第二部 序 ギルド『戦いの足跡』

 グラン大陸最強のギルド『戦いの足跡』。

 所属するパーティーは全て一流。エリート中のエリートのみが加入できる憧れのギルド。その一流の中あって、更に上。超一流にして最強の最強と呼ばれるパーティーがある。

 ただ一人で国軍全てを超える実力を誇り、あらゆる局面を打破できる最強のパーティー『七星』。

 騒乱の危機が訪れようとする場に半仮面をつけた彼らは現れ、それを沈めていく。その素顔は誰も知らないが、誰もが知る英雄―と言われているが、実際のところは騒乱に付け込んで、各国の首脳や王家から法外な依頼料をふんだくる集団と言われてもいるが、民衆は全く知らない。

 素顔を隠した七人の英雄。その中において、最強と呼ばれる『神極』。

 数年に一度代替わりをしている七星の中にあって、変わることがなかった『神極』が後継者を指名し、連れてきた時は冷静で知られる先代闇極・セーイルもひどく動揺した。

「どこからさらってきた?!それとも、依頼料のカタに攫ってきたのか!?」

「失礼なこと言うんじゃないわよ!!セーイル!!私のこと、なんだと思ってるのよ!!」

「強欲、凶暴、逆らうものに鉄槌をが信条の我がシャルーナの領主にして、『七星』最強の当代神極」

だてに何年も付き合ってはいないセーイルの鋭い毒舌に神極ことシェーナはよよよ、と泣き伏せた。

「ひどいわ、セーイル。ギルド長になってから冷たくなったんじゃなくって?領主に対してあまりな一言……シェーナ、泣いちゃうんだから」

「気持ちの悪い真似はやめろ、凶暴ハーフエルフ。見た目は子供でもお前は俺の数倍年上だろうが」

「ちっ、面白みのない奴~」

 弱弱しく泣いていたかと思ったら、すぐに舌を打ち、黒い笑みを浮かべるところがシェーナらしい。

 子飼いのメイドたち(全員一流の魔導士にして戦士)に盗賊狩りをさせ、迷惑料の名目で有り金を根こそぎぶんどっていく女領主なんぞ、誰も同情しない。盗賊たちはブチのめされても構わないが、この女領主に見込まれて連れてこられたという後継者とやらに同情した。

 その点に関しては、ギルドに居合わせた全員がセーイルに同意する。

 普段好き勝手やらせてくれ、多少のことは目をつぶってくれる豪放磊落な領主様だが、さすがに人攫いはまずい。

 依頼料の身代に連れてきたのだろうと思われても仕方がない。それほど、この領主の強欲ぶりは有名だった。

「あ~の~な~失礼なこと言わないでくれる?!ってか、思わないでよね!!ちゃんと本人の意思確認して、後継者として正式に連れてきたんだんだからね!」

 ふん、と胸を張るシェーナにセーイルは疑いの目を向ける。今まで散々、無茶苦茶をやってきたこいつを早々信用できるわけがない。

「とにかく、だ。その被害者―もとい、後継者は誰だ?俺が事情を聞く。『七星』を継げるかどうかも確かめたいからな」

 ここで言い合ったところで、話が進むわけもない。一度決めたら、絶対に引かないのがシェーナだ。

 あまり気乗りしないが、その後継者にされた被害者と会い、事情が許すなら国元へ送り返してやろう。

 そう思っていたセーイルだったが、連れてこられた少女を一目見た瞬間、隣で呑気に笑っていたシェーナをいきなり締め上げた。

「お・ま・え・なぁぁぁぁぁぁっ~何考えてやがる!!国際問題になるじゃねーかっ!!」

 シェーナの襟首掴んで、前後に激しく揺さぶるセーイルの姿に驚いて、絶句してしまう少女にギルド内にいた全員が声を失い、ある者は青ざめ、ある者は卒倒しかける。

 それはそうだ。なにせ、シェーナが後継者と言って連れてきた少女は隣国・シュレイセ王国国王の実弟サイフト公爵ヴィルフォードの一人娘・レティアだったからだ。

「どういうつもりだ?どういうつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ギルド『戦いの足跡』うちを潰すつもりかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 絶叫しまくるセーイルの腕に力が入り過ぎ、シェーナは白目をむきかけたところで、レティアが慌てて声をあげた。

「拉致されたわけじゃないです!!私はシェーナに勧誘スカウトされて、『戦いの足跡』に来たんです!七星の後継にはびっくりしたけど、選ばれたなら後継になります!そのためにシュレイセを出奔したんです!!」

 レティアの言葉にセーイルは納得するものがあった。

 この少女の従姉・ファルティナは悪名高きパーティー『オウガ』を率いて、あちこちで騒動を引き起こし、目の前にいるレティアがその後始末に散々駆り出されたという話は有名すぎた。

 シェーナの誘いは渡りに船だったのだろうが、そうでなくても、いずれレティアは国を飛び出していただろう。

 はっきり言えば、かなり同情する。

 だが、いくらなんでもシェーナの称号『神極』を継ごうなんて、かなりまず過ぎる。

 実力があろうとなかろうと、その修行自体が人類外で耐えきれるかが不安だった。

「この『戦いの足跡』で最強のパーティー『七星』の一人になれなくても、ここに残ります。国には絶対に帰りたくないんです!」

 強く言い切るレティアにセーイルは盛大にため息を吐き出した。

 従姉のせいで苦労しまくり、このまま国で飼い殺しになるくらいなら、『七星』にでもなんでもなってやる。

 そんな目をしているレティアに帰れとは言えなかった。

「シェーナ。責任もって鍛えろよ。他の『七星』にも伝えておく。地極あたりが鍛えてくれるだろうから、最初は彼につけ。いいか?」

「分かりました!!お願いします!!」

 ようやく、ほっとした表情を見せるレティアにセーイルはさてどうなるか、と考える。

 鍛えれば、そこそこの腕になる。

 その時は、そう思っていた。だが、わずか一年後、正式にシェーナから『神極』の称号を引き継ぎ、他の『七星』にも認められただけでなく、『絶界』の一人を打ち倒すことになるとは考えもしなかった。

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