第47話 シアと家事



 さて! 天斗をお見送りした後も私にはやることが色々あります!


 まずはまだ途中だった食器洗いです。泡立てたスポンジである程度の汚れを落とした後、食洗器に入れてスタートのボタンを押します。


「たったこれだけでお皿が綺麗になって、しかも乾いた状態にまでしてくれるなんて、この世界は魔法が無くても本当に便利ですね」


 食器が現れている間に、ささっと次の家事を終わらせましょう。


 私は軽い足取りで小さく鼻歌を歌いながら洗面所へ向かいます。


 次にやる家事は洗濯です。今日は洗面カゴがいっぱいになったので数日に一度の洗濯の日です。


 私が来る前は週一回くらいのペースで天斗は週末にまとめて洗濯していたようですが、私が来てからはちょっと頻度が多くなりました。


「ふふんっ、私はもうあの頃の私じゃないのですよ! 洗濯はもう完璧です! ——”クリアボヤンス”」


 洗濯機にお風呂から残り湯を溜めて洗剤を投入した後、透視魔法を使ってポケットに物が入っていないかを確認しながら洗濯物を入れていきます。


「これは大丈夫、これも何も入っていませんね‥‥‥おや、これはレシートですか、ぽいっ」


 そんな風に洗濯物を一つ一つ確認しているうちに、なんだかムズムズとしてきました。


 今ここにいるのは私だけで誰もいないのは分かっているのに、なんだかそわそわしてキョロキョロと周りを確認してしまいます。


 もちろん、誰もいません。


 ‥‥‥誰もいないなら、いいですよ、ね? 誰かに見られてるわけじゃないんですし、ちょっとだけ‥‥‥。


 私はそーっと、今手に持っている天斗のTシャツに顔を近づけます。そのままポフッと顔をうずめれば。


「‥‥‥くんくん」


 これはきっと、さっきまでパジャマの下に着ていた脱ぎたてのTシャツですね!


 まだ新しい天斗の香りがいっぱいで、いつまでも嗅いでいたい‥‥‥。


「クンカクンカ‥‥‥ぬぐへへへっ」


 おっと、乙女にあるまじき声を出してしまいました! やだ、見ないで! ‥‥‥でも、やめられないとまらない。


「——はっ!?」


 そのまま数分間、天斗のTシャツにグリグリしていた私はやっと我に返ります。


 名残惜しいですが、いつまでもこうしていたら終わるものも終わりませんですし。


 最後に一嗅ぎして、私はすべての洗濯ものを洗濯機に入れ終わります。後は洗い終わるのを待つだけですね。


 新しい洗濯機は以前のよりも大きくて内容量が上がったので一気にたくさんの洗濯ものを入れてももうミミックに変化したりしません。


 それから私は、洗濯ものが洗い終わる間に掃除を済ましてしまいます。


 まずはお風呂場からはじめて、洗面所からキッチンと水回りのものから終わらせます。


 その後は掃除機を取り出して、家の中全体を掃除機掛けしていきます。


 毎日やっているので埃がたまっていたりはしませんが、こうしてすべてを終わらせた後に部屋を全体的に見まわせば、キレイにできたことが実感できて気持ちいいです。


 天斗と暮らすようになって、私が家事をするようになってから気が付いたのですが、毎日大変でも私は結構家事をするのが好きです。


 元の世界にいたころはいつも誰かと戦っていて、こういう雑事はメイドや部下たちがやってくれていました。


 しかし、いざこうして自分でやるようになってからは、戦うことよりもこっちのほうが向いているような気がします。


 なんだかこうして大切な人の帰ってくる場所を整えておくことは、戦うよりもずっと有意義に思えて、その人のためになってるなって実感できますし。


「まぁ、こう思えるのもきっと天斗だからでしょうね」


 自然とそう思えることに、自分でも相変わらずだなぁって思って苦笑を一つ。


 そうこうしているうちに洗濯機が終わった音が聞こえたので私は洗面所に戻ります。


 洗濯、脱水、乾燥を終えて生乾きの衣類を取り出したら、後はこれをベランダに干せば午前中の家事は大体終わりです。


 しかし‥‥‥。


「う~ん、曇ってますねぇ」


 ベランダから外の様子を見れば、雨は降っていないものの分厚く薄暗い雲が空を覆って太陽を完全に隠してしまっています。これじゃあ外に干してもあまり意味はありません。


 別に部屋干しでもいいのですが、やっぱり天日干しにして温かい衣類のほうが天斗もいいでしょうし。


「う~ん‥‥‥」


 少し悩んで、決めました。


「吹き飛ばしましょう!」


 私はリビングに出て、空に向かって両手を向けます。


 天斗にはあまり魔法は使わないようにと言われていますが、これからやることは厳密にいえば魔法じゃないですし、この辺りだけが晴れればいいので威力は控えめに。


 身体のなかで魔力を練って、少しずつ両手の先に集めていきます。


 そうしてある程度の大きさの魔力の塊ができて、私はそれを空に向けて放り投げました。


 数瞬後、ドーンと爆発した音が聞こえてきて、空を覆っていた雲が円周上に晴れてきます。


 ゆっくりと陽が差してきて、私はぐっと両手を握り締めました。


「よしっ! 完璧ですね!」


 これならしっかりと洗濯物も乾くでしょう。


 それにしても‥‥‥。


「やっぱり、不思議な感じです」


 掃除も洗濯も、魔法を使えば数十分であっという間に終わらせられるというのに、こうして魔法を使わずに行うこと。


 それは不便に感じてもおかしくないはずなのにまったくそんな気にならず、むしろ何かをしているという実感があって、すごく誇らしい気分になります。


 これも、天斗がもたらしてくれた私の変化でしょうか?


「~~♪」


 なんだかそう思うと嬉しくなって、私はルンルン気分で洗濯物を干していきました。


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