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 クリストフ王子とその側近たちによる暴挙、それを裏で操っていた超S級・最恐犯罪集団『絶界』・人形遣いマリオネットマスターの殺戮は『七星』の二人によって阻止され、生徒たちへの被害は防がれた。

 だが、その結果、大講堂は半壊し、予定されていた国王・アルフレードの訓令はなくなり、大罪人になったクリストフ王子たちは近衛騎士団の手によって投獄。議会による裁きを待つ身となったのだが、相変わらず立場が分かっておらず、牢獄内で喚き散らしていた。

「出せ!俺を誰と心得ている!!王太子・クリストフだぞ。」

「あ~はいはい。少しは黙れよ、元王子様。あんたは王太子じゃなくて、国家反逆罪の大罪人だから。」

 鉄格子にしがみつき、騒ぎ立てるクリストフを牢番はぞんざいな扱いをして、まともに話を聞かない。

 朝から晩まで飽きずによくも喚くものだ。他の三人は仕出かしたことの大きさにようやくきづいたのか、憔悴しきっており、大人しく膝を抱えてそれぞれの牢獄の隅に座り込んでいる。

 大人しくて助かるが、面倒なのは、この元王子ともう一人―正気を失っているバラーナ男爵令嬢だ。

 ほんの少しの物音がすれば、恐怖に引きつった叫び声をあげて、壁を掻きむしり、交代の兵士が近づけば、ローゼンを呼べ、だの、私は王太子妃だ、だのと支離滅裂に叫ぶ。

 そのたびに、クリストフが気遣い、医者を呼べ、もうすぐ父上がここを出してくださる。だから希望を失うな、などと荒唐無稽なことを言って励ますので、正直うるさい。

「おい、議会から通達だ。公開裁判の準備が整ったから、大罪人こいつらを引っ立てろってさ。」

 いい加減飽きてきたところへ、数十人の兵士たちを連れてきた同僚の言葉に牢番はあからさまにほっとした表情をし、嬉々として牢を開ける。

 ようやく解放されると思ったクリストフだったが、あっという間に兵士たちに取り押さえられ、乱暴に引きずり出された。

 その手荒さに喚き続けるが、聞き入れらることはなく、議会に引っ立てられる。

 円状の議会場の中央に引きずり出されたクリストフたち五人を国民を代表する議長をはじめとした議員たちが冷たい目で見降ろし、上座に設けられた王座に座る父・アルフレードはあからさまに不快な表情を浮かべている。

 公開裁判など体のいい断罪の場。すでにクリストフたちの処分は決まっている。

 見届け人―いや、依頼料をさらにふんだくれるかを見極めるためにいる神極と火極は王よりも一段低い席で側近たちに守られるように座るナジェル辺境伯・アルスフォード王太子と一応、当事者であるファルティナ王女が同席しているのが見えた。

「判決を言い渡す。シュレイセ王国を存亡の危機に陥れたメルベイア王国の間諜スパイエリナ・バラーナは斬首。その父・バラーナ男爵も同罪に処す。クリストフは王子の称号を剥奪の上、処刑。リヒト・アイセン・ヴォルフは貴族位剥奪の上、バルメア男子修道院に永蟄居とす。」

 クリストフの言い分も聞かず、一方的に処罰を宣告し、閉廷させる議長の乱暴さにクリストフはいきり立って怒鳴り散らすが、議員の誰一人、耳を貸さない。

 当たり前だ。恋愛お花畑のバカ王子とその母妃らのせいでシュレイセ王国は滅亡の危機にさらされた。

 名君であるアルフレードでさえ見抜けなかった目論見を『七星』が見抜き、阻止してくれなければ、シュレイセ王国の全国民が地獄を見る寸前だったのだ。

 議員たちの怒りが収まらないのは当然のこと。まぁ、どんなに騒ぎ立てても、クリストフの後ろ盾はもうない。散々甘やかし、守ってくれた母妃―否、愛妾のソフィーヌと祖父・マグクール侯爵は『七星』によって断罪された。

 残るは元凶となった元王子と滅亡したメルベイア王国の間諜スパイエリナのみ。他の三人は最後の最後で正気に戻ったことを踏まえて、永蟄居で済まされている。そのあたりは充分に分かっているのか、三人は黙ってうなだれていた。

「父上!!このようなご無体をなぜ働くのです?エリナとて騙されて。」

 一縷の望みをかけて、アルフレードに訴えるクリストフをうっとうしく思った神極は音もなく、彼らの前に降りると、右手に持っていた革袋をぼうっとしていたエリナの顔にぶつける。

 顔に走った痛みと何か生臭い鉄の匂いにエリナは顔をしかめ、不快な表情を神極に向けた後、革袋から転がり落ちたを見て、声のあらん限り絶叫し、クリストフは唖然とする。

 そこに転がっていたのは、何が起こったのか分からないまま、目を大きく見開いた御用達商人にして、メルベイア王国の参謀長・ローゼンの生首。

「いやぁぁぁぁぁあ!!!」

「おや、正気に戻ったか?メルベイアの女間諜スパイ。お前のご主人様はついさっき斬首された。悪いが、身体は燃やし尽くしてやったから。」

 腰を抜かし、悲鳴を上げながら後ずさるエリナに神極は容赦なくローゼンの首を蹴りつけ、眼前に転がす。

御前ごぜんを汚して申し訳ないが、こちらもこのくらいはしてやらないとやってられないんだよね。本当なら国王たちそっちが始末しなきゃいけないバカ愛妾とその父親、始末させられたんだからさ~」

 盟主にはしっかり報告済みだから、と付け加えるのを忘れない火極にアルフレードは頬をこわばらせ、大きくうなづくも、その内心は悲惨だった。

 シェーナとギルド『戦いの足跡』にとっての最大の切り札である『七星』にお家騒動の後始末をさせたのは規約違反、後で覚悟しとけ、の無言の圧力を感じ、大きく肩を落とした。

「まぁ、父上の責任ですね。」

「自業自得です。ご自身の手で処罰をすべきでした。」

 楽し気に笑うファルティナに不機嫌さを隠さないアルスフォードにまで突き放され、言葉もない。

「そのことについてはお詫びしよう、『七星』の方々。我が国を『絶界』の魔手より救っていたいただいたことをお礼申し上げる。」

「礼よりも形で示してください。あと、この件。にお伝えしましたので、頑張ってください。」

 王として頭を下げたアルフレードに、神極はにこやかな声でとどめの一言を刺す。

 途端に王の威厳を失い、青ざめ、泣き出しそうな表情を浮かべるアルフレードにアルスフォードの目はとことん冷たかった。

「これにて裁判は結審する。刑は速やかに執行せよ!」

 瞬間移動魔法テレポートでさっさといなくなる『七星』に深く敬意を表しながら、議長は高らかに宣言する。

 こうして、学園でのクリストフたちの乱行から始まった一連の騒ぎは終結した。

 だが、王たちの終結はまだまだこれからだったのは言うまでもない。

 


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