異世界召喚されたけど僕は一般人なので戦いは遠慮します。〜殺人者による異世界暗殺記〜

金木城

異世界に召喚〜え?殺されそうなんですけど〜

ゴーンゴーンと頭の中で鐘が鳴り響く。


あまりものけたたましさに僕は目を開けた。



「ふむ、この者が新しき勇者か」

「…………だれ?」



目を見開くと最初に瞳に映ったのは偉そうにデカイ椅子に座り込んでいる髭の生えたおじさん、それを守護するかのようにあたりには何人もの兵が配置されていた。つまり、僕はこのおじさんに生を握られていることになる。



「新しき勇者よ、魔王を倒すために力を貸のじゃ」

「……いや急に言われても……」



どうやらこれは数年前から流行っている異世界召喚とか言うやつらしい。そのおじさん(王様)が言うには世界は魔王に侵略されかけていて最後の手段として神様から与えられた召喚魔法で異世界からこの僕を召還したらしい。こちとら普通の一般人ですが?


「というかそんなに困ってるなら勇者でもなんでも何人も召喚すればいいじゃないですか」

「いや、勇者は世界に一人と定まっておる、これ以上呼び出すのは無理なのじゃ」


なるほど、一応考えてはいるのか。ただの能無しではなさそうだ。


「というわけだ、さぁ早く魔王を殺してくるのじゃ!」

「え、嫌ですけど?」



王様は少しの間、目を点にすると僕に向かって怒鳴ってきた。



「ど、どう言うことじゃ!このワシが命じておるのじゃぞ!!王の命令じゃぞ!!!」

「いや、こちとら普通の一般人ですし、勝手に召喚されてこっちは怒ってるんですけど?それに魔王倒せって、何も力を持ってない僕に向かって死にに行けって言ってるのと同じなんですよ」



王様は口をあんぐりとさせて固まっている。どうしたのだろうか、反論されるの生まれて初めて?



「というわけで拒否させてもらいます、さっさと元の世界に返してもらえませんか」

「………元の世界に返す方法はない、それに……役に立たぬ勇者などいらぬ」



腰に帯剣した兵たちがジャリリリリンと金属音を立て、剣を抜き放つ。



「勇者など召喚されなかった、ここにいるのは国賊だ………殺せ」



剣を持った兵たちがザッザッザと足並みを揃えて近づいてくる。


「どういうことですか?勇者は世界に一人しか存在できないのでは?」

「ああ、だから貴様を殺して新しき従順な勇者を呼ぶとしよう。」


そう、世界に一人しか存在できないのであれば殺してまた新しい勇者を呼び出せばいい、そう考えているのだろう。と、そんなことを考えている間にも兵士たちは距離を詰めてくる、絶体絶命のピンチだ。


「…………はぁ、やっぱりこうなるのね。勝手に呼び出しておいて謝礼もなく、自分にとって役に立たないものは全て始末する。これだから権力者って人種は嫌いなんだよ」



兵たちが剣を振り上げた。


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〈とある監獄〉




「か、看守長!た、大変です!」

そう言って一人の看守が部屋に転がるようにして入ってきた。


「なんだ、俺は今忙しい、手短に知らせろ」

部屋にいた看守長は冷静に仕事を進めながら部下の知らせを聞く。


「しゅ、囚人番号1165………あの【悪魔の殺し子】が行方不明になりました!!!」

ピタリと看守長の手が止まり一瞬で顔が真っ青となる。


「な………なんだとぉ!?」

バンッと机を叩き、立ち上がる看守長。


「脱獄でもしたというのか!?そんなばかな!ここは脱獄者0名を誇る歴史高き監獄、【アポカリプス】だぞ!?」

「はっ!しかし、現に牢から忽然と姿を消しております……」

馬鹿な……いや、それ以上にまずい、これは非常にまずい!また新たな事件が起こるやも知れぬ!


「すぐに全看守を集め、捜索にあたれ!!あいつを、あの悪魔を外に出してはならん!!あいつだけは必ず捕まえるのだ!!!」

「はっ!!」

看守はすぐに部屋から出ていき、ドタドタッとけたたましい足音を立てて走り去って行った。

しかし、看守長の脳内にあるのはたった一つの事件、自分の息子も犠牲となった『大隈の山事件』……実に1・0・0・0・人・以上の被害者を出した、たった一人の悪魔による辻斬り事件、そしてその犯人は…………


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「あぁ、めんどくせぇ」


ドサッ


次の瞬間召喚された少年に斬りかかろうとした兵たちは全員床に崩れ落ちた。


「…………は?」


どうやら王様はまだ思考が追いついてない模様。


「………き、貴様…今なにを……」

「こんなのただの体術だよ、こんな動きについてこれないなんて、滅ぼされそうになるのも分かるわ」


のうのうとのたまう少年。その少年の瞳は怪しい赤色の光を放っていた。


「あぁ、でもひとつだけ感謝するよ。僕はあのままだったら………」


ビクッと王は震えた、少年のその凄惨な笑顔を見て。


「あのクソみたいな牢で一生を終えていただろうから」

「ぐはぁ!」


そう言うと少年は崩れ落ちた兵士たちの一人から剣を奪うと瞬く間に兵士たちの首を刈っていった。


[レベルが上がりました]

そんな無機質な声が頭の中でする、ようやく漫画のような世界に来てしまったんだなぁと実感する。


「は?????」


王様はまだ目の前の光景を飲み込めていないようだ。歴戦の兵士たちが他の世界から呼び出した一般人に次々と殺されていく光景…ああ、にわかには信じ難いだろう。


「っ!陛下お下がりを!」


いち早く王様のそばにいた人一倍豪華な鎧を着ている騎士が状況を察し、王様を守るよう前に進み出た。おそらく兵士たちのリーダーだろう。しかしその頃にはあんなにいた兵士たちも残りわずかに。だが、そこはさすが兵士たちのリーダー。


「貴様ら!訓練を思いだせ!三人一組スリーマンセルだ!!」

激しい号令を受けた兵士たちは混乱も解け、すぐに近くの者と合流し、三人になる。さすが兵士、その動きだけは一人前だ。しかし………


「俺を止めるにはまだまだ足りねぇな」

[レベルが上がりました]


兵士たちの健闘も虚しく、たった一人の悪魔に蹂躙されていく兵士たち。そして………生存者は兵士のリーダーと王様だけとなった。


「ば、ばかな……兵士たちは数十人はいたんだぞ??」

「それじゃあ俺にはまだまだ足りなかったということだ。次は兵士数百人でも用意してきな」

ま、次なんてねぇけど、と少年は王様に近づく。だが、それを遮るようにして兵士のリーダーが剣を構えてこちらに向かって構えてきた。


「陛下、お逃げを、数十秒は稼いでみせます!」

「う、うむ!大儀である!!」


ドタバタと物音を立てながら王様は扉を開けて走り去ってゆく。


「ねぇ、おじさん、邪魔。どいて?」

「っつ!!」

少年のものすごい殺気を受け一瞬たじろぐリーダー。しかしすぐに喝をいれ、立ち直る。


「我はメイデーン王国の守護者にして、剣!王国騎士団長のアルス・ローガンである!王を切りたくば我を殺してゆけ!」

そう名乗りをあげると、てやぁぁぁぁぁぁ!!!とこちらに向かって突進してきた。


「本当に………くだらない。」


勝負は一瞬であった。騎士団長が気づいた時には少年は自分の後ろにおり、切・ら・れ・た・ことさえ気づかなかった。


「ばか……な……」


彼の気づいた頃には腹から血が流れていた。そして、そのまま王国の守護者はその地に倒れ落ちた。


「さて、次は………」


何事もなかったかのように歩いていく少年、名は深山凛みやまりんおよそ千人を超える人を殺した殺人者である。

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