あたしのことが大好きなせんぱいとせんぱいのことがだいすきなあたし
姫路 りしゅう
第1話 好きの度合い
「せんぱいってあたしのこと好きなんですか?」
「んあ?」
焼きあがったお好み焼きに青のりを振りかけていたせんぱいの手が止まった。
「好きだし、俺なりに愛情表現はしているつもりなんだけど。突然なにさ」
そう言いながらせんぱいは、へらでお好み焼きを四分割にする。
本場だとお好み焼きはピザ切りではなく格子の形に切ると聞いたことがあるけれど、あたしもせんぱいと同じくピザ切り派だ。だって格子の形に切る食べ物なんて他ににんじんくらいじゃない? あたしの中でのお好み焼きの立ち位置は、ニンジンよりもピザに近い。
いや、そんなことより。あたしは我に返る。
「えへへ、せんぱいって本当にあたしのこと好きなんですね」
「改めてそう言われると恥ずかしくなってくるな」
「どれくらい好きなんですか?」
あたしは追及の手を緩めなかった。弱りかけの獲物はきっちり殺しきる、これが狩りの鉄則。
「は? ど、どれくらいっていわれても……」
しどろもどろになるせんぱいも可愛かったけれど、少し可哀相になってきたのであたしは助け舟を出す。
「じゃあ、あたしとせんぱいのお母様のどちらかしか助けられないとき、どっち助けますか?」
あたしがそう聞くと、せんぱいはまるでへらにこびりついたお好み焼きのカスを見つめるかのような目をした。
「それ、気軽ないちゃつきで出てくるような質問じゃないぞ」
「そうですかね」
気に食わなかったようなのであたしは言い直す。
「じゃあ、あたしとせんぱいのお義母様のどちらかしか助けられないとき、どっち助けますか?」
「お前にお義母様と呼ばれる筋合いはない!」
いや、せんぱいのことをお義母様と呼んだわけじゃないので。
大きな声でツッコミをいれたせんぱいは、それで「はい、オチました」みたいな顔をしている。別に何もオチていないんですけど?
「ねえねえせんぱいー」
「じゃあ亜湖はどうなんだよ。俺と亜湖の母親、どちらかしか助けられないとき、どっちを助けるんだよ!」
「お義母様」
「俺とお義母様、どちらかしか助けられないとき、どっちを助けるんだよ!」
「あたしはそうですね、まずママを助けます」
「んふ、さんざん俺のことを好き好き言っておいて、結局自分のママが大切なんじゃないか!」
「お義母様」
「んふ、さんざん俺のことを好き好き言っておいて、結局自分のお義母様が大切なんじゃないか!」
ばーかばーか、と囃し立てるせんぱい。それを見ながらあたしは人差し指を立てて唇に当てた。
「そのあとに」
「……そのあとに?」
「あたしもせんぱいと一緒に死にます」
「ばかばかばか重い重い重い!」
<あたしとせんぱいと好きの度合い>
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