魔法とは? 世界とは? 魔王とは!? 魔王ガルドバ、その圧倒的存在!
魔法とは何か。
魔とは人心を惑わす存在の意味もあるが、人知及ばぬ技法の意味もある。人間では届かない領域。それを為す技法だ。ヒトは単体では空を飛べず、大地に潜ることができない。はるか遠くを見ることも、天候を操ることもできない。
法とは掟や手順。裁判における基準でもあり、あらゆる存在のやり方だ。法則とはよく言ったもので、
すなわち魔法とは、人知及ばぬ技法の流れだ。何故太陽が存在し、何故空気が存在し、何故人は生きて死ぬのか。その全ての流れ。いわば世界そのものの流れと言っても過言ではない。
魔王とは、魔なる法の管理者。王が法を定めるのは当然のことで、魔王が魔法を定めるのもまた当然であった。世界そのものを律し、行きすぎぬように管理し、締め付けすぎないように解放し。すべて王のさじ加減で決まる。
さて、世界とは何か。
世界とは、そこに住む人間が把握できる領域を指す。世界とは概念的な者であり、観測する存在によって異なるのだ。自然あふれる島国。広い平原。戦火あふれる大陸。青く丸い球体。巨大な宇宙戦艦。無限に広がる大宇宙……。
観測する存在の数だけ『世界』は存在する。自分が知る世界は観測者によっては未知の存在であり、観測者によっては自分の知る世界の一部でしかない。井の中の蛙大海を知らず。そう見下している者もまた、井の中なのかもしれない。
ガルドバが知る『世界』は、そう言った認識する世界が数多集まる空間だ。たとえるなら図書館。観測される『世界』の数だけ本が存在し、その中にはその観測者の足跡が描かれているのだ。
デラギアの『
それがガルドバの『魔法』。ガルドバが認識できる『世界』を繰り、人知及ばぬ法を律する力だ。
今滅ぼした者たちは数多ある本棚の一列程度。ガルドバが認識する『世界』は他にもある。『科学』と呼ばれる法則が発展した世界。知的生物が目覚めず、獣が支配する世界。極寒の中、蒸気機関の熱を寄る辺に生きる者たちの世界。機械生命体だけの世界。
それを『異世界』と称する者もいるが、それはガルドバにとってはどうでもいいことだ。他者の呼称などどうでもいい。ガルドバにとってはその全てが『世界』なのだ。
ガルドバの認識する世界。ガルドバの魔法は、自らの世界全ての流れを理解し、自らの者にすることができる。その気になれば本棚そのものを破壊し、多くの『世界』を無に帰すことも造作もない。また『世界』そのものの力が増せば、その分魔法の力も増すのだ。
そんなガルドバが思いついたのは、強い存在を育てることだった。それは力が増すという意味あいよりも、自らが知らない強さを持つ存在を知りたいという知的欲求が強い。ガルドバは手近な本棚に近づき、そこにある『世界』に干渉してその価値観を刺激する。
数多の干渉を繰り返し、最も効率がいいのは戦争を起こすことだと判断する。追い込まれた生命は時にとんでもない発想をする。潜在能力が開花し、思わぬ逸材が生まれることがある。
発展が成功した世界には『神』ともいえる自らの分身を置き、管理させる。時折自分自身ともいえる神が思わぬ発想や失態をすることもあるが、それもまた『世界』に影響されたものだと苦笑した。イギュリを送った『女神』などがその好例だ。
そして今ガルドバが滅ぼしたのは発展が行き詰った世界だ。そのため不要なものを排除し、可能性のある存在を敷いて再構築させる。間引きするように数多の命を削り、リフレッシュした土壌で別の可能性を見出したに過ぎない。
「理解したようだな、ピーチタイフーン」
ピーチタイフーンはガルドバのエピソードを知り、そして魔王はピーチタイフーンがそれを知ったことを感知した。
「貴様もまた
「なんと……」
ガルドバの存在にピーチタイフーンは衝撃を受けたように声をあげる。
「素晴らしい!」
そして笑みを浮かべた。そこに圧倒的な相手を前にした絶望はない。むしろ新たな発見をしたかのような喜びの感情があった。
「素晴らしい、だと?」
「ああ、素晴らしいではないか。世界は広い。私が認識していた世界はエルフの里と魔国、それを取り巻く大陸だけだ。だがそれ以外の世界が存在するだなんて、驚きと共に喚起する。井の中の蛙大海を知らずとはよく言ったものだ。
そこにはどんな強者がいて、どんな戦いができるのか。それを想像するだけで胸が高まる!」
何たる発想! しかし、これこそがレスラー!
未知を知り、新たな世界を知り、恐怖と不安におびえるよりも先に当たらな戦いに心躍らせる。もっと戦いを、もっと戦いを! 最強に至るために戦い続けるのがレスラーなのだ!
「蛮勇だな。だがその精神が強さを生んだのなら馬鹿にはできん。
いいだろう。様々な『世界』に干渉し、そこにいる強者共と戦ってくるがいい。世界を渡る力くれてやろう」
「感謝する。だがその前にガルドバ、貴様を倒す」
ガルドバの言葉に感謝をするが、拳を納めるつもりはない。その瞳が、その拳が、その体が、言葉よりも雄弁に闘志を告げていた。
「今の話を聞いて、なお
ガルドバは言って鼻を鳴らす。今ピーチタイフーンの目の前にいるガルドバは、疑似的な
「だからどうした。圧倒的な力の差を持つモノを相手にすることなど、レスラーなら日常茶飯事だ」
「この分身を倒したところで、
「無傷ではないのだろう? ならば意味がある」
わずかでも相手を疲弊させることができるのなら、意味がある。その蓄積がいずれ相手を倒せるのなら。
「いいだろう。貴様が満足するまで戦ってやる。
「感謝する。だが遊びで火傷することがあることを忘れるな」
「火傷できるほど貴様が熱ければ楽しめるというものだ。その言葉を実現できればいいのだがな」
そして魔王とピーチタイフーンはぶつかり合う。
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