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行きも帰りも速攻、いや、瞬間だった。
「はぁ〜もー絶対戻りたくない〜」
一気に脱力するレティアにアシェは心底、同情する。
今のは心からの叫びだろう。元々、シュレイセ王国には戻らない約束でウィンレンド、いや、ギルド『戦いの足跡』に入ったのだ。
それなのに派遣されるなど冗談じゃなかった。それでも依頼だから仕方なく戻って、ファルティナやクリストフたちと再会したのに、きれいさっぱり忘れられていた。あれだけ迷惑かけまくられたのに、全くもって腹立たしい。
アルスフォードは薄々感づいていたっぽいが、ファルティナの所業とその後始末でレティアがどれだけ東奔西走させられたかを覚えていたようで、聞いてこなかったが、まさか剣の勝負を吹っ掛けられるのは予想外だ。
背まで伸びた長い亜麻色の髪を首元で束ね、黒塗りの革の胸当てを付けた精悍な男性。隙のないがっしりとした体形に鋭く細い切れ長の栗色の目は苦笑の色が浮かんでいる。
「御苦労だったな、レティア、アーシェイル。」
「「セーイル!!」」
声をそろえるレティアとアシェの頭を少し乱暴になでてくれるこの男。『七星』の一人・『闇極』にして、盟主・シェーナを唯一止められる人物・セーイルである。
「
「大変だったよ、セーイル。
「そうそう。本当にレティア、最悪だったんだよな~あの歩く人災、最後に俺にまでケンカ売ってくるしさ~盟主、何考えてんだよ~」
たまりまくった愚痴をぼろぼろとこぼす二人にセーイルはやれやれと肩を大きくすくめ、深く嘆息した。
「他の連中も怒っていた。レティアに頼まれて周辺国の状況を調査すれば、出るわ出るわ……メルベイア王国を滅亡へ操っていた『絶界』の奴らの痕跡だらけだ。奴ら、アルスフォード王子の命を棚ぼたで狙ったようだが、光極が潰して、レティアに知らせたから未遂に終わったから、とっとと二人を呼び戻せ、って騒いでた。」
ああ、そうなるよね~とこぼすレティアにセーイルは深く同情すると同時に自らの手で
「そのせいもあって、今回の最終的な依頼料が桁外れになってな……ウハウハ状態になったシェーナの奴が調子に乗って、アルスフォードの頼みを聞いて、レティアとの勝負を許したんだ。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!ふざけんな、あのバカ盟主!!」
どれだけの金貨積まれたか、知らないが、ずいぶんな仕打ちをしてくれる。いつもの数倍は報酬払ってもらわないと割に合わない。
キレるレティアをなだめつつ、セーイルは一度話し合っておいた方がよさそうだ。でなければ、この先も調子に乗って同じことを繰り返す。
「それで、クリストフ王子の最後はどうだった?アシェは立ち会ったんだったな。」
「あ~あれ。なんつうか、みじめだったな。」
セーイルの問いにアシェは空を見上げた。
思い出すだけでも、あれほどみじめな―いや、無様な姿はなかった。レティアは光極に確認したいことがあったから一時離れていて、知らなかったので実際どうだったのか、少しばかり興味がわいた。
我が侭放題だったクリストフ元王子は最後の最後まで無様だった。
「俺はシュレイセ王国第一王子にして王太子だぞ!?無礼者どもがぁぁぁぁっ!!」
喚き散らしながら、刑吏数名に取り囲まれて、刑場に引きずり出されてくるクリストフに対し、エリナ・バラーナ元男爵令嬢は憔悴しきっていた。
すでに父であるバラーナ男爵は処刑された上に男爵家も取り潰された。唯一の味方にして操り主だったローゼンも斬首され、生首を見せつけられたところに母の母国であるメルベイア王国滅亡の報。
頼る者がなくなったエリナは刑吏に引きずられるまま、刑場に引きずり出され、何事かをぶつぶつと呟いている状態だ。
「エリナ、しっかりしろ!こんなことが許されるはずが……」
「いい加減にしろ、バカ王子っ!!あんたなんかに近づくんじゃなかった!!第一王子?王太子?全部嘘っぱちじゃないのっ!!ただの愛妾の子どもがデカい口叩くな!お前なんて利用価値どころか存在価値すらないの!!」
愛しい少女を気遣い、励まそうとしたクリストフは髪を振り乱し、目を血走らせて口汚くののしるエリナに茫然とする。
愛らしい姿は一遍もなく、怒り狂った醜い女になり果てたエリナはヒステリックに喚き散らす。
「ふっざけんなっ!!あたしは王妃になりたかった!そのために、あんたみたいなバカにすり寄ったんだ!!なのに、王太子は別にいた??しかもあんたよりも数千倍いい男だって話じゃない!!全部無駄になった!!テメーのせいだぁぁぁぁっ!!」
罵ることをやめないエリナと真実を知って、崩れ落ちるクリストフの姿は滑稽で、アシェは笑いをこらえるので必死だった。
刑吏たちは呆れたように二人を離し、断頭台に暴れ狂うエリナを引きずっていく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!あたしは利用されただけなのよ?あのバカ王子が全部悪いのよぉぉぉぉぉぉっ!!」
断頭台の上で暴れまわるエリナの髪を乱暴につかみ、刑吏たちは断頭台に頭を乗せ、押さえつける。
枷で抑えられてなお、泣きわめくエリナに誰も同情はしなかった。
国を滅ぼしかけた亡国の
落とされた鋭い刃がその細い首と胴体を永遠に切り離したのを見届け、クリストフは絶叫し、暴れ狂うが、刑吏に押さえつけられ、泣きわめくだけだった。
「嫌だっ!!死にたくない!!助けて、母上!!母上ぇぇぇぇぇぇっ!!」
最後に叫んだのは、もう亡い母・ソフィーヌ。王子としての誇りもないもない。ただ必死に助けを呼び、母に救いを求める一人の人間だった。
淡々と刑は執行され、同様にクリストフは永遠に物言わない身となり果て、そのまま墓地へと運び出されていった。
「って、感じだった。」
軽い感じで言うアシェにセーイルは若干黄昏る。確かにみじめな最後ではあったが、それを楽し気に、しかも何の感慨もなく軽く言ってしまうアシェと平然と聞き流してしまうレティアの感覚がものすごく麻痺していることに落ち込んだ。
こんな薄情な子たちではなかったが、『七星』である限り、慣れてしまうのだろう。
だが、少しばかりは追悼の念を持ってやった方がいい。でないと、いつかは完全に人間性を失ってしまう。そんな恐れをセーイルは覚えた。
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