CANDY POP
水無月杏樹
第1話
「おはよう!はい、どうぞ!」
ピンク、黄色、ブルー、黄緑。
カラフルな包み紙のキャンディーが、雨宮ゆりの両手の中で今にも踊り出しそうだ。
登校してきた生徒たちに一人ひとつずつ、手渡されていく。
「相変わらず来るの早いなぁ。ありがと!」
受け取られたキャンディは、みんなそれぞれにカバンの中へしまったり、はたまたその包みを剥がされて口の中へ放り込まれたりしていた。
ゆりは、クラス全員に、にこにこしながらキャンディを渡して回った。
「あっ!雄樹くん、おはよう!」
教室に入ろうとした僕の前に、ゆりが足早に近づいてきた。
そして、嬉しそうにキャンディを手渡してきた。
僕は黙ってそれを見つめたまま、返事もせずに素通りした。
ジャンパーを脱いで、マフラーを外す。
忙しい朝にキャンディなんて受け取っている暇もない。
そして何より、〝興味が無い〟。
毎朝手渡すのが日課のゆりと、それを黙ってスルーする僕。
高校に入学してからずっと続く習慣になっていた。
「雄樹くん、一度くらい受け取ってあげなさいよ」
周りの女子生徒の中から、亜希子が睨みつけながら僕に話しかけてきた。
「別に、欲しいなんて言ってないだろ」
冷めた態度で答える僕。そうだ。欲しいなんてひと言も言っていないのだ。
なのに、ゆりは毎朝毎朝キャンディを渡そうとする。
高校に入学して同じクラスになり、受け取らない姿勢を貫いて十カ月。
もういい加減諦めてくれてもいいんじゃないだろうか。
それでも彼女は相も変わらずその習慣を崩そうとはしない。
「クールな男を気取ってるのか知らないけど、ちょっとヒドくない?」
クラスメートの亜希子は両手を腰に当て、強い口調でこちらへ詰め寄った。
だが本当に、いらないものはいらないのだ。
そうは思いつつも、ふと、ゆりの方に視線を移してみた。
もしかしたら暗い顔をしているんじゃないかと思ったのだ。
だが、そんなことは思い過ごしだったみたいだ。
「あっちゃん、いいよいいよ!今日受け取ってもらえなかったら、また明日ぐわんばるから!」
ゆりは落ち込むどころか逆にファイトを燃やしているようだ。
握りしめた拳を「エイエイオー!」と振り上げたかと思うと、高い位置で束ねられたツインテールが元気良く揺れた。
(マジかよ……)
僕は、眉間にしわを寄せながら、自分の席で頭を抱えた。
正直なところ、ゆりが傍にいると調子が狂う。何だか落ち着かない。
この攻防はいつまで続ければいいのだろう。
クラスが変わるまでだろうか、いや、高校を卒業するまで続くのかもしれない。
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