7 テーブルランプに人影が映って
お祖父さんと孫娘は帰宅した。
二人が生活しているのはマンモス団地と呼んで過言でない区域の共同住宅の一室。
まもなく殺し屋の
僕は、お祖父さんたちが隣室でお茶を沸かすタイミングを見計らって、三枝に尋ねた。
「その、どうしてお祖父さんたちは、お祖母さんを怖がってるの……? しかも、その、殺しの依頼をするほど過剰に……」
これまで僕はお祖母さんの守護霊怖さに側に近づいたことがなく、いまだにその理由に思い至れなかった。
僕と
それほど怯えるに至る事件があったのか?
三枝が虚を突かれたように目を伏せた。
口をひん曲げているのは、適当な言い回しを考えているのだろう。
そして彼は、僕の疑問を通訳するように、お茶を運んできたお祖父さんに尋ねた。
「普段お祖母さんが口にしているという『モモコ』という人物は、もしや?」
「モモコは、ばあさんの名前だ……」
お祖父さんは精神の慢性疲労のためか呻くように答えた。
「えっ」と零れた僕の声は、お祖父さんと孫娘には当然届かない。
僕は一年ちょっともお祖父さんの守護霊をしていながら、モモコという人物こそお祖母さんだったと看取できなかったことを恥じた。
三枝の聞き取りによると、数年前お祖母さんの友人が亡くなった。友人というのは、なんと小学校時代からの幼馴染らしい。
その時からお祖母さんは人が変わったようになってしまったという。
「あんなに気が強くてわしらを叱り飛ばしていたばあさんが、あんなに穏やかに優しくなってしまって……」
「お祖父ちゃん、大丈夫だよ。殺し屋さんがなんとかしてくれるから……」
三枝の推理は、お祖母さん、つまりはモモコさんのからだに亡くなった友人の魂が入ってしまったというものだ。
そして、お祖母さんの魂はまさに、周囲に漂っていた背後霊の少女だった。魂の姿は少女だが実年齢はお祖母さんなわけだ。
ということは、彼女は自分のからだを見守るために守護霊のように傍にいたのだろうか。
孫娘が焦りに駆られるまま三枝に訴えた。
「前々からお祖母ちゃんの周りでポルターガイストが起きてるの、施設に入ってからは特に。エアコンが急にガガガッて音を立てたり、テーブルランプに人影が映ってて、一瞬退室して戻ってきたらもう何もなかったり……。
きっと悪霊が憑いてるのよ! 早く悪霊を……お祖母ちゃんの偽物を殺して、もとのお祖母ちゃんを連れて来てください」
「もちろん。けど、そのためにはお祖母さんのからだにいる魂が成仏を心から承諾する必要があるんです。
そのために今、お孫さんの守護霊が動いてますから」
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