小早川家

容原静

1

『光。』



蔦が覆う。

もう誰も見ないでと。

誰もやってこないのに。

家だった。

玄関に小早川と表札がある。

中には入っていこうと思わない。

誰一人寄せつけない。

地震を望んでいる。

いっそのこと灰になればいい。

誰も望まない。

存在しているだけだ。

寂しいと叫ばないんだろうか。

叫ばない。

悲しいね。

かつては言葉で溢れていただろうに。

もう何もない。

こうやって誰かに思われることがまるで無粋なように構えている。

さようなら。

いつまでも立ち止まっていられない。

離れる。

そして、直ぐに忘れる。

覚えておく価値もなく。

感傷が贅沢品であることに感謝を覚えて去る。

この為に立っているというなら、本当に早くなくなればいい。

無様だ。

これも罪なのだろうか。

誰も応えない。

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