第6話 最外郭拠点

第6話 最外郭拠点



 猫耳さんは、その日のうちに帝都から出た。

 もちろん、その後を追う自分も一緒である。


「帝都はかつて帝都だったニャ」


 帝都という言葉があの誰も住んでいない場所を指しているのはすぐ分かった。

 都と名付けられているのに無人であるとは、これ如何いかに。

 猫耳さんの話は理解しにくいが、得られる情報から色々と推測はできる。


「帝都にいた時には大抵のことが真新しく見えたものニャ」


 あんな無人の場所でも住めば都だという現地民の心意気の表れだろうか。

 いや、住環境の目標設定で付けた可能性だって無きにしもあらず。

 びっくりするほど住むのに向いてない場所だけど。魔物もいるし。

 すごく強い人しか住めないなら流石帝都民さすていみたいな賞賛が必要かな。


「だけど今の帝都は真新しくなくてぜんぜん帝都じゃないニャ」


 というよりも、住めば都という言い回しは通用するのだろうか。

 同じ言葉を使っているのだから同じ表現があってもおかしくはない。

 一概いちがいに断言もできない。言葉が通じている確信が無いからだ。


「あのままじゃ、帝都じゃない帝都っぽい何かニャ?」


 住めば都どころの話じゃない、誰も住んでいないのが実態だった。

 所変わればとも言うけど、名はていを示すとも言うからね。

 だからこの場合、どちらか片方だけが正しいという話ではないはずだ。

 本来は帝国の中枢都市だが、今は何か事情があるのだと考える方が自然だ。

 人がていを表すために名を与えるというのが正しい順番なのだから。


「でもまあ魔物が残ってなければ魔物を斬りに帝都に戻る事もなかったニャ」


 もともと無人の廃墟と考えるより、住民は避難していると考えるほうが自然か。

 大規模な疫病とか災害みたいなものが発生していたりするのかもしれない。

 変なバケモノの駆除も、住民を帰還させるための活動の一環とも取れる。

 それこそ、猫耳さんは公共事業の遂行中という可能性もあるわけだ。

 うん、見た目さえ無視すれば、公務員に見えない事もない。


「剣は斬る道具として作り出されたものニャ。それは帝都でも同じことニャ」


 いやまあ、それだと公務員に見えないって言ってるのと同じなんだけど。

 ついでに言うと、被災地でボランティア活動に励む人にも見えないよね。

 もう少し幅広く考えれば、復旧業務を委託された民間企業とか。

 もっと掘り下げれば、下請けに属する日雇い労働者だったりとか。

 それが事実なら猫耳さんの装いに頭脳労働者らしさが無くても不思議ではない。


「この剣は魔物を斬るのにはとても便利ニャ。魔物は剣で斬るニャ」


 もちろん確証なんて無い。確証を必要としている場面でもないし。

 そもそも猫耳さんの経緯や帝都に関する真相を知りたいわけでもない。

 だって経緯とか真相なんて、闇の中に葬られるためにあるようなものだ。


「ちなみにこの剣も帝都に関係あるものニャ」


 真実はいくらでも歪むし、曲がるし、隠せる。

 実際に起こったことであっても、認知されなければ真実にはならない。

 要するに大多数が納得して広く知れ渡った内容が真実となるのだ。

 人が全知足り得ないからこそ、真偽もまた絶対足りえない。

 ましてや帝都で起きたことに関して、自分は当事者ですらないからね。


師匠シショーが帝都の前拾ったものらしいニャ」


 いちいち首を突っ込んで事実を確かめたいとも思わない。

 関心が無い。だから話の中で助詞が多少おかしくても突っ込まない。

 確かめても何も変わらないのだ。ならば、知る意味もない。

 真実に必要性を感じないと言ってもいい。

 いや、ここは断言するのも何か違うかな。

 不確定な未来を断言できるのは、自信か妄想が度を過ぎている人だけだ。


「とても良い物ニャ? その辺の棒切れよりも遥かに便利ニャ」


 ちなみに現地情報の発信源は『猫耳さんの会話』で間違いではない。

 『猫耳さんの会話』なんてものは、どこにも存在しなかった。

 いや確かに、延々と続く一方通行な言葉の投げかけを一般的には会話と呼ばない。

 しかし猫耳さんは聞き手に話題を振る。質問を挟んだり、意見を求めたりもする。

 そういう意味で、このやり取りは会話と呼んでいい。そのはずだ。

 うん、やっぱりその後の返答を全く聞かないのは間違っている気もするけど。


「シショーにはシショーの剣があるように、アイビスにはアイビスの剣があるニャ。だから言ってやったニャ。ハサミだって斬る道具ニャ、斬るだけじゃなくて突くことだって殴る事だってできるニャ? そうニャ、剣だって同じ斬る道具でも他の用途があるニャ」


 そこには、お互いに理解を深めて通じ合おうという意思は無い。

 猫耳さんの話は怒涛どとうの謎展開を繰り広げ、もれなく結論が付随している。

 言葉の道筋が双方向に繋がっているはずなのに、片側は事実上の通行止めである。

 集積される情報はすべて、猫耳さんの脳内を補足するためだけに存在する。

 会話とは即ち、猫耳さんの中で完結した主張なのだ。

 そこに人の意見を挟みこむ隙間すきまなど無い。


 あれ、会話の相手いらなくね?


 ……ああ、それと、はさみって打撃武器じゃないよね?

 少なくともそういう用途を想定して作られた道具ではないはずだ。

 何とかと鋏は使いようって言葉は知ってるけど、限度はあると思うよ。



 猫耳さんによる個人向けヒアリングレッスンは

 帝都から出立した後、自分達は郊外の平原をひたすらに歩いている。


 そして時々、どこからともなく魔物がやってくる。

 しかも、どの魔物も例外なく襲い掛かってくるのが非常に厄介だ。

 ていうか昼夜を問わず襲撃される。休まる暇も無いとはこの事を言うのだろう。

 まあ、どんな魔物でもまっぷたつにされたり、三枚にろされたり、細切れにされたり、みじん切りにされたりして、気が付いた頃にはバラバラなんだけど。猫耳をピンと立てつつ、得意気に尻尾を揺らしている猫耳さんによって。


 あ、うん、そうだね、休まる暇が無いのは主に猫耳さんだけなのだ。

 猫耳さんは休み無く動き回っているが、少しも動きが鈍っていない。

 やっぱり結論は、猫耳さんは頼りになるってことなのかな。



 猫耳さんは特殊な形状の武器を使っている。

 やや判定に困る所だが、おそらく剣に分類される物だろう。


 片腕ほどの長さで、材質は不明。おそらく総金属製。

 柄の長さが全長のおおよそ半分くらいある。

 両手でどこをつかんでも取り回せる形状は、製作者による配慮かもしれない。

 重厚な見た目では無いのにやたらと頑丈なので、おそらく特殊な材質なのだろう。

 れない、びない、けない、くならない剣らしい。

 猫耳さんは略して『おさかなソード』と呼んでいる。繋いで呼んでいるだけで、魚とは何の関連も無い。ネーミングセンス無いな。

 ちなみに『無くならない』という部分は、猫耳さんだけの特権である。

 どんなに遠くへ投げても、なぜか猫耳さんの手元に戻ってくるのだ。

 手元に戻る原理を尋ねようとしたら、少し変わった使用法の解説が始まった。

 いやちょっと待って、野鳥を捕まえる時のコツなんて聞いてないんだけど。

 ギュミッと握ってとかファーって投げる、みたいな擬音は意味不明だから。

 あ、たぶんこれ、戻ってくる理由を使用者が理解していない感じのやつだ。

 まあ製作者はずっと昔にいなかったニャ、という言葉は聞けたから上々だ。

 たぶん『古い時代に作られたから製作者は生きてない』って意味だと思う。

 きっと超すごい感じの古代文明の遺産的な剣なんだな、と雑な解釈に留める。

 詳しく聞くほど分からなくなっていくので、この辺で満足する必要があるな。

 おかしいな、言語は理解できているはずなのに言語の壁を感じるぞ。


 猫耳さんは剣が壊れないのを良いことに、かなり奔放ほんぽうな剣の使い方をする。

 両手両足利きというか、武器を使う格闘技というか、斬新な体操の類にも見える。

 ちょっと危険が危なくて真似できそうにないけど、見ている分には面白い。

 あと投擲とうてき向きの形状ではないのに、手元に戻るからと言って平気で投げる。

 そして猫耳さんが投げたものは剣だろうと木の枝だろうと必ず魔物に当たる。

 ひるませるとかそういう段階ではなく、刺さったり削ったりするのだ。

 ついさっきも魔物には飛び道具が通用しにくい理由を解説しながら投げてたけど。

 もはやコツとか慣れで習得できる技術とは完全に別物だ。


 変幻自在に剣を操り、魔物が何匹相手でも残さず斬り捨ててしまう猫耳さん。

 おまけに元気に喋り続けながら、疲労の様子も無い。非常にタフだ。

 本当に凄いのは剣の性能ではなく、猫耳さん自身の性能だと思う。


 ちなみに魔物というのは、例のバケモノたちの総称のことだ。

 魔物は姿形に応じてその性質が大きく変わる。

 このため、わりと大雑把な種別分類をされているらしい。

 形状に応じて『○○種』といった感じの名前が付けられるわけだ。

 何となく読み仮名が『○○』部分の意味と合致していないような気がしたけど、自分でもそう思ってしまった理由は分からない。


 これらの情報はすべて猫耳さんから聞いたものである。

 自分の中にある謎知識は、魔物の情報に関して全く働いていない。

 専門分野や得意分野ではないということなのかもしれない。

 雑学的な知識しかない専門って何だとは思うけど。

 少なくとも、謎知識と同じ形式で自分の中に情報を刻み込める気がしなかった。

 種類ごとの詳しい生態というか特性、活動傾向、そして特殊能力。

 特に活動傾向には個体ごとに差もあるし、例外も少なくない。

 大雑把な分類でさえ種類が多すぎて、情報量ではなかった。


 直に魔物の姿を見るか、猫耳さんの会話を聞く他に情報源が無いのが問題だ。

 猫耳さんが性質を解説していると思えば、何についての解説なのか主語が無い。

 主語があるときには魔物がいなかったり、順序立てた説明が無かったりする。

 そして猫耳さんが納得、あるいは自己完結してしまえばそこで話は終わるのだ。

 一方的に聞かされる身としてはモヤモヤしっぱなしである。


 まあ、理解するか否かに関わらず、魔物は猫耳さんが斬って終わりなんだけど。

 最初こそ魔物の種類の多さに不安すら感じていたが、心配するだけ無駄だった。

 今では猫耳さんに斬れないものは無いという謎の信頼感すら生まれつつある。


 しかし、そうすると新たな問題に直面することになる。

 今までの解説のような解説でない何かを自分が聞く必要性の有無に関してだ。

 精神衛生上、猫耳さんの話に意味や理解を求めるべきでは無いのかもしれない。

 生物的にありえない動物は魔物だな、と大雑把な把握に留めておく事にした。


 この『生物的にありえない動物が魔物』という表現は言い得て妙だ。

 魔物は生物ではない。生きていないのだ。だから殺せない。

 子供の言葉遊びにも等しく、合理性のない超理論に思える。

 だがこの超理論はほとんど成立している。成立してしまっている。

 なぜかだいたい現実と合致してしまっているあたり困惑を隠せない。

 世界のことわりとは非常に難解である。


 魔物は、核から完全に切り離していない部位を復元する事もあるらしい。

 時々、猫耳さんがまっぷたつに斬った後でも平気で暴れ回る魔物がいる。

 そういう魔物は失った部位を再生させたりする。だいたい元と形が違うけど。

 物理法則や生物工学を相手に、真っ向から喧嘩を売っているとしか思えない。

 魔物とは、まさしくバケモノなのだ。


 そんな魔物に対して猫耳さんが出す解は実に単純明快なものだった。

 再生するなら再生しなくなるまで刻み続ける。

 それでも動くなら動かなくなるまでバラバラにする。

 徹底的に斬って壊してすり潰す。力押し一辺倒の方針である。

 猫耳さんの頭の中は、脳ではなく筋肉でも詰まっているんじゃないだろうか。

 冗談みたいな方法を実現してしまう猫耳さんが、一番のバケモノだと思う。


 しかし、こう何もすることが無いとやはり気になって仕方が無い。

 いったいこの魔物というものの正体は何なのかということだ。


 生物、というか動物に似ていることもある。

 だが四肢の数が奇数で四肢じゃなかったり、骨格も無いのに自立したりする。

 そして見た目の部位が見た通りの性質であるとは限らない。

 生物全般に襲い掛かるという話なのに、捕食はしない。

 そもそも摂食して栄養補給するための内臓器官を持たない。

 不死にも近しいかと思えば、ある程度削られると再生できずに溶けて消える。

 核となっている部分をえぐり出されても、やはり跡形も無く消えてしまう。

 その姿にこそ一貫性が無いが、どれも根底は同じものなのだろう。

 魔物の存在。正体。原理。

 それなりに興味がある事柄ではあった。


 そう、最初から知ろうとすることを放棄していたわけではない。

 帝都から出たあたりで、それとなく猫耳さんに聞こうとした事はあるのだ。

 すると猫耳さんは質問を遮るように、


「魔物とは形質により性質を異にする本質が同じものニャ」


 などという意味不明な事を得意気とくいげな顔で言われた。哲学か。

 珍しく会話らしい会話が成立したかと思えばこのさまである。

 注釈の無い抽象表現なんて、どうやって読み解けというんだろう。

 魔物とは何か。人間とは何か。確かに哲学的な問いではある。

 だからと言っても他の聞き方が思い浮かぶわけでもない。

 今さら言葉を変えて質問する雰囲気でもないし、ちょっと困る。

 こちらは猫耳さんのように感性で会話できるアーティストではないのだ。

 アーティストが感性で会話するかどうかなんてのは知らないけど。



 いろいろと考えている内に平原を抜けて、樹木が密に生い茂る空間へと至る。

 いつのまにやら森の中に入っていたようだ。


 帝都の外に舗装されている道なんて無かったが、不思議と疲労感はない。

 もしかすると、猫耳さんがペースを自分に合わせてくれたのだろうか。

 変なところでづかいの出来る猫耳さんである。

 その気遣いをもうちょっと会話の中に落とし込んでくれてもいいのよ。


 森の中は薄暗い。

 何も見えないという訳では無いが、かといって目印らしい目印も無い。

 お天道てんと様を見ていないためか、時間の経過がまったく分からない。

 時間の経過がわからないから、歩いてきたおおよその距離も分からない。

 道も無い森の中では、方角さえも分からない。

 まあ帝都にいたときから方角なんて分からなかったけど。

 そもそも方角だけ分かっても地理が分からないから意味は無いかもしれない。


 ところで猫耳さんはどうやって方向を見失わずにいるのだろう。

 帝都を出てから道らしい道を一度も通っていない気がするし、地図やそれに類するものを確認しているわけでも無いのに、ただの一度も道に迷ったような様子が無い。躊躇も迷いもない直進は清々しくもある。もしかすると、一部の動物みたいに磁場を感知しているとでもいうのだろうか。人間なのに野獣の性質を持っているのか、野獣なのに人間の形質を持っているのか。ならば本質とは何なりや、などとこの世の真理について考えて思考の迷宮に囚われごっこをしているうちに、森を抜けた。


 森を切り拓いて整地したような、開けた場所へとたどり着く。

 そこには、大量の丸太を組み上げて築き上げられた、物々しい建物があった。


 分かりやすく表現するならば、長くて、大きくて、高くて、分厚い壁だ。


「ここが今の最外郭さいがいかく拠点ニャ」


 猫耳さんが何か言っているが、それどころではない。

 圧倒的な規模の建造物。ここまでのものは帝都でも見なかった。

 ただの木造建築の家屋とは重量感が違う。迫力が違う。

 木材なのに編み込むように隙間無く積み重ねられ、組み上げられている。

 まともな工法では造成できない。大掛かりな建設重機か何かが必要だ。

 だが、周囲に巨大な機械や、それに類する部材を搬入する道が見当たらない。

 つまりは人の手だけで、尋常ではない方法を用いて組み上げられたのだろう。

 いや、重機って何なんだとか聞かれてもここには無いから答えられないけど。

 この規模だと解体するのも困難だ。

 攻城兵器でも用意しないと壊せないのではないだろうか。

 建物を見上げて何かしらを確認した猫耳さんがつぶやく。


「とりあえず勘に頼ってまっすぐ来たけど正解だったニャ」


 えっ?


 迷う様子も見せずに進んでいたのは何だったんだ。

 てっきり猫耳さんは目的地の位置を完全に把握してるものだと思ってたんだけど。

 あと魔物と戦いながら来たから、決してまっすぐではなかった気もする。

 衝撃の事実が判明した気がするけど結果だけ見れば確かに問題は無い。

 疑問は尽きないけど、心の内に留めておこう。


 何はともあれ、ここが猫耳さんの目的地らしい。


 見上げる。壁の中は見えない。

 背伸びをしても中を覗き込めるような高さではない。

 人間ピラミッドでもしない限り覗き込むのは不可能だろう。

 でも人間ピラミッドをするためにはちょっと人手が足りないな。

 猫耳さんを足蹴にするなんてとんでもない。恐れ多いことである。

 そうか自分が土台になればいいのか。いやそれだと自分が覗き込めない。

 一人で組体操にんげんピラミッドをする方法が思いつかない。

 中を確認するのは泣く泣く諦めるしかないだろう。泣いてないけど。


 壁の上部には返しのように杭が取り付けられていて、よじ登るのも難しそうだ。

 大型肉食獣が動物園から抜け出した程度なら、完全に遮断できるに違いない。

 いや確かに遮断は出来るだろうけど、肉食獣相手ならここまで必要無いと思う。

 もしかするとこれは、魔物に対抗するために作られた防壁なのかもしれない。

 ここまでの間に見てきた魔物を思い浮かべると、確かにこのくらいは必要だ。

 防衛設備としてはよく考えられているな。

 問題点は、どうやって人が中に入るのか、初見の自分には分からないことか。

 人も魔物もシャットアウトして、何から何を守るというのだろう。

 まあ、正規の出入り口がここではないだけかもしれないけれど。

 あ、でも空飛ぶ魔物なら普通に入ってしまうんじゃないだろうか。

 地面を掘るような魔物がいたら、やはり防げない気もする。

 よく考えたら、よく考えられていないんじゃないかと思う。

 そんなことを考えながら少し距離を開けながら見上げてみる。

 すると物見ものみやぐらのような構造物が見えた。

 構造物はある程度の間隔をおいて、いくつも建てられていた。

 それぞれ何人かずつ、構造物の上から見張りらしき人影が覗いている。

 しかしあれでは目に映るものだけにしか対応できないだろう。猫耳さんでもない限り。


 ん? そうか、なるほど。そういうことか。

 猫耳さんなら視認する前から魔物の居場所が分かる。

 猫耳さんみたいな人が見張って、猫耳さんみたいな人がぶった斬ればいい。

 よく考えたらよく考えられてないと思ったらよく考えられていたわけだ。

 これで問題は解決する。大変だな猫耳さん。


「何やってるニャ?」


 おおっと。

 色々と考えていたタイミングで声を掛けられてびっくりした。

 猫耳さんはこちらの動揺にも気付かず、そのまま壁に沿ってどこかへ歩いてゆく。


 ああ、いやまあ、そうか。順当に考えれば、そうなるのは分かる。

 この構造物の出入り口へと向かっているのだろう。


「さっさと来るニャ」


 しかし『来るニャ』って、意味がわかりにくいよね。

 それ単体で聞くと『来い』とも『来るな』とも解釈できる。

 まあ『さっさと』って言ってるから『来い』で間違ってないはずだけど。

 なんで変な語尾を付けているんだろうニャ。ちょっと気になるニャ。

 これを指摘するのも今さらかもしれないけど。


 いま行くから待ってニャ、とかいう返事をしたらぶん殴られるだろうか。

 試すつもりは無いけど、何を言っても特に殴られるような事はない気もする。

 しかし何事も無かったように無視スルーされてしまう可能性も高い。

 いや、猫耳さんの場合は最初から話を聞いていないかもしれないな。

 猫耳さんは喋るのは得意なんだろうけど、聞くのは苦手そうだし。

 自分の場合は聞くことも喋ることも得意ではないけど。

 まあ、人には得手えて不得手ふえてってものがあるから仕方が無いよね。




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