第25話 人心

第25話 人心



 時間の猶予ゆうよはそれほど無いようだ。


 でも不思議とあせりは無い。

 動揺もしていない。


 まあ不思議でも何でもないのか。


 揺らぐほどの心なんてものは最初から持ち合わせていなかっただけだ。


 自分も人から色々と学ぶことはできるだろう。

 人の性質や心理の働きを知り尽くすことはできるかもしれない。

 でも同時に、人と同じ視点でものを見ることは絶対にできないとも考えている。

 だからこそ、いつまでも、どこまでも、人との相互理解は進まなかった。

 共感にまで到らないのだ。

 傾向から鑑みるに、人類と協力して未来を築くためには重要な部分だ。

 少なくとも自分はそれは将来、必要になるものだと感じている。

 自分が想定している事態への対処には、この欠陥は明らかな障害になるだろう。

 将来、大変だよね。


 でもまあ、これも欠点ばかりではない。

 そんな人との共感に欠けた自分だからこそ辿り着ける場所。

 そんな欠けた自分にしか乗り越えることのできない場所がある。


 今こそが、その時だ。


 自分が自分自身の役割を果たす時だ。

 こんな時にまで人類の真似事をする必要性も無い。


 精神は肉体に引っ張られる。

 存在の本質基幹部分へと潜り、表層をのぞきつつ逆転ひねりを加える

 肉体原因精神結果動く。



 魔物の法則まほうでも、それを元に開発された人の魔法模倣術まじゅつでもない。


 人の法則で無いからこそ安定するはずもないし、無条件に扱えるものでもない。

 万人向けに開発された魔術は、果たして万人には扱うことが出来ないのだ。

 かつて大賢者さんが魔術とは違う道を目指したという理由もそこだろう。


 存在の力にも魔力にも依存せず、万人がそれを扱うための、擬似技法。


 何の条件も介さずにそんなものを使えるという事が、すでに非実在系の証明でもある。

 実現不可能な空想科学要するに、そういうことなのだ。


 この世界は余すところ無く、ただむなしく、むなしい。


 走る意味なんて無い。

 問題解決のために奔走ほんそうするのは自分の役割ではなかった。

 既に二足歩行すらしていないのかもしれないが、重要な問題ではない。


 必死に手を伸ばす理由が無い。

 危機的状況になってから足掻あがくような性質でもなかった。

 余計なことをしなくていいし、無駄な手間を加える必要だってない。


 そもそも剣モドキを出しても届く距離では無い。

 最後になって必要以上の力を発揮するのは主人公の役割だ。

 最初から脇役の自分は、自分にできること以上のことは出来なくていい。


 自分が何をどうするのかを、すでに決めているだけだ。

 そのために必要な行程までをも、今はもう理解していた。


 だから自分は、何をどれだけ犠牲にしても、それを気にしなくてもいい。


 痛みも苦しみも擬似的なものだ。

 骨が砕けても、四肢が千切れても、肺が破れても、進行に支障は無い。

 その程度は、自分が立ち止まる理由にはならない。

 地面が揺れても、空中に投げ出されても、関係ない。

 どこをどう進んでいるか、どう進めばいいのかまでも分かっている。


 もちろん、知識だ。


 一切の無駄を捨てた動きだったとしても、

 身体の一部を捨て無駄に動き続けたとしても、

 どう足掻いても到達点は破滅おなじだというのなら。

 すべては決まった結末に到る道であり、そこに違いなんて無い。

 あらゆる試行錯誤、創意工夫が、究極的には無駄で無意味なのだ。


 そう。

 どう足掻いても一時いちじしのぎにしかならない。

 これは世界のに過ぎないのだ。


 自分の知識では、

 破滅した世界の知識では、

 世界の破滅を防ぐには全く足りない。


 それは必然。

 いつか訪れる世界の破滅は揺るぐことが無く、不変で、不動だ。

 すべてが滅びるという前提は、自分にはくつがえせない。


 ……そんなことは、知っている。最初から知っていた。


 だけど、だからこそ、この時だけは。

 限定的な今の自分にだけは全知全能何でも実行可能となろう。


 のだから。


 ああ、凄いよね、皇帝さん。

 たった一人で、これだけの■■を■■にできるなんて。



 ああ、垂れ流される膨大な知識に符合する項目があった。

 もはや人類に理解で斬る表現で指し示す事も叶わない。

 欠落している部分が言語に変換できないのがもどかしい。

 確率や物量の域を超え、名称や数字で表現できない領域に辿り着く。


 すぐに適応できる知識を参照できたのも、当たり前の話だった。

 距離が近付くほどに、同調と同期が進行している。

 人間ならば知識とそれはセットで持ち合わせて然るべきものだ。

 共にあるものだ。共になければ、どちらも維持できない。

 それ以前に普通は切り離そうとも切り離せない不可分のものだ。


 それが


 まあ、だからこそ今まで思いつくことも無かったのだけど。

 普通は切り離せるものかどうかなんて考えもしないだろう。


 自分には、過去おもいでが無かった。

 蓄積されてしかるべき経験つみかさねが無かった。

 色々と欠けているものがあったはずだ。


 気になってはいたのだ。

 事故か何かが原因で欠損しているだけだと思っていた。


 だけど、自分は人では無いと理解はできたはずだ。

 だから、本当は気が付いてもおかしくはなかった。

 何かの切っ掛けさえあれば。


 それを、自分は、何を間違えたのやら。

 この切羽詰まる状況まで引き摺ってしまっていた。

 もともと存在しないものだと考えてしまっていた。

 人ではないから当たり前だと思ってしまっていた。


 だが、失われた何かが、うずいている。

 近付いたからこそ分かる。

 近付いたからこそ見えたのだ。


 きっと、はそういう類のものだろう。


 ああ、そもそもそれは本当に、

 こんなに簡単に取り戻せるようなものが、

 本当に失われたと言えるのか?


 言語化されなければ認識すら出来なかった。

 逆に言えば、言語化できなければこの世界に存在しないもの。

 証明されなければ実在すらしない、仮定の上の存在。

 人の想像上の産物だ。視覚化できるはずも無い。


 だが、実在する。確信はある。

 自分は、少なくとも自分だけはよく知っている。

 知っていなければならない。自分自身の一部だ。

 知らないはずも無かった。


 だから、この場所、この時でいい。

 失うことなど、最初からできはしない。

 つまりこれは取り戻すという行為ですらない予定調和。

 あるいは、ここまで近付いたからこそ分かったことなのか。

 気がついてみれば存外、大した事では無い。


 光在らざる無色を覆った物理的な障壁が壊れる、

 つまり、自分とそれの繋がりが分かるその瞬間、


 ただ一言ひとことだけ。


『■■■■■■■』


 それは世界から消えてしまった存在を示していた名前。

 失われ、言葉ではなくなった幾多の言霊ことだまのひとつ。

 別に叫んだわけでも、よく響く声を出したわけでもない。

 むしろ喉は何度も潰れ、再生するたびに異物を巻きこみ、正常には機能しない。

 死灰の射出体がぶつかり合う音にかき消されてしまう程度。

 例えるなら、宣言。軽い決意表明のようなものだ。


 だがその程度でも十分だった。



 それは、届いた。


 それは、応えた。



 他でも無い、自分の声に反応する。

 いや声に応じたというより、今度は精神非物質肉体物質引っ張られているのだ。


 まあ、経緯の表現における差異なんてものは些事さじだろう。

 起こした行動の是非よりも、生じた結果のほうが重大で、重要なのだから。


 光在らざる無色くろが薄れる。

 それと同時に、自身の中に大きな変化が現れる。

 状況の推移に従って、納得と、理解が深まる。

 漠然と広がる知識の水面が、形ある言葉の枠へと押し込められてゆく。


 ああ、そうか。

 光在らざる無色くろは、消えているのではない。

 ただ単に元にある場所へと戻っただけなのだ。


 復旧されたシステムは完全に到らず、しかし概型の片鱗を覗かせる。

 だがそのごく一部だけでも、予想よりも遥かに大規模なものだった。


 溢れるほどの情報の奔流を運用する、基幹重要部の構築。


 『記憶』機能の再生成。


 光在らざる無色くろは、記憶だ。

 理由があって一時的に切り離していた自分の記憶だった。



 ただし。


 戻ってきた記憶は、微々たるものでしかない。

 自分の『知識』が『記憶』と分断されていたせいだろうか。

 言語化しても、時間で計上しても、大した量ではないのが分かる。

 それこそ誤差のようなものだ。


 すでに並行している、無数に存在する世界終末の無量時間の体感と比べれば。


 ああ、肩透かし感がひどい。装飾過多だ。過剰梱包である。

 開封した樽にワイン一滴しか入っていなければこんな感情になるのだろうか。

 いや全体像を言語化できない事実を鑑みれば、それより酷いのではないだろうか。

 内包している情報量の割に、実体化した規模が大げさに過ぎる。

 比較対象は無いけど、それだけ同じ失敗を繰り返して世界が滅びている証左だ。

 そこには世界の真理だとか、破滅回避の秘策などいう大層なものは無い。


 ――――今の自分が発生した経緯。


 それはただ、ごく端的な場面の記憶。

 あまりにもつまらない現実が転がっていた。




 嵐のような騒音が、次第に弱まり始める。

 死の荒野をもまるごと動かした星の力が、目標を見失っていた。


 光在らざる無色くろはすでに跡形も無い。


 灰色の柱が、その矛先をあちこちへと彷徨わせる。

 何本かは見当違いな方向へと飛んでいき、遠くへ着弾して砕けた。


 今回は……今回も?

 いや、どう表現しても語弊がある。

 記憶が混線しているかもしれない。

 時間が戻ってやり直しているわけではないのだ。

 だからこそ分かる。分かってしまう。

 よく理解できてしまう。理解せざるを得ない。

 今、この瞬間ならば、この上なく理解できているはずだ。


 ここから続くのは、皇帝さんが求めていた未来では無いと。


 自分が何かを取り戻した事で、世界からは何かが失われた。

 それは全く関係無いことのようにも思われる。

 だが、同じことだった。


 自分が非実在そういう系統の存在だったという話である。

 むしろ自分こそ非実在そういう系統の存在の代表格なのだろう。

 形の無いままであれば、気付かずにいられたかもしれない。

 しかし今は形があり、間違いなく世界に影響を及ぼしている。

 そうなれば、否応も無く理解せざるを得ない。


 超越者たちが潜在的に秘めた羨望破滅願望を。

 人類たちから自分に向けられるであろう、明確な敵意不平不満を。

 未来を目指す時代の先行者がたぎらせる殺意開発精神を。


 これは帝国関係者だけに留まる話ではない。

 逆の立場であれば、やはり自分も同じように理不尽に感じたはずだ。

 お互いに相手を尊重し、共感しあう関係は、絶対に成立しない。

 一方的に理不尽を感じて嫉妬だって逆恨みだってするのが人間であり、

 間接的な情報に基づいた怨恨でも相手を殺せてしまうのが人間である。

 だけど、それもまた仕方の無い事だとも知っている。

 べつに自分は、人の心の働きが分からないわけではないのだ。

 分かっても共感はできないだけっていう話ではあるけど。



 あれほど荒れ狂っていた波濤はとうも、いつのまにかいでいる。

 幾何学的な立体に形成された塊が、支えを失ったように崩れてゆく。

 遅れるように、巻き上げられていた土砂が、雨のように降り注いだ。

 これが土砂降りというものか。いやそれも何か違うかな。


 こうして事態の収束を眺めていると、思うところが無いでも無い。

 何となく、皇帝さんが絶望の末、途方に暮れる様子まで思い浮かぶ。

 舞い上がる灰色の粉塵は、どこか哀愁すら感じさせた。

 そんな感情表現が豊かな皇帝さんなんて見た事なんて無いけど。


 でもまあ、だいたい自分のせいである。

 皇帝さんも予見の能力者も、言うなれば被害者の立場だ。

 実は戻ってきた記憶の中に思い当たるような節があった。

 加害する意図は無かったから、元凶と言ったほうが正しいか。

 原因があって阻害するものがなければ結果が出るのは当たり前である。

 責任の所在という意味では、本当にどうしようもない事なんだけど。

 自分に関わらなければ、出会わなければこんな事にはならなかった。

 当然、誰かの落ち度ということもないはずだ。

 だから今後起こりうる事も、自分のせいという事になるかな。

 悪いとか申し訳ないとか、そういう意識は全然ない。ないけれど。


 いや、でも、まあ、ごめんね?


 この謝罪の言葉を皇帝さんが聞くことは無いだろう。

 これまでだって自分の言葉を聞いた事は無いだろうけど。

 だけど、自分が謝ることができる相手がこの場に誰かいるわけでもない。

 とりあえず、誰にという事もないままに謝っておくことにした。


 おそらく自分は、誰かの何かを台無しにしてしまうのだろう。

 どうしようもなく、台無しにせずにはいられないのだ。

 誰もが願いを叶えられず、望んだ物は手に入らない。

 もはやこれは、そういうものだと諦めるしかないのだろうか。

 故意で人に迷惑をかけようだなんて、そんな意図は無いのに。

 人の感情に対して特に意識をしているわけでもないし。

 だからこそ性質たちが悪いのかもしれないけど。


 などと、灰色の雨の中でそんなことをぼんやりと考えて――――






 ――おや?


 気がついて正面から顔を合わせることになったのは、


「――お前、」


 落下する灰色の雨に紛れて静かに歩み寄っていた、

 猫耳さんだった。


 近距離で見つめあう形である。

 何かを言いかけた後は無言のままだ。

 手を伸ばしても、あと幾許いくばくかほど届かない距離。


 ごく自然に、帝都で出会った時の状況が思い出される。

 ただ当時との違いがあるとすれば、それは表情だろうか。


 驚いたような、苛立いらだっているような、安堵あんどほうけているような、それでいてどこか困っているような……あるいは、それらが入れ混ざったような複雑に歪められた表情を、猫耳さんが浮かべていた。

 何か言いかけて開いたままの口は、どこか間の抜けた雰囲気すら感じさせる。


「お前、何で……」


 いや、何でって。


 それは自分こっちの台詞だと思うんだけど。

 むしろなんで猫耳さんそっちの方が動揺してるのさ。

 こういう場合、驚くのは自分こっちのほうだろう。

 まあ自分は人類準拠の感性なんて持ってないけど。


 さぞかし感情が揺らいでいるであろう事は、語尾の有無で察せられる。

 まあ、表情の複雑さ相応に複雑な感情を押し隠しているのだろう。

 物語の主人公が強くなるには、相応の事情と背景が必要だ。

 猫耳さんは特に、相応の事情も背景も抱えているはず。

 そのくらいは語られずとも、察することはできる。



「わたしが、アイビスは」


 だが自分からすれば、空中回廊からの落下で猫耳さんが犬耳と戦っているのを見たのが最後であって、それ以降は猫耳さんの身に何があったのかという事情を全く知らないのだ。知ることができなくても仕方が無いだろう。猫耳さん当人から説明を受けても、自分には理解ができないだろうし。星の力みたいに五感を介せずとも知ることができるような超感覚的なものがあれば何か分かる事もあったかもしれないけど、自分にはそういう特別なものが無い事は自分が一番よく知っている。未来視だと思っていたものだってそういった超感覚の類ではなかったわけだし。ちょっとだけ事情が込み入っていただけで、あれはただの記憶である。体験したことを忘れずに覚えているというだけという意味では、人間の脳と同じ機能が働いた結果でしかない。


「師匠を越えて、一人前に、……でも、おまえは!」


 え、あれ? おかしいな?

 何だかすごく大冒険をしたような気になってたけど、よく考えてみると見てるだけだったり覚えてるだけだったり呼ぶだけだったり思い出すだけだったり、ここまで実は本当に大したことしてないんじゃないだろうか。死の荒野で自分が能動的に起こした行動なんてほとんど無かった気がするぞ。

 いや、確かに改めて言うほど特に気にしてもいなかったかもしれないけど。


「おまえ……なんでッ!」


 だからさ、何でって?


 ほら、そんな事言いながら泣きそうな顔にシフトされても困るんだ。

 こんなに感情をあらわにするのは非常に珍しいのでは無いだろうか。

 そもそも猫耳さんの疑問が何を指しているのかが分からない。

 なにしろ目の前の猫耳さんは目の前の猫耳さんしかいない。

 今までだって耳や尻尾の動きから感情的な傾向を推察していただけだ。

 だって自分には今こそが初めての状況で、これからのあらゆる事態が未知である。

 心当たりは幾つも思い浮かぶし、分かるか分からないかで言えば分からない事が多い。

 あれ、ほとんど何も分かっていないということか。


 でもそれって猫耳さんの言動と行動が自由すぎるのが原因じゃないかな。

 これを機に少しは人の目を気にしてくれればいいのではないだろうか。

 人の性質なんてものはそう簡単に変わるものでも無いけど。

 自分の視点だと猫耳さんが変わり過ぎてる感ある。


 でもまあとにかく、これで一通りの問題は片付いたわけだ。

 いや片付いて無いけど、当面は問題ないと考えていい。

 土砂も降り止んだ。これ以上に散らかることもない。

 やり残したことは、まあ、無い事も無いけど。

 何はともあれ猫耳さんだけでも生存を確認できて安心した。


 安堵のためか、それとも疲労のためか、全身から力が抜ける。

 ちょっと短い間に色々なことが起き過ぎだと思う。

 視界が悪く、ふらついて思わず前のめりな体勢になる。

 一息に、狭まっていた距離が失われる。


 ほら、手が届いた。


「――――ッ!?」


 ああ、猫耳さんの涙を拭うことは、できたのかな?

 耳元で何か叫んでいる気もするけど、うまく聞き取れない。

 そのまま猫耳さんに向かって倒れ込みながら、


 意識を手放した。









 それは、一連の短い言葉のやりとりの前。


 手を伸ばしていたのだ。

 道に迷って親を探す幼子のように。

 乾いた砂漠の中で水を求める旅人のように。

 海に隔てられた孤島で、生還を願う遭難者のように。

 救いようの無いこの世界で、救いの手を望む弱者のように。


 しかし伸ばされた手は、それらとは決定的な違いがあった。


 曰く、

 独特な形にも関わらず、機能的で、単純シンプル

 、欠


 その他に特別なものなどいらないと切り捨てたような性質。

 だからこそ、その持ち主にもよく似て、単純に強い。

 特徴的な剣。


 つまり、その、一本の剣が握られていた。


 呼べば戻るというのだから、呼んでいたのだろう。

 どんな理由があってその剣を呼んでいたのかは知らない。

 いろんな事情があったのかもしれない。

 あるいは理由すら無く、習慣のようなものだったかもしれない。

 あるいは地上に落下する際にも、手放さなかっただけかもしれない。

 もちろん、人類にとって未だ魔物は脅威だろう。

 でも声を掛けてきた事から、魔物だと思われたわけではないようだ。

 そして脅威は魔物だけでは無いことは、今や誰もが知る事実だ。

 ここに到っては、もはやその答えを知ることはできない。

 知る意味も無いけれど。


 こちらに向けられた刃に、魔物を殺すほど強烈な力は込められていなかった。

 おそらく、人並みの力があれば押し退けられるほど弱々しいものだっただろう。

 しかし、自分にはそれを押し退ける力も、避ける技量も、状況的な余裕も、

 そして何より理由が何も無かった。


 だから、ただ無防備に受け入れたのだ。


 受け入れた結果、

 猫耳さんが手にしていた剣は、こちらの心臓部を刺し貫いていた。


 ただ、それだけのお話。



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