言わせたい pt.1

本編

言わせたい pt.1

登場人物：

あいか　さとこにはタメ口、先輩

さとこ　あいかには敬語、後輩

時間：

夜

場面：

ZOOM会議、それぞれの部屋、内装については指定なし、バーチャル背景？

飲み会なのでお酒はあってもいいかも

二人、笑いあっている。

あいか　でも、本当最悪だよ、こっちは。ゴールデンウィークなんてどこも行くところないでしょ。

さとこ　そうなんですか、そっちは？

あいか　だって、どこも開いてないよ。楽しみにしてたライブも中止だし。ホテルまで取ってたのにさあ。

さとこ　ええ、あいかさん、すごく楽しみにしてたのに。

あいか　そうそう。もうさ、現地に行くだけ行ってやろうと思ったけど、それも虚しいじゃない？　だから、しょうがないから家にいたのよ。天気はいいんだよ、でも。それはそれで嫌だけどね。だからさ、家でさ、布団干したりして。

さとこ　素敵なお休みじゃないですか、それはそれで。

あいか　でも、あの日風強かったの。で、私うっかりしてて、布団ばさみしてなくてさ。（この辺りから面白くなってきて）そしたら、布団がさ本当に、宙を舞ったの。ふわーって。どうしようとか何より私先に思ったの。これが本当の、ね。

さとこ　はい。

あいか　これが本当の。

さとこ　本当の？

あいか　……ちょっとちょっと、そこはさとこに言ってほしいな。

さとこ　言う？

あいか　ほら、あの、あれをさ。

さとこ　どれですか？

あいか　え？

さとこ　え？

あいか　え、だから、布団が飛んだの。

さとこ　はい。

あいか　ってことはさ。

さとこ　はい。

あいか　じゃん。

さとこ　はい。

あいか　えっ？

さとこ　えっ？

あいか　ちょっと待って、ちょっと待って。あれ、知ってるでしょ？

さとこ　何をですか？

あいか　いや、布団が飛んだのよ。

さとこ　言ってましたね。

あいか　これが本当の？

さとこ　布団が飛んだんですよね？

あいか　うん、だからさ、違くて。えっ？　知らないの？

さとこ　だから、何をですか？

あいか　……えっ？　そんなことある？

さとこ　ごめんなさい、あいかさんが何を求めてるのか全然わからないです。

あいか　噓でしょ？　えっ、日本人でこれ知らない人いる？

さとこ　えっ、だから、何をですか？

あいか　あれ、さとこ帰国子女的な感じだったっけ？

さとこ　岐阜ですけど。

あいか　うん、知ってる、知ってるよ。ってことは、わかるじゃんなんか、あるじゃん、面白フレーズ的な、いや別に面白くはないよ？　面白くはないけど、伝統的に面白いものとして扱われているあれあるじゃん。

さとこ　どれですか？

あいか　同音異義語って知ってるよね？

さとこ　はい。雨と飴みたいな。

あいか　はいはいはい。それを使った、ね？　面白フレーズがね？

さとこ　ああ、俳句とかに出てくる感じのですか？

あいか　うん、まあ、きっと起源はそういところにあるんでしょうね、でも、あの、違くて、そういう上品なやつじゃなくて、あの、あれよ。

さとこ　えっ、全然わからないです。教えてくださいよ。

あいか　あー、言いたくない！　こうなったら言いたくない！

さとこ　どうしたんですか？

あいか　布団がね、飛ばされたの。

さとこ　はい。

あいか　イメージしてみよっか？

さとこ　はい？

あいか　まず風吹いてるじゃん、風がね。

さとこ　（目を閉じて）はい、風、吹いてますね。

あいか　はい、あなたはベランダを見ています。布団が干されています。

さとこ　はいはい。

あいか　そしたら、あっ、なんということでしょう、布団ばさみをしてませんねー。

さとこ　大変！

あいか　そこに風が吹いてきました！

さとこ　あー。

あいか　はい、布団が宙を舞います！

さとこ　ふわーっと。

あいか　いや、ふわーっと違うね、ふわーっとだとね、そうは言わないからね。

さとこ　ふわーっと違う。ぷかーでいきますか？

あいか　どーんでいこう、どーんで。

さとこ　どーん、了解です！

あいか　はい、それを見たあなたは思わずある言葉が口をつきます！

さとこ　はい！

あいか　それは何ですか！

さとこ　た、大変だー！

あいか　うんまあ、リアルはそう、リアルトーンはそう、でももっといこう、強気でいこう。

さとこ　この世の終わりだー！

あいか　終わらない、大丈夫、心配ない、終わらない、そうじゃなくて、違くて、あのさ、もうあの、布団が？　はい、布団が？

さとこ　飛ばされたー！

あいか　ああー！　なんで？　逆になんで？

さとこ　なんか間違えてましたか？

あいか　間違えてない。間違えてないけど、なんで？　どうやったらそうなるの？

さとこ　なんでちょっと怒ってるんですか？

あいか　怒ってない、ごめん、怒ってない。怒ってないけど、うん、あの、じゃあ、ちょっと視点を変えていこうか。

さとこ　はい。

あいか　布団って１０回言ってみよっか。

さとこ　え？

あいか　布団って１０回言ってみよう。

さとこ　えーっと、布団、布団、布団、布団、布団、布団、布団、布団、布団、布団。

あいか　いいね。それをじゃあ、気持ち弾むように言ってみよう。

さとこ　えっ、なんでですか？

あいか　いいからいいから。

さとこ　わっかんないですけど、なんか卑猥なこと言わされるやつですか？

あいか　違う違う違う、そういうのじゃない。そういうのじゃないけど、とりあえず、やってみて。

さとこ　はい……。ふとーん、ふとーん、ふとーん……。

あいか　違う！　もっと跳ねるようにいこう、ふっとん、ふっとん、ふっとん……。

さとこ　（段々悲しそうな顔になっていく）ふっとん、ふっとん、ふっとん……。

あいか　ふっとん、ふっとん、ふっとん……。

さとこ　ふっとん、ふっとん、ふっとん……。（泣き出す）

あいか　ふっとん、ふっと…、えっ、どうしたの？　泣いてる？

さとこ　あいかさんが、私に何を求めているかわからないよお。

あいか　えっ。

さとこ　怖いー、あいかさんが怖いー。

あいか　ごめん、ごめん、追い詰めるつもりはなかったんだけど。

さとこ　私ができない子だからですよね、私ができない子だから、だからお父さんにも殴られるんですよね。

あいか　ああ、どうしよう、なんか開けてはいけない箱を開けてしまった。

さとこ　ごめんなさいー。

あいか　ごめん、ごめん、やめよう、やめよう、これはやめよう。

さとこ　はい……。

あいか　じゃあ、こうしよう、布団が布団であることを肯定しよう

さとこ　はい？

あいか　布団が布団であることを受け入れよう。

さとこ　はい？

あいか　うん、もうね、私も自分で自分が何を言ってるのかわからないの。でもいこう、もういこう。布団は布団であると、心の底から受け入れましょう。

さとこ　は、はい。

あいか　やってみて！　布団は布団だと肯定して！（祈るように手を組む）

さとこ　……いいよー、布団、そのままでいいよー。布団いいよー、自信もってー。

あいか　……あー、そうなるかー、やっぱそうなるかー、そうなるよねー。

さとこ　布団いいよー、何故なら布団は布団なんですからー。

あいか　あっ。

さとこ　えっ？

あいか　あっ！

さとこ　えっ？

あいか　それ！

さとこ　えっ、布団いいよー？

あいか　の、後！

さとこ　布団は布団なのだから？

あいか　それ、それ！　いい、いい、いける、いける。いけるよ、さとこ！

さとこ　はい！

あいか　じゃあ、元に戻るよ！　今までの感覚を忘れないで！

さとこ　はい！

あいか　はい、イメージしよう！　外に布団が干されてます！

さとこ　はい！　しました！

あいか　おっけー！　じゃあ、風が強くなってきました！

さとこ　はい！　どーん！

あいか　いいね、きてるね！　そしたら、ふとんばさみがありません！

さとこ　はいきた！

あいか　あー、そしてより一層強い風が布団を宙に舞い上がらせる！

さとこ　大変だ！

あいか　これが本当の？

さとこ　（何か言おうとするがわからない）

あいか　ふとんが？

さとこ　飛ばされたー！

あいか　あー！（泣き出す）もうやだー！

さとこ　あいかさん！

あいか　むりー、もうむりー、やだー。

さとこ　なんかごめんなさい。

あいか　もう諦めることにするね。

さとこ　は、はい、ごめんなさい。

あいか　あー、なんかいっぱい頭使って疲れたわ、糖分とろ、飴舐めよ。

さとこ　飴はあめぇ、ってね。

あいか　えっ？

幕