5

『何を見たの』

赤い傘の下で定は言う。

秋はビニール傘をささずに雨にうたれる。

定は傘の中に秋を入れる。

『ちょっと』

不服みたいだ。

『傘、持ってこいってわざわざやってきたのに。何しているの』

「雨にうたれたい気分」

秋は雨に唄えばを歌う。

『本当、気分屋。』

定は秋をほったらかして桂馬のように進む。

待ってくれ。

「俺を放っていくのか」

『そう貴方は全身で表現しています。無視してくれって。』

定は秋をほったらかす。

秋は傘をさした。

「これで君と同じだ」

定は振り返らない。秋はため息を吐く。秋の後ろを銀将で追いかける。

雨が跳ね返る。

群衆が行き交う。

黄色い光。

赤い。

青い。

定はちらっと秋を見る。

『何処へ帰るの。』

微かな声。

都市が君を追いやろうとする。

大きな声が必要だ。

秋は微笑する。

秋は定を見ていた。

聴こえなくてもいい。

一緒に生きている。

二人の会話は続かない。

雨と都市が主役。

個人なんて溶ける。

いないも同然。

(俺は生きているよ。)

秋は灰に覆われた空を見る。

月に問いかける。

「俺も生きているよな。」

雨は強まる。

全てが消えていく。

秋は定と手を繋ぐ。

定は拒絶しない。

二人の繋がりは続く。

二人とも絶やさない。

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