第4話

『はい、これあげる!』

それは、今日みたいな寒い寒い雪の降る朝。

僕は、高校の門をくぐり、掲示板の前に立っていた。

自分の今の成績では無理だろうと言われていた高校を受験し、その合格発表を見に来ていた日の出来事だった。

 

受験当日に隣の席になった女の子とたまたま道で一緒になった。

僕が話し掛けたんじゃない、僕のことを覚えていた彼女が突然話しかけてきたのだ。


『ねぇ、受験会場で隣だった人ですよね?』

『え?そうですけど……』

目の前に出されたピンク色の包み紙のキャンディ。

彼女の薄いピンク色をした手袋と馴染んでいた。

 

ゆりには人見知りなんていう概念は存在しないのだろう。

受験当日からそうだったが、初対面でいきなりぐいぐい話し掛けてきたことを覚えている。

『もしかして、これから合格発表を見に行くところ?一緒に行こうよ!』

満面の笑みでそう言ったかと思うと、僕の手に先ほどのキャンディをしっかりを握らせた。

勢いに押されたまま、僕は彼女に手を引っ張られて高校へと歩いていった。

予定ではもう少し神妙な気持ちで掲示板を見る予定だったのだが、断ることも出来ずに彼女に言われるがまま掲示板の前へと歩み寄った。


111、112、113……。

僕の受験番号番号である「123」を張り紙の上に探す。

合格は無理だと言われていたが、悔しくて悔しくて、その日から一生懸命に勉強した。

 

番号はあるのか、それとも無いのか。

僕は息をするのもやっとな思いで掲示板の前に立っていた。

『きゃーっ!あったよあったよ!あたしの番号!』

重苦しい気持ちでいる僕の右側から、お祭り騒ぎでも起きているのかと思うようなにぎやかな声が聞こえてきた。

彼女は合格したらしい。

僕はどうなんだろう。

結果を知りたいのに、知るのが怖い。

そんな重苦しさでいっぱいになった僕は目を閉じた。


『わーっ!やったやったぁ!』

すぐ隣では、僕の気持ちも知らないまま喧しく騒ぎまくる女の子の声が耳元にキンキンと響き渡っている。

正直な話、こんなに大騒ぎされると気持ちの落ち着かなさも増すし、キンキン声がグサグサと心に突き刺さってくるのでこの場から逃げたいと思った。


『うるせぇなぁ!』

そう叫ぼうかと思ったが、次の瞬間その女の子に両手を掴まれて振り回された。

『やったー!春からは一緒に高校に通えるね!』

(えっ?)

僕が結果を確認する前に、彼女が先に見て一緒に喜んでいるのだった。

きゃーきゃー言いながらいつの間にか自分に抱き付いて喜んでいることに気が付いた僕は、とっさに彼女を引き剥がした。


『ちょっ!何だよ!』

『あっ、ごめんなさい。この高校を受験したのがあたし一人だったから、知ってる人と一緒に通えるのが嬉しくて!合格おめでと~う!』


目の前で顔いっぱいに笑顔を浮かべながら彼女は喜んでいる。

知っている人と言われても、受験の日に一日だけ顔を合わせた程度ではないか。

それなのに、どうしてこうも馴れ馴れしくされるのか、よく分からなかった。

 

オロオロしている僕の手から、先ほど彼女から受け取ったキャンディがむしり取られた。

包み紙を剥がして中身が見えたと思うと、彼女は僕の口にキャンディをぽいっと放り込んだ。

『お祝い!ピーチ味だよ!』

あははと嬉しそうに笑いながら、彼女は自分もカバンから取り出したキャンディを口に入れた。


まるで台風みたいな女の子だなと思ったが、僕は彼女から目をはなすことが出来なかった。

甘い味が口の中に広がり、僕は黙ったままドキドキする気持ちと一緒に喉の奥へと流し込んでいった。


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