第55話 手っ取り早い
「忍さん……、謙遜しなくても良くないです?」
「何がだ?」
「だから、忍さんの魔法理論ですよ! もうあれで正解でしょ」
マキは呆れ顔で口にする。
「正解かどうか確かめる術がない。確かめる気もないが」
「なんでそういうところは意志固いんですか」
「理論云々なんてものは俺にとってはどうでも良いことだからな。必要なのは結果だ。仕組みに興味はない」
あぁ、それはなんかすごく忍さんらしいなぁ。納得しちゃった。
「分かりました。その考え方にはすごく納得できました。まぁ、どのみち私は今のところ、忍さん流の理論を支持するしかないので!」
「どうでも良い」
「いや、それは普通にヒドイですけどね? 一応アナタが説明されたんですからね? ……はぁ。そんなことより、一つ聞いても良いです?」
「何だ?」
マキは赤髪の忍が手にしている木の枝を指差した。
「その枝は忍さんが魔法で作ったんですよね?」
「あぁ」
「なら、枝以外でも岩とか金属とか、何でも作れるわけですか?」
「理論上は可能だろう」
「なら建物とかは魔法でちゃちゃっと造れるってことですね。だったら食べ物も作れちゃいますよね? そうなると農民含め、ほとんどの仕事はいらなくなるような……」
「それはない」
きっぱりと否定した赤髪の忍は、持っていた木の枝から手を離した。
「でも……って、あっ!?」
釈然しない様子だったマキの目の前で地面に落ちた木の枝が砕けて消失した。
「えっ!? あ、あれぇ!?」
驚きのあまり言葉が出て来ず、口に手を当ててあたふたするマキ。
「えぇ? そんな、え!?」
「これがマキの問いに対する答えだ」
マキにただ冷めた目を向けたまま、赤髪の忍は再度手のひらに木の枝を出現させた。
「え? えぇ!? い、今いきなり木の枝が出てきましたよ!? さっきは作ったところ見てませんでしたけど、そんないきなりポッと出来るんですね!」
未だ興奮冷めやらぬマキの言葉に応えることなく、赤髪の忍は再度木の枝から手を離した。今度は手を離してすぐ、木の枝は消失した。
「えぇっ!? 今度はさっきより早く消えましたよ!? なんでぇ!?」
少し落ち着きを見せていたはずのマキがまた混乱に陥る。
「今の木の枝は、先のものより込めた魔力が少なかった。そのため消失も早かった。ある程度調整できるとは言え、どのみち魔力で生成したものはそう長く持たない。認識として、魔法で生成するものとはあくまで精巧に作られた紛い物だと思っておいた方が良い」
「そ、そうなんですね。そうかぁ、そんなに上手い話はないわけですね」
「分身体を作る魔法がまさに紛い物の典型的な例だ。見た目は寄せられても本物を作ることは出来ない。まあ分身体の魔法は任意で与える魔力量を調整出来ることを考えれば、仮に全魔力を与えることが出来れば本物の分身を作れるかもしれないが」
「確かに全く同じ人が出来ちゃったらなんか怖いですもんね」
「確かポルツでは過去に人工で人間を作り出す実験も行っていたはずだが途中で頓挫したと聞いている。理論上は可能と思われているが、魔法で本物を作り出すことは出来ないというのが現時点でのポルツの認識だ」
赤髪の忍から語られたポルツの実験の話を聞き、マキは少し身震いする。
「え、ポルツって結構怖いことやっているんですね……」
「別に奴らからしたらそこまで大した内容ではない」
「え? でも人間を作ろうとしたんですよね!? 恐ろしいじゃないですか!」
「どこかだ?」
「えぇ……」
平然と言う赤髪の忍の正気を疑うマキ。
え? えっ? どことは? え、私がおかしい? 私の感覚は合っているよね? だって人間を作るんだよ? 忍さんはこんなことを野菜作るのと同じぐらいに思ってる?
マキは恐る恐る赤髪の忍を見つめる。
「……人は野菜じゃないんですよ?」
……上手く言葉に出来なかったにしても、何言っているんだ私は。また忍さんにバカにされるな、これ。
「ポルツの奴らからしたら、人の存在など野菜以下の認識ではないだろうか。いや、野菜よりは価値を見出したからこそ生成実験を行ったとも言えるか」
マキは思いがけない会話の継続に目を丸くする。
えぇ、話続いたよ! なんかよくわかんないけど的を得ていた!? 『何を言っている』とか言われると思ったのに!
「ちょっと待ってください。それだとまるでポルツがすごくやばいことばっかりやっているみたいに聞こえるんですけど?」
「あの国自体、人道的かどうかで言えば全く人道的ではないからな」
「う、うそ……」
え、何それ。私が一度で済まないぐらい行ってみたい
ポルツについての話を簡単には受け入れられないマキは、遠回しに探りを入れる。
「ちなみにポルツってどんな国ですか?」
「魔法を多用する国だ」
「それは知っていますけど」
「前にも言ったが、魔法こそ全てと考える国だ。魔法のためなら他の事象はどうでも良い。つまり、魔法のためならば人命ですら軽く考えられている」
「へ、へぇぇ……」
「前の戦争では、多数の人命を媒介に強力な魔法を発動させたという話もある」
「…………」
「まあその魔法は制御出来ていなかったとも聞いているが。だが奴らにとっては発動こそが重要だろう。とりあえず強力な魔法を発動したいという国民性だからな。それはムサシの民との体格差からくるやっかみや、単なる見栄張りな性格であるこ……」
赤髪の忍は途中で話を止めた。彼の前には虚ろな目をしたマキの姿があった。
「この話をこれ以上しても意味ないようだな」
「……はい。やめてください。私の理想が崩れていく……」
「まあいずれ行く機会があるかもしれない。その時に自分で感じ、判断すれば良い。ポルツの方が肌に合うことだってあるだろう」
「……今の話聞いて肌に合うとか嫌なんですけど」
聞きたくない話を聞いたなぁ。でも、そりゃあどんな国だろうと暗い部分はあるだろうね。話を聞くだけだとムサシの方がマシに思えてくるけど、そんなことはないだろう……と信じたいし。確かに自分の目で判断しないとね。この話題はもういい!! けど!
「さっきの話に戻るんですけど、魔法で食べ物作って食べたらどうなるんですかね? 紛い物ってことは食べても意味ないかも?」
「消失する前に食したとしても、栄養は接種できないだろう。おそらく味も感じない」
「やっぱりですかぁ。ガッカリです」
「魔力だけは取り込めるだろうが」
「ということは、どうしても空腹に困った時はアリってことですかね! 魔力は良く分からないですが、体力は回復できそうな感じが!」
「生成にかかる魔力の方が多く必要だろう」
「これもダメかぁ。そうなると、魔法で食べ物を生成する使い道は無さげですね」
少し期待を裏切られてしょんぼりするマキだったが、ふと目を見開く。
「ちなみに、他人が魔法で作った食べ物を食べても魔力を吸収できるわけですか!? それなら例えば、忍さんに美味しそうな食べ物を魔法で作ってもらって、気分と体力だけは回復できそうな気が!」
マキは目をキラキラさせる。
「それだと魔力酔いを起こすだろう」
「魔力酔い?」
疑問符が浮かび、キラキラしたマキの目に曇りが生じる。
「通常、人は他人の魔力を受け付けない。他人の魔力に触れると不快感を抱えることになる。ちょうど良い。それはこれから説明しようとしていたことだ」
「おぉ!」
なんと! 忍さんの予定を先取りしていたとは! こういうのを意識して出来るようになれれば凄いけど、残念ながら偶然だ。
「今から魔力酔いを体験してもらう」
「え? ちょっ、待っ……!」
「一瞬だけだが、意識を持っていかれないよう気張っておけ。でないと全身の穴という穴から汚いものを垂れ流すことになる」
「えぇ!? 怖っ! それはイヤ……って、私、汚いものなんて出しませんから!!」
とりあえずマキは全身に力を込めて目を閉じた。
「いくぞ」
――その直後だった。
「っ!?」
瞬きするよりも僅な時間。マキの視界が真っ暗になったかと思うと、どこからとなく全身に震えが走り鳥肌が立つ。一気に何かが込み上げてきたマキは下を向いて口を抑えた。
「うぇぇぇえええっ」
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