エピローグ

かくて戦いは終わりを告げる。そして新たな道へと歩む者達!

「……誰もいないべ」


 戦いが終わった後、ピーチタイフーン達が戦っていた場所にスマシャ達がやってきたが、そこには誰もいなかった。激しい争いの後は残っているが、それを引き起こした二人の姿はない。


「魔法痕跡も見つからん。どこに消えたのやら」

「某の魔眼でも移動の跡は見当たりませんな」


 魔導に長けるヴェルニや様々な血魔スキルを持つデラギアをもってしても、二人の姿を見つけることはできなかった。


 だが、ここにいる者たちはピーチタイフーンの勝利を疑いはしない。魔王ガルドバが敗北した証拠に、魔王が殺した魂が解放されたからだ。魂はガルドバの魔力により全員蘇生され、元の肉体に戻っていた。


 同時にガルドバから与えられた創造の力も消え去っていた。もとより(イギュリを除いて)誰かに与えられた力を使いたがる者たちではない。力の喪失を惜しむ者はいなかった。


「魔王は負け、ピーチタイフーンはいずこへと旅立ったということですわね。もう一度戦いたかったのですが」


 口惜しそうに表情を歪めるピアニー。次戦えば勝つのは自分だ。その自信が現われていた。


「旅立つってどこにだべ?」

「何処かはわかりませんが、レスラーが団体いばしょを離れて旅立つ理由は一つですわ。

 強者を求めて、武者修行に出たのでしょう」


 レスラーは、頂点を目指して強者との戦いを求める。魔国の王を倒したピーチタイフーンが求めるのは、さらなる強者だ。


「ふん。次に出会った時は妾の方こそ強いと分からせて見せますわ。技を研ぎ澄まし、次こそはギブアップを奪いましょう」

「そうだな。某も土をつけられて大人しくするつもりはない。真祖の誇りにかけて勝利しよう」

「魔王を倒したことで魔術を見下されては困る。無限の発想による我がゴーレム格闘術。その発展した姿を見せてやる」

「オラも負けるつもりはないべ。もっともっと強くなって、オークの強さを刻んでやるだ」


 ピアニーもデラギアもヴェルニもスマシャも、旅立ったピーチタイフーンに負けるつもりはないと気合を入れる。


「けっ、熱血なノリにはついていけねーぜ。……ま、戻ってきたら挨拶ぐらいはしてやるか」


 イギュリはそんなノリについていけず、悪態をつく。だがピーチタイフーンとの戦いは、確実にイギュリの精神に影響していた。


 そして彼らは背を向けて歩き出す。それぞれの戦う場所へと――


 ★

 スマシャはオーク達を引き連れて、故郷に帰っていた。荒れ果てて作物が取れない。そんなオーク達が住む故郷に。


「先ずはこの地を開墾するだ! レスラーに不可能はない! オークに不可能はないだ!」


 そう言ってオーク達を鼓舞する。ピーチタイフーンの戦いを見たオーク達はその言葉に自らを燃やし、荒地の開墾にいそしむ。


 また同時にエルフの村の復興を手伝っていた。ピーチタイフーンがいない今、エルフの村の復興を手伝う義理はない。だが、【世界解放レボリューション】として共に戦った仲間の村だ。手を貸すのはやぶさかではない。森の結界もなくなり、防衛力も下がっているのだから。


 もっとも、防衛力に関しては不要だと気づかされた。エルフの中にもピーチタイフーンに影響され、戦いを学ぶ者が増えてきたのだ。精霊の力を借りた格闘術。それはオークの力にも対抗できるだろう。


「どちらが強いか、試してみるべ?」

「いいだろう。では勝負だ!」


 定期的に交流試合が交わされ、両種族の絆は高まっていく。


 ★

「勇者よ」

「貴様は、ヴェルニか」


 ヴェルニはかつて袂を分かった勇者の元を訪れていた。自らを追放した勇者。そしてその勇者の仲間を仲違いさせたヴェルニ。その罪は、消えない。


「すまなかった」


 しかし、失敗はやり直すことができる。罪は償うことができる。起こした行動を消すことはできないけど、行動を反省して行動することはできる。


「いや、俺も調子に乗っていた。お前のような奴がいないとダメなんだって反省したよ。

 もう、何もかも遅いがな」

「そんなことはない。諦めなければ、道を歩くことはできる」

「どうした? そんな熱いことを言うなんて」

「人は変われる。ワシのように。勇者よ、お前もまた変われるはずだ」


 一朝一夕とはいかずとも、人は変わることができる。ヴェルニはピーチタイフーンから学んだ絆の力を思い出す。そうだ、ヒトは一人では生きてはいけないのだから――


 ★

「奪った人生を返すことはできませんが、それに報いることはできます」


 デラギアは永き吸血鬼の人生を多くの人を助けるために使った。奪った人生が為しえた功績。助けた人間。それを取り戻すように。真祖の長として吸血鬼達を束ねると同時に、他種族への貢献を行う。時間を止めて移動や思考を行い、可能な限り多くの者と接していく。


「おのれが持つ力の意味、それを深く理解するのです。役立たずな能力などない。それをよりよく理解し、その意味を感じ取るのです」


 力弱き者、排斥された者。デラギアはそう言った人たちに親身になり、そう説いたという。かつての自分を導くように。自分のような能力に溺れる者を救うように。


「人生は、素晴らしい。その歩みにこそ価値があるのです」


 冷たいはずの吸血鬼の手。しかしそこには確かな温もりがあった。


 ★

「さあ、今日も一日頑張りますわ!」


 ピアニーは自分の国シャングリラに戻り、サソリの女王として自らの国を治めていた。女王としてやることは多い。任せれる案件は信頼できる部下に任せ、王は王にしかできない職務に励む。様々な業務の認可。交渉すべき相手との会見。問題事項の洗い出し。朝から晩までひっきりなしだ。


「隙だらけですわ!」


 そう言った王女の仕事の中に、外敵への対応と言うのがあるのはピアニーならではだ。シャングリラを狙う魔物や人間。そう言った者たちを投げては極め、投げては極め。幸か不幸か、ピアニーの敵になる相手はそうそういない。


「もう少し歯ごたえがある相手はいませんのですか? 妾を熱くしてくれる相手は」


 ドラゴンブレスさえつかんで投げるサソリの女王は、欲求不満とばかりにため息をついた。充実した女王ライフの中で、それが一番の不満のようである。


 ★

「よーし、繋がったー!」


 イギュリはガルドバの創造魔法を使って、元居た世界の電子世界とつながることができるマジックアイテムを創造していた。動力はイギュリ自身の魔力で事足りる。それを一日中見て、洞窟に籠りきっていた。


「ネットがないのが難点だったんだよなー。異世界魔法万々歳。通販も届くようにしたし、快適ネットライフだぜ」


 自分がため込んだ財産がそのまま電子通貨になるようにしたのか、イギュリの引きこもりレベルはかなり増加した。ドラゴンがあまり動かないこともあり、周辺の地域は平和に過ごしたという。


「ここがドラゴンの巣穴か。俺が退治してやるぜ」


 まれにドラゴンキラーの名誉をと求めてイギュリの元にやってくる戦士や魔法使いもいるが……彼らはイギュリのネット代のために身ぐるみはがされて外に投げ出される。


 やってきた相手を殺すことなく、『ご愁傷さま』と地球の言葉で書かれた紙を近くに置くあたり優しいのだろうか?


 ★

 あの戦い以降、魔王ガルドバの姿を見た者はいない。元の階梯に戻ったか、あるいはこの世界を彷徨さまよっているか。それさえも分からない。


 魔国は生き返った大臣達がどうにか国を切り盛りするが、ガルドバの圧倒的な強さのみで抑えられていた軍隊を、同じく魔王の威光で無理難題を通してきた大臣が制御できるはずもない。国としての体裁は崩れ去る。

 魔国は多くの国に攻め入られ、その領土は大きく削られていく。その侵攻で救われた命は多い。同時に奪われた命も多い。しかし想像していたほどの殺戮はなかったという。これは人間側の優しさと言うよりは、魔物側が早々に戦意喪失して降伏したのが主な原因だ。

 かつて大陸の8割を納めていた魔国の脅威は、こうして消え去ったのである。魔物の領域と人間の領域。それらはちょうどいいバランスで保たれている。


 ★

 そしてピーチタイフーンは――



――――――――――――――――――――――――


 一時間後に最終話を投稿します。

 

 

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