魔王ガルドバの猛攻撃! ピーチタイフーンの魂をかけた尻は魔王を倒せるのか!?
はるか高い階梯から引きずり降ろされたガルドバ。本来ならありえない事象に、しかし笑いながらそれを受け入れた。圧倒的に優位な立場を奪われたにもかかわらず、むしろ嬉々としてピーチタイフーンに迫る。
「よもやとは思うが本体が分身よりと同格、あるいは弱いなどとは思わんよな、ピーチタイフーン!」
「本当にそうなら興ざめだ。さあ、貴様の力を示すがいい!」
「くっくっく。ならばとくと味わうがいい!」
ガルドバは右手を広げ、指を伸ばして密着させる。そのまま小指側の側面をピーチタイフーンに向けた。チョップ。あらゆる格闘技における打撃技法。剣術などの武器が主体の武術においても、これらの技法は存在する。
当然プロレスにおいても様々なバリエーションが存在する。元大相撲出身の伝説的レスラーが用いた空手チョップを源流に、袈裟切りチョップや水平チョップ。脳天唐竹割り。モンゴリアンチョップにマシンガンチョップ。選手の数だけバリエーションがある打撃技。
ガルドバは魔力で身体能力を増し、そしてチョップを当てる面に斬れ味を増す魔力を付与する。高密度の魔力を掌の一部に圧縮し、研ぎ澄ましていく。そのままピーチタイフーンに迫り、横なぎに一閃した。魂を狩る死神のカマの如く、すべてを切り裂かんと迫る一撃。その名は!
魔王の理は『世界』すら裂く。ピーチタイフーンの認識する『世界』ごと切り裂き、存在そのものを絶たんとするチョップ。星すら砕く一撃をピーチタイフーンは真正面から受け止めた!
「これは……っ!」
「これを耐えるか。よほど強固な意志を持ち、如何なる苦難にも負けぬ肉体を持っているようだな。だがこれはどうだ?」
チョップの威力で後ろに下がったピーチタイフーンに重力魔法をかけるガルドバ。方向は下ではなく、自分の方に向けてだ。撃たれた鳥が落ちるように、ガルドバの方に引き寄せられるピーチタイフーン。ガルドバはピーチタイフーンが向かってくる先に、片足をあげた。そこに『落ちて』くるピーチタイフーンの顔!
カウンターハイキック! 巨躯な選手が使えばビックブーツと言われる技。かつて
向かってくる敵に向かって片足立ちでキックを合わせる。言葉にすれば簡単に聞こえて、それを実践するための体幹やバランス感覚はかなりのものだ。歪んだ体制で放ったキックは十分な威力を発揮せず、むしろ片足立ちゆえに自分が転倒しかねない。
しかし、ガルドバはそのような無様は犯さない。まっすぐに立ち、地面の力をきちんと蹴り足に乗せてピーチタイフーンに叩き付ける。そのまま倒れたピーチタイフーンに、ストッピングを忘れない。
「これで終わりとさせてもらおう」
倒れたピーチタイフーンを起こして前かがみの状態にして脇で頭部を押さえる。そのまま相手の頬を腕でロック! ピーチタイフーンの首を90度曲げ、頚椎を締め上げた。フロント・ネックロック! いや、これで終わらない!
その状態のままガルドバは体を背面に逸らし、ピーチタイフーンの頸椎を痛めたまま引っ張り上げた! そのままピーチタイフーンを背中から地面に叩きつける! フロント・ネックチャンスリー・ドロップ!
闘魂を注入するレスラーの必殺ドライバー! あるいは虎の仮面をかぶったレスラーのタイガー・ネックチャンスリーの再臨だ! 極めたまま、そこを起点に投げる! 描く円弧は低いけど、技術と衝撃はまさに必殺の一撃! ピーチタイフーンの全身と、そして首に走る激しいダメージ!
「……っ!」
「悲鳴を上げる気力も失ったか。だが指一つ動かせまい。そのまま敗北のカウントを刻め」
ガルドバは激しく呼吸するピーチタイフーンに迫り、そのまま肩を抑え込む。フォール。このまま3カウントを刻まれれば、ピーチタイフーンは敗北してしまう!
「遠距離から魔法を打つ先ほどまでの戦い方とは、大違いだな」
フォールされた状態で呼吸を整えながら、ピーチタイフーンはガルドバに話しかける。
「言っただろう。バカをやってみたいと。しかし気持ちがいいものだな」
「そのうち、忘れられなくなる。それが新しい事への挑戦だ。最適解ではない、だけど新たな可能性を見いだせる冒険だ」
言って笑みを浮かべるピーチタイフーン。その笑みを見てガルドバがどう思ったかは、当人さえも分からない。なぜなら、押さえつけているピーチタイフーンがブリッジし、フォールを跳ね返そうとしているからだ。
「まだ、動けるか……!」
「当然! レスラーの訓練を、侮るな……!」
抑え込もうとするガルドバ。重力の負荷をかけ、眠りと麻痺と行動速度低下のバッドステータスをピーチタイフーンに仕掛け――しかしそこまでしてもレスラーの鍛錬を上回ることはなかった。バネが跳ね上がるように、押さえられた肩を跳ね返す!
「おおおおおおおおおおお……!」
叫ぶピーチタイフーン。叫ぶことで体中にある最後の力を集めていく。痛む体、軋む骨。その悲鳴を受け入れ、そしてまだ大丈夫と信じて。
「
それは魂を乗せた一撃。
「これが! ピーチタイフーンの! 尻技だ!」
言って助走と同時に背を向け、体を「つ」の形にして跳躍。そのままガルドバに臀部をぶつける! ピーチタイフーンの形のいいお尻を電光石火でぶつけるヒップアタック! 超高速でぶつけられるお尻を受け、ガルドバは地面に倒れた!
「この程度では、
言って起き上がろうとするガルドバの視界は、ピーチタイフーンのお尻に支配された。ヒップアタックからのヒップドロップ! ヒップアタックの着地と同時に跳躍し、お尻をぶつける連続攻撃だ!
「これが私の全身全霊! すべての力を、このお尻に乗せる!」
尻×尻! 尻弾で相手を倒し、尻圧で相手をつぶすと同時にフォールに入る、まさに美尻コンボ! 尻の横攻撃と尻の縦攻撃! 尻の十字架が、魔王ガルドバに突き刺さる。天より与えられた破滅的攻撃! 敗北と言う非業を相手に背負わせる十字架! その名も!
「ば、かな……!? この
1! ガルドバはピーチタイフーンのフォールを跳ね返そうと全身に魔力を籠める!
「我が尻に沈め、ガルドバ!」
2! ピーチタイフーンの魂が尻に乗る。ガルドバの魔力とピーチタイフーンの尻が拮抗する!
押し返す力、押さえつける力。ガルドバの象徴ともいえる魔力。ピーチタイフーンの象徴ともいえるお尻。その二つが真っ向から押し合う! 共に自分の最大の武器! 最も信頼できる存在!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「はああああああああああああああああああ!」
互いのストロングポイントがぶつかり合う!
もはやここまでくれば小細工など無意味!
自分自身をどこまで信じれるかが勝負!
ガルドバの超魔力が黒き奔流と化す!
ピーチタイフーンの尻が圧を増す!
超魔力が圧力を増して押し返す!
美尻に力がこもって押し返す!
勝つのは、魔王ガルドバか!
いやピーチタイフーンか!
魔力が桃尻を押し返す!
エルフ尻が押し返す!
魔力が圧力を増す!
尻に力がこもる!
魔が押す押す!
桃尻が圧す!
超魔力か!
お尻か!
3!
!
カンカンカーン!
魔王ガルドバに刻まれた3カウント! それと同時に高らかにゴングが鳴った!
ピーチタイフーンはフォールした状態のままこぶしを突き上げ、そのまま全精力を使い果たしたとばかりに倒れこんだ。意識を失い、脱力する。
「これが敗北か」
世界全ての理を理解し、失敗などするはずのないガルドバが自分に刻まれた敗北と言う文字に笑みを浮かべる。
「存外悪くないものだな。負けて広がる『世界』があるということか」
そう言って、ガルドバも意識を失った。
天地爆裂で崩壊した城跡の中、二人の戦士は共に笑みを浮べて大地に倒れていた――
★試合結果!
試合場所:魔王城→魔王城跡
試合時間:27分36秒
●ガルドバ (決め技:ピーチカタストロフ) ピーチタイフーン〇
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