新幼年型精錬人形はヒトノイドとして名を冠し

設計と改良研究を一々が担当しその量産・販売を琴刎財閥が販売する事となった。

一々の制作した所謂オリジナルから幾つもの機能を精査削除し簡略化した後に民間用に販売されたヒトノイドは琴刎重山の商才の技により当時は珍しい月賦

支払い方式と更に購入しやす月貸し出し方式の販売となった為に

運に恵まれぬ親達にとって正に子宝に恵まれる至福の時を与える事に成る。


刻にめぐりヒトノイドが漢倭帝国ノ国の民の前に姿を魅せて、

早や五年となるだろうか?

人種の子供と姿変わらぬ故に帝國式稲葉数え暦でも年末と成れば街に通りに

子供の手を引く輩が多いと見れる。

自分にはそれを無縁と決めて知り。裏の路地で屋台の蕎麦をズルズルと音を

立てて啜る漢。

名を呼べば目刺銛跳鯊めざしもりとびはぜ。なんとも奇妙な名であり一回で

読んで魅せる者はない。

先祖は何処に住んで居たのか?果たして帝国にそんな地名の土地があるのかと

誰もが訝しく頭を傾げる。

声を出さず目に留まるくらい長い二本の指先に蛇卵を挟んで屋台主人が前に出す。

決して言葉を話さず黙々と手を動かし蕎麦を茹でる屋台主人を

跳鯊は気に入っていた。

「蕎麦に卵は二個と決めているんだ。参個乗せると白身で味が薄くなるから。

その代わり腸味噌を塗った白米握りをくれ。二つだ。」若く見えるのに少し枯れた

声で跳鯊は告げる。

跳鯊の職業は帝國でも声宛である。あまり知られてもいないだろうが需要は高い。

大衆娯楽の活動写真や雷気網インターネットに置いて特に重宝されるが所詮は

裏方の仕事だ。

世界に五つとも七つ或ると言われる大陸に日々を営む人種の民に取って規模の

大小はあれど活動写真は人気の娯楽である。

それに付属して言葉の壁はやはり大きい。

いくら美しい女性が言葉を並べても制作された國々であれば心酔出来やしない。

その元の声とセリフを帝国言語で当て直すにが跳鯊の仕事である。

跳鯊の声の幅と技は広く匠でも或る為に。時に成人男性を始め愛くるしい

幼年少年まで演じている。

果。それなら女性となればどうなるか?有る特定の状態であれば跳鯊は他に類

がないくらい旨く演じる事が出来た。

愛する輩に肌に心に艶色を乗せ喘ぐ女性のその声が実は漢の跳鯊が演じて居ると

は知らぬまま欲に塗れた漢たちが夜な夜な覗き見る雷気網の動画がそれで有る。


薄空寒く雪粉舞う電柱下の蕎麦屋台。

「御馳走様。また寄らして貰うよ」チャリチャリと小銭を木屋台の上に

起き去る跳鯊。

これもまた寡黙に黙り頷いて礼とする背の高い主人。

話す事。言葉を紡ぐ事を生業とする跳鯊では有るが実は寡黙を好み人との関わりを

強く拒む癖が或る。

それ故に多少なりとも蕎麦汁が濃く喉に絡むとしても何者にも邪魔されず静かに

蕎麦を啜れる屋台は跳鯊に取って至福の安らぎを与えてくれる場所で或る。


「明日もあの場所で店を開けててくれると良いのだが・・・」

その時。その刹那。気配もなく右の肩をぐいと掴まれる。

すぅ~っと人の顔が跳鯊の頬に寄せられる。顔を巡らせる事も出来ずに眼だけ

動かしそちらを見れば肩を掴んだそのままに顔を動かず相手も眼だけ動かし

跳鯊の顔を睨み見る。

「寡黙と礼を貫くやたら背の高い主人が営む汁蕎麦屋台は明日は休みで御座います。

何やら最近若妻を娶ったらしく。

仕事ばかりで子作り出来ぬと若妻が駄々をこねるので。

ちまみに明後日は主人が腰痛で動けずやはり休むでしょう。

次に店が開くのは明々後日となりますね」

眼だけをぐるりと巡らせ肩をガッチリ掴んだ漢が言い捨てる。

「誰だ。御前?何のようだ?」声を上げて怒鳴る。それでも体は動かず漢に肩を

抑え込まれたままだ。

「私は刻と場所を選ばず、御客様が必要な物を必要な時にお届けする。

言わば旅の商人で御座います。あぁ。手袋と覆い布はお気になさずに。

少々重い病を患ってましてな名乗るとなれば恐縮然りで御座いますが・・・。

道を示して損をして徳を得る。道筋噂徳と申します。お見知りおきを・・

ささ。彼方で御座いますよ。今宵の御客様が必要としてる商品も選りすぐって

ご用意しております」

「よ。良く喋る野郎だ。」動かない体で文句を言っても迫力ない。

「話し噺すのは互いの商売で御座いましょ?早くしないと

次の商談に差し支えますので。御早くに」

道筋噂徳と名を冠する商売人がずズイと跳鯊の肩を推す。

すると脚が勝手に前に出る。

動くのは脚だけだ。見知らぬ漢に肩を捕まれ固定され頬に顔をも

密着され動くのは眼だけ。それを巡らせ盗んで除けば噂徳の出で立ちは異様だ。

頭の上から靴のその先まで異彩である。

黒い山高帽に極彩色の長鳥の羽飾り。

それに見合うのは黑の下地に朱を濃紫の艶めかしい筋と紋様の燕尾服。

跳鯊の肩を掴むその手を白皮の手袋となるが向こうにはめる手袋は漆黒となる。

その手に持つのはやたら大きな旅鞄。至る所に傷がつくと成れば

旅商人とは嘘じゃないのだろう。

「その格好は粋というより奇抜すぎるぞ?上はともかくなんで下が山靴なんだ?」

二人で歩く姿は異様であろう。並び有るきは刷するが肩を掴み互いに顔頬をピッタリと付け眼だけを動かし睨み合う。

「失礼なっ。特注品でございますよ。

有る場所の賦与術鍛冶士に無理を言って作って頂いたのです。

粋や奇抜はともかく。一度履いたら止められません。

至極の履き心地なので御座います。

お気に召したら特別に一足。御用意しますが?

あ。それよりもプリンで御座います。プディングで御座います。それと銀の匙。

良いですか?銀ですよ。銀の匙でなければなりません。

まがい物は駄目です。機嫌が悪くなりますから。とっても」

「え?プリン?甘菓子のか?それにしてもよく喋るな。御前。ちょっと面白いな。

面妖人の癖に」

「面妖とは恐縮然りで御座いますが。褒め言葉を受け取っておきましょう。

妖かし。技者。果ては魔物の類はいつの世にも直ぐ側に居る者で御座います。

さて着きましたよ。目刺銛跳鯊様」

肩の重し手がフット軽く成り。此処ぞとばかり拳を振り上げ殴ろうと体を回す。

それを知ってか自分が面妖人と呼んだ道筋噂徳はヒラリと交わし後ろに下がり

大げさに手を振り頭を垂れる。

「今宵。目刺銛跳鯊様に入様な商品を無事にお届け出来ることは。

小生・道筋噂徳。感涙の極みで御座います。

願わくば跳鯊様の道筋に災厄と慈愛が満ちる事を・・・。

時に三階右側蒼色の印の有る部屋で御座います。

手前の淡黄色の印扉の前の情婦にはお気をつけませ

。では、また入用な物がある時にお会いしましょう。

言われて遅くも寧ろ初めてその全身を眼に映せば。一番眼につくのは顔である。

その半顔を紅い布で覆い隠すのは酷い火傷の性だろう。

美形であろう思うに容易いが大きな鷲鼻が邪魔をする。

なんとも面妖ではあるが終始礼儀を通した漢に妙に親しみを覚えてしまう。

刻と場所を選ばず客が必要とする物を必要な時に勝手に届け押し付ける商い人。

出来ることなら今度は肩を掴んで頬をピタリと付けて話すのは止めて欲しいとも

強く願う。


有る種面妖とも怪人とも言える商い人を殴ろうとして空振りと成った拳を

収め示された場所を見る。

コンクリート作りの裏路地に良くある建物にはこれもよく見る一階がタバコ屋で

郵便ポストまで側にある

ただの雑居ビルである。

知らぬ場所に入るとなれば臆することも有るだろうが今宵は招かれた身である。

咎められたらその時言い訳すれば良いと勝手に決めつけ一歩二歩と階段を昇る。

とにかく狭く一人で通るのがやっとだろう。二人が出逢えば互いに気まずく

譲り合ってすれ違うしかないだろう。

「随分と雑多な場所だなぁ~~~。本当にこんな時に僕が必要とするものなんか?

あ。御免なさい。独り言です。どうぞ。お先に。ハイ。遠慮なさらずに」

タンタンとヒールの音を立てて来た女性に頭を下げ灰色の壁に身をよせて渦る。

にこりとも声ももらずにビニール傘を手に降りて来た勢いのまま走り行く女性を

見を送る跳鯊。


夜も深くに雑居ビルに住む人も多くはないのかもしれない。

気をつけろと言われた三階の最初黄色の印扉の前に情婦は居らず人影もない。

ほっと一息つけたと吐息を洩らし蒼色の印の有る部屋の前立つ。

冷静に考えてみれば見ず知らずの常識かけ離れた怪人に促され。

こんな場所に素直に立ちすくむのは馬鹿にも見える。

意を決してドアノブを握り奥へと入る。

「こんばんはぁ~~~。お邪魔しま~~~す」多少なりとも臆して声を上げるが

正直答えがない事をも祈る。

「御帰りなさいませ。父様」澄んだ声が暗い室内に届く。

「え?誰かいるのか?えっと・・・電気って有る?電気」

予期してない出来事に狼狽する跳鯊の肩を白い手がグィとて掴む。

「ひゃ!」ゾクリと背筋に悪寒が走り身を強張らさせてしまう。

肩に乗せられた白い手は柔らかい感触で有るが体は動かない。

暗く沈む部屋の片隅で肩を抑えられる中ですぅ~~~と何者かの顔が近づき

ピタリと跳鯊の頬にくっ付く。

「待て。待て。待て・・・」ゾクゾクと背筋が凍る跳鯊のすぐ後ろで何がが動く

気配が漂う。

それはゆっくりと動く誰かの手であり。

ゆっくりと宙に伸びると天井から伸びる紐を握る。

「電灯なら此処でこざいます。意外と怖がりなんですね?父者様」

パチンと紐が引かれると繋がる蛍光灯がパチパチと瞬き部屋の中の闇を払い捨てる。

明るさを取り戻した雑居ビルの一室。

一般男性のその中でも背の高い跳鯊の其の肩上に少女の顔が乗りピッタリと

頬をつける。

眼だけをぐるりと動かし怯え怖がる跳鯊の顔を睨む白い顔の少女。

「曲者めっ」恐怖に囚われながらも勇気を振り絞り少女から離れ反対側の壁へと

向きを変える。

十分に距離を取ったはずであるが。そレでも刹那に少女は木箱の上からタンと跳び。

跳鯊の体に身を寄せ端正な顔を寄せ細い手で頬を包む。

「否。鬼燈って呼んで下さいませ。父者様」切れ長の細い眼で艶を

乗せ少女が告げる。

「鬼燈。良い名前だ。いや。違う。御前は誰だ。何者だ。父者ってなんだ。

あと顔が近すぎ」

つめこまれた情報の多さに跳鯊の頭はパンクする。

この場所にはあの怪人が無理に押し付ける品物が有るはずだ。

必要なのはそれである。それだけで良いはずだ。

「いやん。嬉しい。可愛い鬼燈だなんて・・・。私は人形ですの。

あと父者様は貴方様ですの」

黒い長髪を揺らし潤潤と瞳を潤ませ鬼燈と名乗りをあげる少女が跳鯊の中で

身を捩る。

「こら離れろ?可愛いとは言ってないぞ。確かに可愛いが。まだ言ってない。

人形ってなんだ。証拠は有るのか?疎いんだ。世情には疎い。父者って俺が?

誰が決めたんだよ?」

怒りと疑問が収まらず喚き立てる跳鯊の腕のなから甘い香風を残して鬼燈と名を

持つ人形が後ろに下がる。


蛍光灯がパチパチと瞬く雑居ビルの一室。

出会ったばかりの漢の前で美しも儚げな人形が体を折り曲げスカートの中に細い手を入れ下着を下げて下ろす。

「おい?待て。何を刷る気だ?淑女がそんな事してはいけないんだぞ」

跳鯊が明らかに狼狽する。人気はないと思える一室でも

何処かに誰がが潜んでいるかもしれない。

その中で美少女が下着を下ろてると成れば一大事だし。

その場に居る大人が跳鯊一人となれば絶対妖しい。

「父者様が見たいって言うから・・・」

恥ずかしそうに眼を伏せ小さく言葉を漏らすと鬼燈はスカートの裾を握り持つ。

ゆっくりと持ち上がるスカートの奥に肌艶美しい四肢が観て取れゴクリと

跳鯊は喉を鳴らした。

いかなる状況であろうともやはり漢と雄のそれと成れば湧き上がるのは欲である。

静かに鬼燈の手が上がり指に引かれるスカートも上がる。

期待高鳴る跳鯊の眼に映るのは未だ幼く疼く幼女の秘部。


「つ・・・つるつるぺったんだな?云々。これはつるつるぺったんだぞ」

「云々。つるつるぺったんなの。鬼燈・・・ツルツルなの」

人の体を模した人形のそこは幼年型精錬人形で有ることの紛うこと無く証明で有る。

人柔らかと艶のある肌ではあるが本来、人種の女性としても又。

幼女としても有るべきものがない。

一応その場所で有ることを示す筋が薄く有るがただ一本の筋だけである。

何かを迎え入れる事はない。

「なっ。なるほど。御前が人形と言うのは理解できたが・・・」

「ヒトノイドって言うの。あとこれ以上は脱いじゃ駄目って大爺様が言うの。

父者みたいな人が鼻息荒くして走ってくるから。おパンツ履いても良い?父者様」

「うぬ。おパンツは吐いて宜しい。寧ろ、すぐ履きたまえ。鬼燈君。

それから、父者みたいな人が鼻息荒くするという部分は訂正したまえ。

大爺様って誰?」

一度下ろした下着を元に戻しぴょんと跳ねると跳鯊の腕の中に飛び込み体を寄せる。

いくら幼年の少女としても甘え過ぎだとも思うし。

そもそもこれが怪人道筋が押し付ける商品なのかとも思案する。

それを気にしポケットから携帯通話器を取り出すとポチポチとボタンを押して

調べ物をして見る。

検索単語は聞き覚えたばかりのヒトノイド。

「ふむ。彼の著名な權田一々氏の作品であれば美麗であるのは当たり前だな。

制作にあたり同時に民間に広くすすめるために機能を簡略したり外見を調整してる

らしいな。

云々。年の頃は十歳から十二程度。十三才以上は制作されたないのか?

御前何歳だ?」

「鬼燈。十一歳。でも・・・」

跳鯊の腕なかで胸板に顔をスリスリと押し付けたいた跳鯊の耳を強く引き何かボソボソと告げる。

「え?偽装?・・・あっ」警戒すべき事柄を思い出し跳鯊は言葉を飲み込む。

何事かを告げた鬼燈は耳まで真紅に染め上げ恥ずかしそうに跳鯊の胸板に顔を

うずめている。

「まっ。不味いな。これは不味い。他に知れたら一大事だぞ。あの怪人め。

とんでもないものを押し付けてくれたぞ

さて。どうしたものか?」事の重大さを理解すると起こるべき事態に思案を巡らす。

一番最初に越えなければ成らないのが淡黄色の印扉の前の情婦である。

先程。ビニール傘を手に握り階段ですれ違った情婦であるが何処か妙でもあった。

思い返してみれば赤いドレスは情婦が好むが問題はその手と握るビニール傘。

雨も降ってないとすれば用心の為か?それにしても一瞬観ただけであったが

あの握り方は可怪しい。

傘を握って居ると言うよりは傘に手がくっついているかの様にも見て取れた。

なんとも奇妙な印象を受けたのは確かでもある。

同時にこれからはもっと色々な事に目配りしないとも思う。


右手に張り付いたままのビニール傘をトントンを埃臭い床に突いて支持された事を

頭の中で思い出す。

二丁目のタバコ屋が有るその雑居ビル。淡黄色の印扉の横でじっと待つ。

その日四度目に自分とすれ違った人物が目的の的人であり。目当ての人形となる。

ビニール傘を手にくっつけた情婦は指定された場所でじっと待つ。

最初にすれちがったのは背の低い懶怠者の若い衆。やたらきつい男性様の香水を

つけていた。

あんな香りのつよい物をつけていて女が寄ってくると思って居るのだろうか?

本当に男と言うのは馬鹿だ。

三人目は背が高い漢であり、ちょっとだけ好みの顔立ちだった。

最もすれ違うと言うよりは階段の脇に身を寄せて自分が降りるのを待っていても

くれた。

小さな用事を済ませ淡黄色の印扉の脇に陣取って小一時間。

再びその漢がやってくる。

「先程はどうも。御免なさいね。ちょっと荷物が大きくて。よっこらっしょっと」

ちょっとだけ顔が好みのその漢は少し大きめの黒革のゴルフバックを方に駆け。

情婦の前で肩を上げ位置を直すと手を添えて揺れないようにしてから側を

通り過ぎて行く。

「お手数駆けました。ではでは・・・」

ペコリと丁寧に頭も下げてみせ紳士らしい態度で通り向こうまで重そうに

ゴルフバックを抱え。

青い線の入った客宅タクシーを手に降って呼び止め乗り込んで行く。

気になったところと言えばあんな大きなゴルフバックであれば客宅のトランクに

入れるのが礼儀であろう。

態々と後部座席に詰め込んだのはきっと道具を大事に扱う癖のがあるの

かもしれない。

ともあれあの漢は自分の前を二度すれ違っただけだ。

2回目と3階回目は同じ人物であり。雑居ビルで4番目にすれ違うのが

的人まとびとで有るならば

次に自分の目の前を通り過ぎる人物こそが今夜の獲物の人形と成る。


雑居ビルの鬼燈と出会った部屋は言わば倉庫と言えるだろう。

「これに入るの?父者様?鬼燈。荷物じゃないもの」ぷぅと頬を膨らませる鬼燈に。

「悪い人が・・・・鼻息を荒くして走ってくる人達が待ってるかもしれないんだ。

そうだ。プリン。プディングを勝手やるから今は言うことを聞きなさい。鬼燈君」

「何個?鬼燈。プリン。二個食べたいの。銀の匙で。父者様食べさせてくれる?

あとお風呂も入りたいの」

「解った。解った。プリン二個だな。お風呂も入ろうな。ちゃんと洗ってやるから」

むずがる子供を誤魔化すのは菓子と御褒美だ。

事実。菓子の名を聞いた鬼燈は大人しくゴルフバックの中に身を沈める。

後はできるだけ自然に見えるようにバックを抱えてビニール傘の情婦の前を通り過ぎるだけとなる。

旨く行くと良いのだが・・・普段は全く気にもぜず祈りもしない跳鯊であったがこの時だけは先祖神の名を小さく呟いた。


これで旨くやり過ごせるだろうか?

心の中で跳鯊は何度も自分に問いかけた。あまりに粗末な思いつきに思えたが

それしかないとも思える。

あの怪人は印の有る扉の前に居る情婦に気をつけろと言った。

その眼を旨くやり過ごさないといけない。

これ以外に方法はあるかもしれない。策が露見する事もあり得るのだ。

何しろ単純すぎるのもある。

前提情景として無理にゴルフバックに詰めた鬼燈が我慢できずにひょっこり顔を出せば一瞬ですべてが水の泡と成る。

だからこそビニール傘を手に貼り付けた情婦の前を通り過ぎるとき体を揺らし位置を調整もする。

それはバックの中に身を忍ばせる鬼燈への合図でもあったし思いやりでもある。

運が味方した以上に鬼燈はよく出来た子供なのだろう。

元気でも有るし甘えっ子でもある。

それでも言いつけをきちんと守る子供なのだろう。

冷静さのその心内に動揺を隠せなかったのは寧ろ跳鯊である。

なんとか無事に情婦の前を通り過ぎると出来るだけ冷静さを保ちつつ通りの

向こうまで歩き手を上げて客宅を止める。

その時ほどほっとしたことはないしその時かいた冷や汗を忘れる事は

出来ないだろう。


跳鯊は三十と少し上の年であるが、巡り合いはあっても

誰かと硬い絆を結んだ事はない。

何人かの女性と付き合ったことは有るけども結婚経験はない。

勿論子供を扠す勝った事もないから接し方も拙いものだろう。

それでも小さい子供との約束とは言えそれを一番最初に反故にすることは大人と

許されないことだろう。

最初だからこそきちんとすべきだとも思う。

古くみすぼらしいゴルフバックを後部席に持ち込む客に眉をひそめる運転手に

心付けを渡しコンビニの前で一度寄り道をする。買い求めるのは当然、プリンだ。

独り身で自分あれば滅多に菓子売り場を覗き見ることはないが今日は特別だ。

あれこれとどれが良いかとわからずも種類の違う物を二つ。自分も食べたく

成って追加で一個。

夜も遅くと成ると腹も減るかもしれないと子供も好きそうなオムレツも買い求める。


「ぷはぁ~~~~。狭いの暗いの。あとちょっと臭いの。

この中。父様の意地悪なの」

狭いバックの中から体を引き出しながら鬼燈が愚痴る。

「しょうが無いだろ。あそこを切り抜けないと面倒な事に成るんだし。

それより御褒美だ。プリンだ。プリン。オムレツも有るぞ」

一人住まいの狭い安アパートの蛍光灯の下でこれも又、使い古した木卓の上に

袋から買い求めた品物を並べる。

「オムレツ嫌いなの。卵がいっぱい入ってるの。でもプリンは大好きなの」

木卓の上にきちんと正座する鬼燈が頬を膨らませ愚痴る。

「可愛いな。その顔は。しかし。しかしだぞ。鬼燈君。卵を食べないと大きくは成れないぞ。

いろいろな所がちっちゃいままだぞ。立派な淑女になれないだぞ」

もっともらしく跳鯊が告げる。

「鬼燈。可愛いの。でもおっきくなれないとちょっと困るの

。父上のお嫁さんに成れないのは困るの」

サラリと爆弾を落とされたのにも跳鯊は気づかないのは鬼燈の可愛いさも有るが

頭の中に別の事が渦巻く体。


ヒトノイド。

形を戻せば精錬人形である。一介の軍属大佐が若い頃に掻き上げた設計図を元に

制作された戦闘兵精錬人形。

巡る時と運と人の出会いのその後に制作されたヒトノイド。

パクパクと可愛い口を開け締めしながら嫌いだと言い切るオムレツを放り込む鬼燈。

それこそがヒトノイドとなるが。多少なりとも違いが或るのかも

しれないとも思える。

「鬼燈。御前。兄弟は居るのか?兄とか姉とか弟とか妹とかさ」

「広義的に言及すると仮定して同型の機体を兄弟姉妹と認定は可能・・・なの。

それでも完全に他の機体を完全に同型と認定するには差異がありすぎる・・なの。

あと。父者様のプリンも私の物なの・・・」

既に与えられた二個のプリンを食べ終わり銀の匙を口に咥え眼を細めて虎視眈々と

獲物を睨む。

「随分と難しい言葉を知ってるな。その意味も興味深いな・・・ふむ。」

木卓一つはさみ告げられた言葉を紐解きながら意識せず自分のプリンを指先で

鬼燈の方へ押しやる。

難し良い言葉で翻弄し旨く誤魔化し3つ目のプリンを我が物とし悦に浸る鬼燈。

その言葉の意味は深く興味深い。

帝国倭ノ國においても今となってはヒトノイドは普及の一途を辿る。

人種の子供と比べれば其の数は遥かに少ないだろう。

しかし距離を置いて考え考察するならば

ヒトノイドのそれも權田大佐が最初の一体を作りその後に琴刎財閥が後を受け取り

生産・販売を行う製品で有り商品となる。琴刎財閥の規模なら大量生産は容易い。

何処までを兄弟姉妹と呼ぶかは定義によるが、同時期に作られた機体をそう呼ぶのはおそらく正しいだろう。

広義的な意味でと断りをいれてもそれでも差異がありすぎる。・・と鬼燈は告げた。

可愛い顔に似つかわぬ難しい言葉を選んでである。それは自分が稀有な存在で或ると暗に告げたのと同じだろう。


「父者様のエッチぃ。エロオヤジぃ~~~。変態~~~。でもおへおへそは

くすぐったいのぉ~」

狭い安アパートの風呂場と成ればもっと狭い。

「こら。あばれるな。淑女は常に綺麗にしておかないといけないんだぞ。

大人しくしたまえ。鬼燈君」

むずがる子供をあやす術もまだわからない跳鯊は鬼燈に翻弄される。

風呂に入れ体を洗ってやると言ったのも約束で或るし。

どうしても確認しないといけないこともある。

最も数年の間。自分一人でしか風呂に入った事などないし多少は

面倒くさいとも思う。

細く小さい背中を洗ってやってこちらを向かせた途端に鬼燈が声を上げる。

「父者様。変態なの。変態オヤジなの」乙女も淑女でも或るように体をくねらせ身を捩り隠す。

「誰が変態だ。未発達な胸と尻に欲情する趣味はないのだ。

況してや自分の子供の・・・」

そこまで言うと疑問が残り言葉を濁す。

果たしてさっき出会ったばかりの鬼燈を娘と受け入れてしまうのは良いのだろうか?

それでも鬼燈の可愛さと言葉、匠に引き寄せられてるのも事実である。

思案する跳鯊の肩に小さな手がそっと乗せられる。

滑り安い風呂場の床に脚を取られまいと跳鯊の肩に手を添えて体を支えている。

風呂椅子の上で座り見上げた其の先に幼くもいじらしい少女の裸体が或る。


人種の子供を模して作られたヒトノイド。

愛くるしい顔立ちと可愛げのある仕草が特徴である。

運に恵まれ彼らを子に持つ親はうちの子が世界一可愛くも愛おしいと

断固断言するだろう。

しかし其の反対に体に付いては賛否ある。

言わずもが人種のそれとは大きく違うからである。

ヒトノイドの肌は人種のそれとは若干違い白い印象を受ける。

子供をもしているから生殖器らしきものは或るがその表現は控えめであると

同時に機能しない。

鬼燈の胸にも僅かに膨らみはあるがその先端は明らかに質素な物だ。

下腹部も同じであり多少の盛り上がりはあるが控えめでも有り

そこには筋が或るだけだ。


これは予防策である。

戦さ場で戦う兵士とその擬態精錬人形の間には絆が必要である。

それ故に人種を模しているし必要な機能をも有している。

軍兵が必要としているからだ。

対してそのまま民間汎用型とされるヒトノイドには心配される。

所謂、悪意の或る輩がヒトノイドを欲望の糧にしてしまう事は或るだろう。

一度始まってしまえば止まらない。出来てしまうならやってしまう輩は必ずいる。

それを犯罪と呼ぶのは簡単であり、一度快楽を頭と体が覚えればどんなに防ごうとも繰り返される。

欲に溺れた一人の漢がただ一度幼いヒトノイドを陵辱した成らば・・・。

その漢を捕らえ得て罰してもそれが出来ると知れれば次々と陵辱の連鎖が

連なるだろう。

始まりは一つで一人出会ってもすぐに百人に成り千人と成り万人と成る。

事が起きてから重い腰を上げて対処した時には被害は大災へと疾走るしかない。

それ故に製作者と販売を司る者達は最初からそれを封じている。

出来ないと分かれば誰も相手にしないだろう。多少の不満は残るだろうが

それが最善でもった。


それを理解出来るかどうかは別として・・・。

跳鯊の型に乗せられた小さな手がフルフルと短く小刻みに動く。

「うぉっ」小刻みに震える鬼燈の手を握り安心させようと気を使う跳鯊は眼を見開く。

握る手が火照ると鬼燈の白い肌がほんのりと薄桃に変わる。

淡桃に変わる肌と幼く膨らむ胸と双房。あろうことが無機質であったそれは変わる。

肌のほてりと共に無機質であり未だ幼く硬い乳房でもあっても

人種のそれと変わりなく

切なくも妖しげに漢の眼と心を惑わす。

或る種の罪悪感と背徳に苛まれながらもそうせずはいられると知り眼を落とせば。

幼女で有りながら漢の一物を迎えれるのを待つ女陰が熱を持つ。

「待て・・・鬼燈。脚を開くな。見えるから見えちゃうから。色々見えちゃうから」

慌てふためいたのは跳鯊である。先に偽装していると聞かされ知識としてあっても

実際に目の当たりにすると驚きを隠せない。

あまりに幼くそして色香漂う幼女の体が目の前に或るのだ。

最初に出会った時に父者様と呼ばれなければ抑えきれない欲情に堕ちていたかも

しれない。


「父者様だけ。ずるいの。すっぽんなの。鬼燈。父者様のも見るの」

言葉が届く前に子供の前でも威厳を持つべきであると唯一腰に巻く白タオルが

剥ぎ取られる。

「きゃ~~~。父者様。変態。変態なの。実の娘に色々見せて喜んでるのぉぉ」

「こら。待て返せ。漢の威厳だぞ。大事なんだぞ。こら。突くな。摘むな。

止めなさい。」

「父者様の変態。あとちょっと長いの。でも変態なのぉ~~~」

狭い風呂場で小さな体で跳ね回り隙を見つけては跳鯊の股間を突こうとは

しゃぎまわる鬼燈。

「全くぅ。悪戯がすぎるぞ。大人しく返し給え。」

「嫌ですぅの。父者様は変態なのです。娘の体に欲情する変態親父なのぉ~~~」

飛び回る鬼燈を捕まえるのは大変でもあったが確かに久しぶりに楽しげな時間を

過ごした跳鯊でもある。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る