第11話 別離
とにかく、この問題に関しては早急に勇者であるミナミに伝えるべきだと判断した俺は、急ぎで彼女の元へと向かう事にした。
彼女は冒険者ギルドで俺達の事を待っていて、俺達が顔を出すとすぐに「良かった」と安堵の声を漏らす。
「見たところ、命に別状はない、のよね?」
「それは大丈夫だよ、ミナミ。ただ一つ問題が発生して、それでこうして顔を出したんだ」
「……聞く前からこう言っては何だけど、そんなに大切な事なの? テレサに治して貰ったとはいえ、大怪我を負ったんだからちょっとくらい休んでいてもバチは当たらないと思うわ」
「いや、大丈夫だ。それより、俺の所為でミナミ達の旅に影響が出る事の方が問題だからな」
俺がそう言うと、ミナミは「まったく」と首を横に振るい、ニナは「律儀だね~」と苦笑するのだった。
それから、俺達はとりあえず場所を移す事にした。
ミナミ含め勇者パーティーは良くも悪くも人の目を引いてしまう。
これからするのは他人に聞かれると少し困るような話だと判断し、盗み聞きされない場所である、例によってテレサが泊っている宿屋の部屋へ戻る。
椅子に座るニナ。
ベッドに腰掛けるテレサ。
そしてミナミは壁に寄りかかって腕を組んでいる。
注目を浴びる中、俺は冷静であろうと心を落ち着かせながら簡潔に事実を述べた。
「えっと、だな。単刀直入に言うと、これから先パーティーに所属して旅に付いて行く事が、難しくなった」
「……」
「は?」
「うん?」
テレサは少し気の毒そうに。
ニナは素っ頓狂な声を上げ。
ミナミは意味が分からないと首を傾げた。
「どういう事?」
「怪我が原因で、魔法を使う事が出来なくなったんだ。それはテレサ様でも回復させる事は出来ないから、まずどんな手段を用いても復活する事は出来ないと思う」
「それは……そんな。いや、でも。それでも一緒に旅を続ける事は出来るでしょ?」
見るからに動揺しているミナミの言葉に俺は首を横に振るう。
「魔族との戦いは危険で過酷だ、魔法が使えなくなったというのはあまりにも痛い。きっとこれから先、一緒に旅を続けていたらお前達の足枷になる事は間違いない」
「で、でも」
「ミナミ、お前が仲間想いなのは俺もよく分かっている。だけど、これは俺がお前達の安全を考えた結果なんだ。それは、分かって欲しい」
「……」
「魔法が使えない以上、【氷狼騎士】は使えないだろうし、聖騎士としての技術も大半は使えなくなる。剣術は使えるだろうけど、それもほとんどは通用しないだろう」
ちらり、とテレサの方を見る。
「恐らく、騎士団に戻ればテレサ様の護衛としての仕事も辞めさせられると思うけど、それも仕方がない。客観的に見るならば、俺はもう無能と言っても過言ではないからな」
「クロード」
「事実を言ったまでです、テレサ様」
「だけど、私はそんな風に自分の事を卑下するところを見たくはないです……」
悲しそうに眼を伏せるテレサ。
だけどこれは、仕方がない事なんだ。
これから先も彼女達の力は他の人々達を守り、魔族と戦っていく為に必要になる。
足手まといはいらない。
だから、俺は彼女達の旅に同行は出来ない。
「まあ、それは順当だろうね」
口を開いたニナは極めて冷静だった。
「私も、自身を守る力すらない人間を一緒に連れて行きたくはないし」
「ニナ、貴方……!」
「冷静になろうよ、ミナミ。実際そうじゃん、クロード自身も分かっている。弱い人は守られるべきで、戦う側に立つべきではない」
そしてニナはこちらをじっと見つめてくる。
珍しく真剣な表情だった。
「それで、良いんだよね?」
「……ああ」
頷く俺を見、ニナは「それじゃあ」と無駄に明るい声を出す。
「今日は盛大にお別れパーティーをしようじゃないの! 折角だし、どこかの酒場で盛大に」
「ああ、いや。悪い。折角だけど、今日は一人にさせてくれないか?」
「え~、なんでさ。何するつもりなの?」
「後悔と、ヤケ酒」
禁酒を誓ってなんだけど。
だけどどうせ、これから彼女達と一緒に旅をする事はないのだろうし。
一人でヤケ酒をしたい気分だった。
浴びるように飲んで、死ぬように眠りたい。
とにかく、今は酒に頼って嫌な事を忘れたかった。
「うん、分かった。それじゃあ、二人とも今日は解散としようか!」
そう言い、ニナは一人部屋を出て行く。
その背中をじっと見つめていたミナミだったが、一つ大きなため息を吐き、彼女を追うように部屋を出て行く。
「クロード、訂正はいつでも受け入れるから」
「ああ、ありがとう」
そして最後に、俺も部屋を出る。
「そう言う訳ですから、テレサ様。今日はちょっと、酒を飲みに行きます」
「……私は」
「いえ、さっき言った通り、今日は一人で飲みたい気分ですので」
そう断り、俺は一人部屋を出て酒場へと向かうのだった。
◆
「うぐ、ぐ……」
メタクソ頭が重たかった。
二日酔いである。
めっちゃ頭がガンガン響く。
それでもフラフラと身体を起こし――何故か裸である事に気付く。
「……」
なんか、デジャブが。
「……」
イヤな汗が噴き出てくる。
見たくはないが、ちらりと視線をベッドに移す。
そこには――
「……ぇ」
――茶髪の少女がすぅすぅ寝息を立てていた。
ていうか魔王が全裸で寝ていた。
………………
…………
……
昨日、何があった……ッッッッ!!!!
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