魔王録 改訂版

ミスティオス

序章

第0話 ptet@60.j5i


第0話 ptet@60.j5i



[認定]

 本書は同名の原版をもとに改稿された『改稿版』です。

 本書は審理担当官の責任ある対処により検閲および認定されました。

 (※認定登録番号B3C-AX01037882)

 特殊史書取扱既定に基づき、本書は史書組合の管理下において一般公開されます。


[補足情報]

 本書改稿版製作に携わった審理担当官、編集者、翻訳者に関しての情報記録は史書組合規定により抹消されています。抹消の経緯や詳細については史書組合倫理規定により非公開情報となっています。


[安全確認]

 改稿版には非可識性潜蝕情報体群を駆除した痕跡が表出している場合がありますが、この痕跡には物理侵蝕や情報体汚染などの危険性はありません。

 検閲時に実行される非可識性潜蝕情報体群の駆除は完全な不可逆処理です。

 知性体および媒体品質へ影響を与える能力を取り戻すことはありません。


[注意喚起]

 類似図書にはくれぐれもご注意下さい。

 内容を読み始める前に必ず、本書が『改稿版』である事をご確認下さい。

 本書の類似文書『魔王録原版』(検閲受理番号が無いもの。以下、原版と示す)は史書組合にて特級禁書に指定されています。非可識性潜蝕情報体群の性質上、原版の物理的な取り扱いおよび原版に関する情報の取り扱いにも厳重な注意を要します。疑わしい文書に接触する際には、内容に目を通す前に必ず検閲受理番号を確認して下さい。


[警告]

 特級禁書とは史書組合特級禁則に抵触する文書です。

 原版には複数の浸蝕型情報構造体が確認されており、複製や閲覧だけでなく単純所持も禁止されています。長時間に渡る物理的接触は極めて重大で深刻な侵蝕事故に繋がる危険性が示唆されています。


[要請]

 特級禁書を発見された方は、決して読まないようにして下さい。

 接触していた場合は速やかに手を放し、可能であれば誰も触れないよう周囲にも注意喚起を促しつつ、ただちに史書組合本部または最寄りの史書組合支部までお知らせ下さい。


[謝辞]

 みなさまによる史書組合への協力と忍耐に感謝いたします。



 史書組合総会本部一同 記




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(以下は原版の表紙裏に残されていた走り書き。筆者および記載時期不明)



 はじめまして。


 していた完成度には到っていない事を、まずは了承してほしい。


 つたない言葉でしか表現できない語彙ごいの不足が悔やまれる。


 はじめてこの言語で文章を書いたからと言い訳をするつもりではないのだけれども、ひと段落してから自分でざっと読み返してみたところ、どうにも書いた意図さえも判別しがたい奇書の類になってしまったという感が否めない。

 すぐに誰かに理解してもらえる内容とは思えないし、むしろ最後まで読まれないかもしれないけれど、それでもこれ以上に何かしらの内容を加筆することはできないし、するべきではないという結論に至った。

 偶然ぐうぜん性と勘に任せて全て読み解こうとするなら相応の忍耐が要求されるし、執筆した意図を完全に理解するならそれなりの知識と柔軟な思考が必要だ。

 そういった特殊な性質の作品だから、流行の物語を読みたかった方々にはそれこそ星の巡りが悪かったと思ってあきらめて頂くしかない。


 ここでは記録と知識のすり合わせができないから、半ば手探りで書いたような状態なのだ。


 ニーズや社会情勢を幅広く網羅もうらして、登場人物の心理を共感できるものに置き換え、すべての出来事を分かりやすいものに置き換えてしまえば、少なくとも今より読みやすくなっただろうし、もしかすると誰かが素晴らしいと感じる物語を書く事だってできたかもしれない。

 まあ、創作において作者が作りたかったものの原型が影も形も無くなってしまうなんてのはよくあることだと聞いているから、古今東西『より良い作品』を作るためにはそういった犠牲は付き物なのだろうね。


 でも自分は改変をしなかった。


 きっと誰かが必ず世界の真実に辿り着けると、自分が人類の可能性を信じているからだ。


 ていうか真実とか言ってるけど、この書に記した内容はそんな大げさなものではない――少なくとも自分の中では基礎知識に少々の香り付けフレーバーを効かせたくらいの認識でしかないから、要件を満たしていれば最低限の情報を手に入れられる程度だろう。


 いまこの最低限の情報というものにどの程度の価値があるのか、っていう解説もどこかに記しておきたかったのだけれど、その試みは残念ながら既に失敗している。

 ルールに従う限りは端末にも媒体にも制限があるし、読者の総数もそれほど多くはないはずだから、結果的に誰にも解読できなかったのならば、それはそれで仕方が無いと考えている。


 それでも何か自分にできることがないかと模索したからこそ、小さく切り分けたピースをつなぎ合わせてパズルのように組み立てるような小細工をするなんていう迂遠うえんな手法を取ったわけで、まあ正直これが現時点で自分にできることの限界でもある。

 なるべく多くの人たちの目に触れ、目的達成条件をクリアできるように、かつ情報を悪用されないようにするための小細工だと考えてくれればいい。


 ええと、まあ、技術やら感性やらの不足のせいで陳腐な表現が多くなってしまったのも事実だし、厄介な異物が混入する隙を作った遠因であるという指摘は聞かなかったことにしたい。


 なんだか振り返って考えるととてつもなく不毛で、無意味で、無駄で、時間の浪費にしかならない事をしてしまったような気もして、色々と不安になっているところではある。

 サラッと触れる程度の文章量で語り尽くせる事なんてないのもまた確かだけど。


 いや、それでも、できる限りの工夫はしておかなければね。







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