第53話 そもそも論
赤髪の忍の言葉に、少し気が抜けてしまったマキ。
今更ではあるけど、忍さんから魔法を語られる時が唐突に訪れた!
このままずっと教えてもらえないんじゃないかと薄々思っていたんだけど。転機ってやつはいつも急にやってくるんだね。思えば忍さんと出逢った時もそうだったもんなぁ。まだそんなに前の出来事でもないのに懐かしく感じる。
あぁ、私は今日のためにこれまで頑張ってきたんだなぁ。色々と大変だったな。でもようやく私は魔法使いになれるんだ。まだ実感湧かないな。なんか涙が出そう……、あれ? でも待って。稽古が厳しくなるって言っていたのは? 今までの肉体的苦痛より厳しいなんて、そんなことある!? 魔法ってそんなに得難いもの?
確かポルツの人達は普通に魔法を使えるって言っていたはず。つまり……。
マキは一度喉を鳴らした。
ここはちゃんと確認しておかないとダメなやつだ! 期待だけ膨らんで、そこから立ち直れなくさせられる気がする。
「ち、ちなみに、一体どんな魔法を教えてくださるんですかぁ!?」
うっすらと結論に勘付きつつも淡い期待を捨てきれないマキは、あわよくば勢いで押しきれないかという目論みを込めて尋ねた。
「今から話すのは魔法についての話だ」
「……やっぱりか」
マキは目を伏せ、少し嫌味たらしく小さな声で呟く。心の準備は出来ていたため大きく落胆することはなかった。
「現状でマキに必要なのは、魔法に対する見識だ。その次に、戦闘における対処。それらを差し置いてまで魔法を覚える意義はない」
分かっていないな、忍さんは! 何でもかんでも効率だとか意味とか、世の中そういうことばっかりじゃないでしょ? 私にとって魔法はそんなんじゃないんだよ!
まぁでも、魔法について知ることが大事っていうのは分かる。結局私は魔法をよく知らないからね。
器用に魔法を使いこなす忍さんが言うんだから、言う通りにするのが魔法を極める一番の近道になるんだと信じるしかないか……信じて、良いよね?
「分かりました。しっかり教わります!」
わずかに不安がよぎり意志が決まりきらない曖昧な眼差しをしながらも、シャキッとした口調でマキは答えた。
「そうか。まず手始めに」
赤髪の忍は一度ゆったりと瞬きをした。
「マキは魔法をどのようなものだと認識している?」
「はい!?」
予期せぬ問いかけにマキは目を丸くする。
「んん? え? ど、どういう?」
赤髪の忍の意図が汲めないマキは歯切れの悪い返答になる。
い、いきなり質問がくるとは。しかも何? 忍さんは何を確認したいの!? 私にとって魔法とは何かってこと?
「えっと、う~んと。……素晴らしいもの?」
踏ん切りがつかないマキは、赤髪の忍に答えを求めるように質問を質問で返した。
「何を言っているんだ?」
うっわぁ~。今、その言葉くると思ったわ! まさか私を小馬鹿にしたいだけじゃないだろうな!?
「いやだって、急にそんなこと聞かれても……」
「ふむ。では、魔法とはどのように発動すると考えている?」
「え、えっ。ちょっと待ってください! 質問が難しくて! どうやって発動? 手をかざすと火が出たりとかですよね!? 忍さんが前やっているの見ましたし!」
忍さんは私に何かを試している?
「なぜ手をかざすと火が発現する?」
「え? そ、それは……」
ちょっと! なんか今日質問多くない!? 何がしたいの!?
「えっと、その、魔法の鍛練をしたから火が出るんじゃないんですか?」
「鍛練の結果、手から魔力が放出されるようになるという意味か?」
「そ、そうそう、そうです! そういうことを言いたかったんです!」
赤髪の忍から助け船が出されたように思い、片方の口角だけを上げ、ぎこちない笑顔を作るマキ。
「では魔力というものは何だと考える? そもそもそんなものが存在すると思っているか?」
「ちょちょ、ちょっと! 分かりました。一旦落ち着きましょ? ね!? 忍さん!」
赤髪の忍のペースに呑まれかけたため、マキは無理やり話を止めさせた。
「俺は別に落ち着いているが?」
「でしょーね! でも一回、間を置きましょ?」
はぁ。なんでこんなに質問攻めに遭うのさ! 理解が追い付かないよ!
「ふ~、とりあえず落ち着きました! で、なんでしたっけ? 魔力が何かってことでしたよね? まぁでもそんなの、魔法を使うための素ってことじゃないんです? よく知らないですけど。あれですよ、あれ! 厳しい鍛練をすると体の中で作られる~的な! 寒くなると野菜が甘くなるのと同じような感覚ですかね! 私からは以上です。では答えを教えてください!」
話の途中で横槍を入れられないよう、マキは間髪入れずに早口で話した。
どうよ私! しっかり自分の考えを示したじゃん! テキトーに言った割にはなんかそれっぽくない!? 我ながら良く頭が回った! いや、良く回ったのは口か? まあまあ、でも良く回ったことに違いはない!
マキは少し朗らかな表情をした。
「結局のところ、魔法というものはよく分からない」
「…………ほ?」
あまりに予期していなかった返答を聞き、一旦は意味を噛み砕こうとしたマキの思考回路は停止し、目の焦点は斜め上を向き、無意識に口を縦に開けた。
「……いや、ちょっと意味が」
「言った通りの意味だ」
いやいや、説明する気ゼロだな! そっちから投げかけといて! 忍さんならハッキリ示してくれないと。私の中の忍さん像が壊れちゃう。
「私がバカなのは認めるので、もうちょっと分かりやすく教えてくれません?」
「そうか。では――
……いや、あの。状況的に
「魔法とはまだ完全な理論が確立されていない現象、ということだ」
「えぇ? でもだって、実際に忍さんも使うじゃないですか! それに、魔法についてはこの前、ムサシとポルツで系統が云々って言ってましたよね?」
「一応覚えていたか」
「今はそういうのはいいので!」
マキは食い気味に話を促す。
「俺が魔法について有している知識はあくまで、俺がそう教わったと言うべきであり、実際に俺もそのように認識しているという、一解釈に過ぎない」
「なんか、すっごく難しそうな話になってきましたね……」
「ムサシとポルツとでは魔法に対する認識が全く異なる。だがそのどちらが正しいのか、はたまた双方とも的を得ていないのか、現状では判明していない。マキの言った『体の中で作られる』という発想自体は実にムサシの民らしい考え方とも言える」
えっ。テキトーに言っただけだったのに、予想以上にそれっぽかったのね。ムサシっぽいって言われても全然嬉しくはないけど。むしろ嫌だけど。
「もっと詳しく教えてください!」
「まず、ムサシの認識に合わせるとそもそも魔法自体が存在しないということになるため、そこは一旦無視する」
「はい。ムサシの考え方は全無視でも良いと思います!」
「魔法は存在するとして、魔法を使用するためには何らか力が必要だと思うか?」
「え、そりゃあ、それが魔力とかそういうやつでしょ?」
「ではその魔力はどこにある?」
「ど、どこ? えー、でも手から火を出したりするならやっぱり体の中でしょ!」
「いかにもムサシらしい考え方だ」
「むっ……」
「だが一理ある。だからこそムサシは魔法自体存在しないというまでの極端な考えを持っていると言える」
ふむ。なるほど。全くわかんない!
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