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小早川秋の父親、千早は映画監督を志望していた。
自主撮影。
秋は幼い頃、父親の撮影現場に姉に連れられて足を運んでいた。
父親が目まぐるしく現場を動かしている姿。
そして。
『お父さまは映画監督よ。』
姉、小早川冬の言葉が妙に印象に残っている。
しかし。
父親の作品を目にしたことはない。
ネットや自宅を探っても父親の作品は見当たらない。
親族に聴いても、千早の制作風景に関して話を聴くが作品自体の感想は聞かない。
生前、母親に聞く。
母親は
『あの人は撮ること自体に意味がある。それ以上も以下もない。』
と。
父親は作品を誰かに提示するためではなく自分自身の為に撮っていた。
社会貢献という意味ではゴミである。
千早の人生は壮大なるゴミに時間を費やした。
よって小早川家は一族滅亡へと鋭く足を進めた。
秋は父親と自分を対比する。
父親はいつの間にか小早川家から姿を消した。
油揚げを買いに家を出たっきり帰ってこない。
今頃何をしているか。
何をしていても構わない。
千早は家族よりも映画撮影に気を配っていた。
生きているなら今も何処かで足しにもならない映画を撮っていることだろう。
自分は何をするんだろう。
作品は誰に捧げるんだろう。
秋は考え続ける。
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