第2話
「ねぇ、ほら美味しいよ?いちごミルクだよ!」
帰り道、黙って歩く僕の後ろをぽてぽてと着いて歩きながら、ゆりは嬉しそうに笑って言った。
左側へ廻ったかと思うと、顔の横でイチゴの絵の描かれたキャンディの包み紙をひらひらさせてくる。
鬱陶しいなという顔で、僕はフンと顔を逸らす。
『今日こそは、キャンディもらってもらうんだから大作戦開始!』
またつまらないことを始めたもんだと思いながら、僕は帰りの時間が一緒になることを避けるため、彼女を撒いて図書館で二時間ほど過ごしてから校門を出た。
しかし、どういうわけかそんな僕を、ゆりは校門のところでずっと待ち続けていたのだ。
そこまでしてどうして僕にキャンディを受け取らせたいのだろう。
彼女は今度は逆方向へと廻りこみ、「ほ~らほ~ら」とキャンディを見せつけてくるのだった。
出逢った頃よりも僕の身長が伸びたのだろう。彼女が僕を見るときにはだいぶ上向き加減になるようだ。
「いい加減にしろよ!いらないって言ってんだろ?」
あまりにもゆりがしつこいので、僕は我慢できずに彼女に吠えた。
すると、ゆりはビクッとして動きを止めた。
しゅんと俯く彼女。だが、いらないと言っている人間に何度も何度も言うのが悪いのだ。
僕はムスッとだまったまま歩き続けた。
「……でも」
ふと、ゆりが立ち止まって言った。
ボソッと呟かれたその言葉は、とても小さい声だったが僕の耳に届いた。
どうせいつもの強がりだろ、と思いつつ横を見ると、彼女は黙って俯いていた。
「え……?」
はち切れそうでバカみたいにはしゃいでいる元気娘が、下を向いている。
正直僕はたじろいだ。
「でも、″あの時〝は受け取ってくれたよね?」
元気のない声が響く。
僕は、黙ったまま彼女の方を見ていた。
「ゴメン、帰るね」
ゆりは、そう言ったかと思うと、急に方向を変えて歩き出した。
彼女と別れるのはいつも、もう一つ先の交差点のはずだった。
突然の出来事に僕は言葉を失ったが、彼女を追いかけることは出来ず、そのまま後姿を目で追っているだけだった。
”あの時″。
ゆりの言葉を何度も何度も心で繰り返しながら、僕はしばらくの間ずっと一人で立っていた。
冷たい風が胸の中にまで沁み通るような、そんな気持ちになった。
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